【オピニオン】新技術はジャーナリズムの脅威ではない=マードック氏 - The Wall Street Journal, Japan Online Edition
【オピニオン】新技術はジャーナリズムの脅威ではない=マードック氏- The Wall Street Journal, Japan Online Editionを読んだ。ルパート・マードック:ニューズ・コーポレーション会長兼最高経営責任者が、米連邦通信委員会主催のジャーナリズムとインターネットに関する研究会で行った講演に基づく寄稿だという。
11月24日付日経に「ニューズとマイクロソフト 記事検索で提携交渉 グーグルに対抗」という記事が出ていた。「MSに、ニューズ傘下の米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)などのコンテンツを優先的に確保し、ライバルであるグーグルとの違いを打ち出す狙いがある」らしい。
Googleなどネットメディアの台頭に脅威を感じた既存メディアの対抗策ということで、注目したが、そのマードック氏が、「ジャーナリズムが死に体なのは、デジタルメディアの勝利が原因だとの声が聞かれるのもうなずける。しかし、私の意見はその逆だ。ジャーナリズムの将来はかつてないほど明るいものだ」という。そして、「ジャーナリズムの可能性が限定されるのは、読者や視聴者のために闘う意志に欠ける編集者やプロデューサー、またはジャーナリズム業界に対し過剰な規制や助成よって締め付けようとする政府によってのみである」と主張するのだ。
彼は政府の支援を求める立場かと思っていた。
11月9日付のIT PLUS・岸博幸の「メディア業界」改造計画(リンクは日経電子版創刊後、なくなってしまった)に「ジャーナリズム維持に動き出したドイツ」というリポートが出ていた。「米国での報道によると、ドイツのメルケル政権は、ネットの普及で収益が悪化している新聞社や雑誌社を保護する方策の検討を始めた。まだ問題提起のレベルのようであり、詳細は明らかになっていないが、著作権法を改正して新聞・雑誌などの出版社に著作権法上の隣接権的な権利を付与し、ネット上で記事にリンクを張って収益を上げているグーグルなどのネット企業との競争条件を公平にして、ジャーナリズムを守ることが目的のようである」という。フランスでも、「18歳の国民が1年間無料で新聞を購読できるようにするなど、政府が新聞社に対して直接的な補助を行おうとしている」らしい。
こうした動きに対し、そんなものは無用、というマードック氏。
「デジタル時代の現実に適応できない報道機関は消え去ることになるだろう。それを技術のせいにすることは出来ない。視聴者や読者のニーズにより良く応える方法を模索する果敢な報道機関のみが繁栄を続けることになる」。
「我々が生きる現代社会は、当時よりスピードが速く、複雑化している。だが、根本的な真実は変わらない。情報に基づいた決定を下すには、人々は自分たちの国や生活に影響を及ぼす事柄について公正で信頼できるニュースが必要なのだ。未来の新聞が電子的に届けられようと紙媒体のままであろうと、それほど重要なことではない。重要なのは、報道業界の自由と独立、そして競争が維持されることである」。
極めて正論だと思うが、その後が、実は本題だ。
オンライン広告に頼るビジネスモデルが限界に来ていること。ネットのプラットフォーム企業が「タダ乗り」をしているという批判だ。これによりネット課金を正当化する。
「広告収入に基づく旧来のビジネスモデルはもはや機能しない。主にオンライン広告に頼るビジネスモデルでは、長期にわたって新聞を維持し続けることはできない。理由は単に、数字の問題だ。オンライン広告は増加してきているものの、活字広告の損失額のほんの一部に相当するだけだ」。
「新しいビジネスモデルでは、ニューズ社のサイトで提供するニュースは消費者に課金していくことになる。人々はニュースに金は払わない、と批判する向きもいる。だが、私はそう思わない。ただし、それは良質で使用価値のあるニュースを提供した場合の話だ。我々の顧客は、ただほど高いものはないと重々承知している」。
「このことは、オンライン上の『ライバル』にも言えることだ。しかし、一銭たりとも払わず自らの目的のためにニューズ社のニュース・コンテンツを利用する権利があると考えている者がいる」「このような人々は、ジャーナリズムに投資しているわけではない。彼らは、ジャーナリストの労をいとわない努力や投資に『タダ乗り』しているも同然だ。彼らがニューズ社のニュース記事を不正に利用することは、『公正な利用』ではない。言葉は悪いが、泥棒だ」。
「今現在は、コンテンツクリエイターが全てのコストを負担する一方で、インターネット検索大手は多くの恩恵を享受するという構図になっている。長期的にみて、このようなあり方は受け入れ難い。我々は様々な課金モデルを検討している。原理原則は明らかだ。著名なエコノミストの言葉を借りれば、無料のニュース記事などないということであり、我々が提供する価値に見合う公正かつ適切な金額を得られるようにするつもりだ」。
政府による支援を受けることはマスメディアの自殺行為であるということ。そして、ネット課金によりジャーナリズムを維持するしかなく、良質のジャーナリズムは「無料経済」の中では生まれないことを理解してほしいという主張。新聞ジャーナリズムの転機となる寄稿だと思う。
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Comments
社にいる人は社を守ることで頭がいっぱいになっちゃうのかもしれないけれども、ぼくのようなフリーだと、もっと根源的な部分まで突き詰めて考え、行動せざるをえません。雑誌や新聞ではなく、単行本にシフトしようとしてきたのもそのためですが、うまくいくかなあ。自分が自由で独立した存在であるためにね。
Posted by: さいのめ | 2009.12.16 09:01 PM