日経コミュニケーション編『NTTの深謀』(日経BP社)その2
日経コミュニケーションはNTTに関する多くの本を出している。宗像誠之(日経コミュニケーション記者)著『NTTの自縛 知られざるNGN構想の裏側』、日経コミュニケーション編『2010年 NTT解体 知られざる通信戦争の真実』、同『風雲児たちが巻き起こす携帯電話崩壊の序曲 知られざる通信戦争の真実』、同『光回線を巡るNTT、KDDI、ソフトバンクの野望 知られざる通信戦争の真実』『知られざる通信戦争の真実 NTT、ソフトバンクの暗闘』などだ。
これらのいくつかを読んで「知られざる通信戦争の真実」を知ったのだが、今回の『NTTの深謀 知られざる通信再編成を巡る闘い』は、どちらかというと知られざる部分をえぐったというよりも、日本経済の新しいリーダーとしての自覚を持って通信業界を引っ張っていってほしいというNTTに対する強い願いが随所ににじみでていた。
NTTの深謀 知られざる通信再編成を巡る闘い
民主党政権になり、総務省は「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」を発足させた。国際競争力強化の視点を取り入れながらNTTの再々編が議論されることになるのだろう。
『NTTの深謀』はこのタイミングで読むのにぴったり本だと思った。
「勝ちすぎてはいけない特殊な企業――。それがNTTだ。莫大な利益を上げれば、もうけすぎと批判される。圧倒的なシェアを持てば、総務省からより厳しい規制をかけられる。だから、NTTグループは、自社のマイナス面を強調する不思議な企業になった」。
NTTグループが非常に恐れるのが「2010年問題」。NTTグループの組織問題については「2010年の時点で検討を行い、その後速やかに結論を得る」とする「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」があり、「NTTとしてはこの2010年問題をどう乗り切るかが最大の懸案になった」のだ。
その後、政権交代が起こり、加えて「NTTグループには追い風が吹いてる。今後の景気の行方を考えれば競合事業者が望むような『NTTの支配力を弱めよう』といった論調はトーンダウンが濃厚なのだ」。
それにもかかわらず、相変わらずNTTグループは組織防衛に走っていると本書はいう。
たとえばNTTグループの次世代の通信ネットワーク基盤「NGN」。規制回避やNGNサービスへの乗り換え回避など目先の都合を優先させてNGNをスモールスタートさせた」。この結果、「NGNという信頼性の高いインフラの上で、多くの事業者が成長を見込めるプラットフォーム事業を展開できる環境を実現」できずにいる。これが「日本経済全体にとっての損失につなが」っていると指摘する。
また、NTTの国際戦略は「日本企業向けの通信サービスを拡充する」ことにとどまっている。「海外展開は現地で大きな収益を上げるためではなく、国内市場での競争を優位に展開するための手段でしかない」。本書は黒川和美法政大学大学院教授の次のようなコメントを引用して、国際戦略の必要性を強調する。「余力があれば海外に進出するなどして、組織の規模に見合った収益力を付けてほしい。国際的な競争力を意識すれば生産性の向上にもつながります。国内だけに閉じて小さな市場でぬるい競争をしているだけでは、いつまで経っても生産性は高まらないんです。その結果ユーザーは高い料金を支払い続けなければなりません。海外進出は、日本全体にとっても利益になるのです」。
NTTの再々編について本書は「ある業界関係者」の言葉を借りて、予想する。「同氏によると、通信サービスのレイヤー(通信レイヤー)と、コンテンツ・アプリケーションを含めたプラットフォーム以上の上位レイヤーでグループを分けるのではないかという。地域、長距離・国際、移動という現在の縦割りの構造を、通信レイヤーと上位レイヤーの横割りにするわけだ。なぜならIP化の進展で構造変化が起こっているから。電話中心の現在の分け方が時代遅れなのは明らかである」「上位レイヤー単独で切り離せている方が海外展開もしやすくなる」。
本書は「今こそNTTグループは、自社の都合を優先させるために深謀をめぐらせるのではなく、自ら描く通信業界のグランドデザインを世に問うべきでないか。成長を望める上位レイヤーにどのような体制で臨むのか、NGNと代替わりする固定インフラでは今後も、加入電話時代の開放政策を甘んじて受け続けるのか。このような通信業界全体の将来を左右するテーマについて、NTTグループとして考える立ち位置を明らかにしてほしい」と結ぶ。
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