上坂徹著『600万人の女性に支持される「クックパッド」というビジネス』(角川SSC新書)
上坂徹著『600万人の女性に支持される「クックパッド」というビジネス』(角川SSC新書)を読んだ。
「月間で訪れるユーザーが、616万人(2009年3月現在)」という料理サイト「クックパッド」の成功の秘密を紹介した本だ。
600万人の女性に支持される「クックパッド」というビジネス
YahooやGoogleなどのポータルサイト、Amazon、楽天などのEC(電子商取引)サイトが話題になっても、こうした専門サイトが話題になることはあまりない。
けれども、女性の心をうまくつかむと大きなビジネスになるのは雑誌の世界でも証明済み。たとえば『すてきな奥さん』(主婦と生活社)という雑誌は、主婦の節約の工夫を数多く取り上げてブレークした。クックパッドは、『すてきな奥さん』のような、主婦パワーを生かしたサイトなのではないかと思って読んでみた。
クックパッドの創業者は慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス出身の佐野陽光氏。
ユーザーの使い勝手を重視した作り。肉じゃがだけで2000近いレシピがあるというレシピの充実度。「先進的な技術を徹底的に活用」している点などが紹介されるが、クックパッドのビジネスが軌道に乗ったのはこうしたユーザー本位のサイト作りで集めた多くのユーザーと広告・マーケティングが結びついてからだ。
そのあたりについて書いている第四章「広告を見た人から『ありがとう』といわれるサイト」が面白かった。
「1998年、月額500円の有料サービスとしてスタート」、「開始2ヵ月で実際にお金を払って利用してくれるユーザーは百数十人にものぼった」という。しかし、「佐野の事業計画から乖離していた」ということで、有料サービスとして継続することを断念、費用を返還する。
「まったく宣伝していないのに、ユーザーは数万人、数十万人」と急拡大していたが、「料理を楽しくすることがない、まったく料理と関係ない広告は、ユーザーのためにも入れてはいけないと思っていました」「メディア露出は絶対にしなかった。目立つようなこともしなかった。アクセスが増えてしまうからだ。アクセスが増えれば、サーバーがダウンしてしまう」。
多数のユーザーを集めて広告で稼ぐというのが一般的なウェブビジネスだが、まずは読者本位という部分は、雑誌の作り方に近い。ウェブは薄っぺらいコンテンツ、刹那的なコンテンツが多いという印象が強いが、クックパッドはしっかりしたコンテンツ作りがまずあったようだ。
「2004年に入り、ユーザーが100万人規模になる」が、まだビジネスとしては浮上していなかった。そこに広告業界に詳しい社員が入社してきて状況が一変する。
「エバラ焼き肉のたれシリーズ」。売り上げは「安定しているものの、大きな伸びが見られなくなりつつあった」。そこで、「クックパッドで、焼き肉のたれ自体を別の用途で使ってみる、というテーマで」レシピコンテストを実施。150件もののレシピの投稿があったという。
また、「年間2000台ほどの売れ行きだった」というパナソニックの「電気圧力鍋」。クックパッドユーザーに使ってもらいレポートしてもらったところ、大反響となり、「年間販売台数が、一気になんと26倍の5万5000台に伸びた」。
さらに、クックパッドは「たべみる」という名称でクックパッド616万人ユーザーが、日々行っている検索のデータを法人向けに販売している。こうしてビジネスが軌道に乗ってきたという。
真面目にユーザーを拡大してきたため、ユーザーがマーケティングの大きな力になっているのだ。ウェブは広告モデルか有料課金モデルかが議論されることが多いが、有料課金でも人が集まるようなコンテンツを提供し、集めたユーザーを広告だけでなくあらゆるマーケティング手法に活用する、というのがこれからのビジネスの形なのかもしれない。
佐野氏は「レシピが親世代から伝承されていない」ことを指摘する。『すてきな奥さん』も親世代から伝承されていない家事の知恵を奥さん同士の口コミで補う形で成功した。
そういえば、今、公開されている「ジュリー&ジュリア」も、ブログでの50年前の料理レシピを生き返らせるというストーリーの映画だ(メリル・ストリープ主演、ノーラ・エフロン監督。アメリカの食卓にフランス料理の一大革命をもたらした、料理研究家ジュリア・チャイルドと、ジュリアに憧れてそのレシピのすべてをブログに綴った現代のOLジュリーを描いた作品)。
女性パワーの生かし方と、ウェブビジネスの方向性を示してくれる本だった。
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