
新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に
小林弘人著『新世紀メディア論――新聞・雑誌が死ぬ前に』(バジリコ)を読んだ。
『2011年新聞・テレビ消滅』 (佐々木 俊尚著、文春新書)、『新聞・TVが消える日』 (猪熊 建夫著、集英社新書)など、最近、マスメディアの苦境をテーマとする本が多い。
本書もそうした内容かと思って読んだが、現在の新聞、雑誌の問題点を指摘する記述はそれほど多くなく、むしろこれら紙メディアの生き残り策の提言に多くの紙数を割いている。
著者の小林弘人氏は1994年、雑誌「WIRED(ワイアード)」の日本語版を創刊、編集長を務めた。2007年には、全米で人気のブログメディア「ギズモード」の日本版「ギズモード・ジャパン」を立ち上げた。現在、株式会社インフォバーン代表取締役CEO。1998年より数多くのウェブメディア、ポータルサイト、ネット上のプロモーションサイト制作やプロデュースに携わっている。
こうした経験から、「新聞的・雑誌的なものが進化したもの」としてウェブメディアをとらえ、どうすれば、進化の形(ウェブ出版)が可能かを具体的にアドバイスしている。
「ネットで既存のメディアが出遅れている最大の原因は、技術や人的リソースなどの要因ではなく、『やる気』の問題」と指摘。こうした「その地位の上にあぐらをかいて、ぼんやりしている」企業が得意とする領域こそが、新しいウェブビジネスのターゲットになるという。
ネットビジネスを成功させるためには、かつて雑誌の編集者が持っていた「熱さ」を注ぐことが必要とする。
「ネット進出というテーマは、多くのマスメディアにとって、『新たにカネにもならない流通経路が増えたよ、やれやれ』ということではありません。『事業の継承および、イノベーション(革新)による価値と利益向上、もしくはコアビジネスの新たな展開』という直面すべき経営課題であり、『本質とは何か?』を問う難問なのです」。
ネットメディアの台頭で既存メディアとの役割分担も変わってくる。
「これからは、電子媒体だからフローが高いというわけではなく、行動属性にあわせて、メディアはその情報特性も変えていくように推移していくのではないか・・・この場合の行動属性による差別化とは、たとえば、紙の新聞は通勤に携行し、カフェでコーヒーを飲みながら読んだりするものだから、そちらを“ブラウジング”させ、字数を少なくする。そして、オフィスや自宅でPCを起動したときには、“じっくり”とウェブページを読ませるという情報設計の『つくり分け』にあるでしょう」。
「今後は行動属性別にメディア設計することで、コンテンツ・ホルダーやパブリッシャーは、ワンソース・マルチユースならぬ、ワンメディア・エニイタイム・エニイプレイスを目指すことでしょう」。
ユーザーを主体にどんなメディアを組み合わせれば、ユーザーが満足するかを考えることが大切になる。
「メディア企業の可能性は、『自ら編んだ情報を伝えたい』という編集者の欲求を満たすためのみに存在するのではなく、そこから先の『情報によって、つながった人たち』の欲求を満たすために、何をすべきかを考え、立体的にサービスを提供できるよう価値転換をはかるところにカギがあります」。
「ひとつのメディアから、リアルであれ、バーチャルであれ、特性の違うメディアを繋げ、しかし、どのメディアにおいてもユーザーがロイヤリティを感じるブランデッド・メディアを築くことが、次代のメディア・クリエイティビティではないか」。
「『雑誌の本質はその形に非ず』なのです。本質は『コミュニティを生み出す力』なのだと考えています」。
「いまの紙メディアに欠けているのは、当初に備えていたであろうベンチャー精神だと思います。それが制度となり、エスタブリッシュ化されてしまうと、精神や気迫よりも、いかにそれを維持するかという手段が目的化しがちです」
形を変えてもメディアづくりの精神さえ失わなければ、「紙の時代から綿々と続く最良のDNAを継承できるものと信じています」と著者は結んでいる。
もっともこの本で紹介されているウェブは必ずしも勢いを感じさせるものばかりではない。本当に力のある新世紀メディアの誕生はこらからなのだろう。
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