前橋文学館その2
2階に常設の萩原朔太郎展示室がある。入り口近くに朔太郎のギターが展示されている。音楽、家族、作品などテーマ別に展示があるが、楽しかったのが「詩のステージ」。イメージビデオと岸田今日子さん、幸田弘子さんらによる朔太郎の詩の朗読がある。24作品を読まずに楽しめるのがいい。
圧巻は朔太郎自らの朗読。「乃木坂倶楽部」を読む朔太郎の肉声は、奥田民生の玉音放送のようだった(笑)。
十二月また来たれり。
なんぞこの冬の寒きや。
去年はアパートの五階に住み
荒漠たる洋室の中
壁に寝台(べつど)を寄せてさびしく眠れり。
わが思惟するものは何ぞや
すでに人生の虚妄に疲れて
今も尚(なお)家畜の如くに飢えたるかな。
我れは何物をも喪失せず
また一切を失ひ尽くせり。
いかなれば追はるる如く
歳暮の忙がしき街を憂い迷ひて
昼もなお酒場の椅子(いす)に酔はむとするぞ。
虚空を翔(か)け行く鳥の如く
情緒もまた久しき過去に消え去るべし。
十二月また来たれり
なんぞこの冬の寒さや。
訪(と)ふものは扉(どあ)を叩(の)つくし
われの懶惰(らんだ)を見て憐れみ去れども
石炭もなく暖炉もなく
白堊(はくあ)の荒漠たる洋室の中
我れひとり寝台(べつど)に醒めて
白昼(ひる)もなお熊の如くに眠れるなり。
「氷島」(昭和9年)に収められている作品。晩年は文語に戻っている。
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