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水野和夫著『金融大崩壊~「アメリカ金融帝国」の終焉』(NHK出版 生活人新書)

Kinyudaihokai
金融大崩壊―「アメリカ金融帝国」の終焉 (生活人新書)

 水野和夫著『金融大崩壊~「アメリカ金融帝国」の終焉』(NHK出版 生活人新書)を読んだ。
 アメリカのサブプライムローン問題に端を発した世界金融危機や「アメリカ金融帝国」終焉以降の世界がどうなるかをわかりやすく解説した良書だ。
 
 「16世紀に誕生した資本主義では、資本と国家と国民の三者の利害が、根本のところで一致」していたが、「サブプライムローン問題は、資本が国家と国民に対して離縁状を叩きつけた象徴的な出来事」と水野氏は言う。
 企業が経済活動を活発に行えば、政府の税収が増える。そして、税収を使って福祉政策を拡充していけば、国民はより幸せに暮らすことができるが、「サブプライムローンがつくられ、その証券化商品を売り買いしていた投資家たちは、自分たちの行為がアメリカの国家や国民にとって役に立つよいこととは思っていなかった」と思われるからだ。狙ったのは「利潤の極大化」。そのために、「信用度の低い人たちにも住宅を買ってもらい、なおかつそれがリスクにならないような仕掛け」を考えたのだ。

 そして、資本と国家と国民の三位一体の関係を断ち切ることは、「いままでの資本主義の終わりを象徴する出来事」だと言う。
 「資本主義はそもそもが、常に外へ外へと市場を拡大しないと成長できないというモデルです」。しかし、「75年のサイゴン陥落で、事実上、世界最強の軍事大国が敗北したことによって、膨張主義による資本拡大の時代は終わったのです」。
 「そこで1970年代半ばになって登場するのが、新自由主義」。「市場が決めることは正しい、政府よりも市場のほうが正しい資本配分ができる。だから政府の介入を極力小さくするべきだ」という考え方だ。
 「これはつまり、福祉国家を目指すのをやめるということにほかなりません。そして、労働分配率を下げ、資本側のリターンを増やしていこうとしたわけです」「これが、80年代のロナルド・レーガン大統領の経済政策『レーガノミックス』の基本的な考え方になりました」。
 「レーガン大統領は新自由主義の政策とともに、ソビエトに対しては軍拡競争を展開します。それが一因となって、91年にはソビエトが崩壊し、計画経済を実施していた東側諸国が資本主義の世界市場に取り込まれ、新たなマーケットが一気に広がります」。
 「95年に就任したルービン財務長官が強いドルに方向転換すると、アメリカは経常収支の赤字額を上回る資金を世界中から集めて、それを再び世界へと配分していくようになりました」「このマネー集中一括管理システム」により、アメリカは『アメリカ投資銀行株式会社』となり、『アメリカ金融帝国』となったのです」。
 長い引用になったが、新自由主義とアメリカ金融帝国の誕生について、よく分かるまとめだ。

 さらに、「IT革命はインターネットの拡充によって、世界の情報格差を小さくし、先進国と新興国の市場を一本化させることになりました」「こうして新自由主義の全盛時代が始まり、外国からの対米直接投資が急増していきます」「キャピタルゲインによるリターンを狙う投資先は、市場が整備された先進国中心となり、途上国に対しては実物投資によるリターンを狙うことになります」「その競争は借り入れた資金を右から左に動かして回転率を上げる、いわゆる『レバレッジ』をいかに高めるかという競争になってきました」。

 この間、日本は何をしていたのだろう。
 「バブル崩壊の後遺症とその教訓があり、世界の金融資産の拡大競争には消極的でした。むしろ政策としては、デフレ脱却のためにマネーサプライ(通貨供給量)を増やす方向を選びました」。
 「マネーサプライを増やすために、日銀は99年2月から2000年8月までゼロ金利政策をとり、01年3月から06年3月まで量的金融緩和政策へ移行し、実質的にゼロ金利が続いていきます」「そして、それはほとんど効果をあげませんでした」「むしろ喜んだのは海外の投資家たちで、日本では金利がゼロで資金を調達できるということで、日本から海外へお金が流れ出ていきます」。「日本のとった政策は『オウンゴール』と呼ぶことができると思います」。

 世界金融危機の第一段階は「リーマン・ショック」まで。第二段階は「アメリカの金融業界に起きた大きな変化でした。アメリカの5大投資銀行のうち、破綻したリーマン・ブラザーズを除く残り4つの投資銀行は商業銀行に業態を変え、存続を図りました」。
 第三段階は実体経済への影響の拡大だ。「過剰借り入れの是正プロセスで起きるのは耐久消費財、とりわけローンで購入する割合が高い自動車販売の減少です」。
 アメリカの過剰債務は「07年末時点で3兆8000億ドルです。・・・そのうち約1兆3000億ドルが不良債権ですから、それは返済できないものとしてカウントしないとすると、残りの2兆5000億円ドルをアメリカ国民は消費を落としながら貯蓄率を上げ、その貯蓄で返していくことになります」「それには丸々5年はかかるでしょう」「もやは、アメリカは個人消費主導の景気回復はできなくなったといえます」。
 
 「アメリカ金融帝国」は終焉したわけだが、その後の世界はどうなるか。「もっとも大きい変化は、強いドルの終わりです」「アメリカは外国人が国債を購入しないと、景気対策も金融安定化対策も事実上できなくなってしまいました」「国債の発行のたびに、ドルが下落していく可能性がもっとも高いでしょう」。
 今後、「資本の向かう先の第一候補は、30億人が近代化し、中産階級が形成されようとしているBRICsなどでしょう。次に考えられるのが、脱化石エネルギーへの投資です」。

 アメリカが「アメリカ投資銀行株式会社」なら日本は「日本輸出株式会社」。この二つは“連結会社”なので、アメリカ金融帝国の終焉は日本にとっても「戦後もっとも深刻な事態」と投資家に見られている。
 水野氏は「『日本輸出株式会社』の内実は『日本先進国向け大企業輸出株式会社』だったわけですが、これからは規模の大小を問わず『日本新興国向け企業株式会社』として、進むべき道を模索していく必要がある」と提案する。

 根拠となる事実や数字を明確にして行う水野氏の現状分析や今後の予測は信頼できる。とても勉強になった。

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