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銀座すし栄(東京都・銀座、寿司)

 創業約160年、現存する最古の江戸前寿司の店、銀座すし栄(東京都中央区銀座7-13-2、03・3541・5055)に行った。
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 いろいろ質問をしたところ、女将さんに、すし栄の歴史を書いた『江戸っ子神田っ子―かたろう物語』(森田雅子著、錦正社、昭和50年3月22日発行)をいただいた。江戸末期から昭和に至る当時の庶民の暮らしぶりや街の様子なども分かるいい本だった。
 それによると――。
 嘉永年間(1848~1854年)、神田旅籠町(外神田)にすし店を開業。神田川の北側が外神田。神田川に入る廻船が米や雑貨を運んできて、武家屋敷の並ぶ内神田の外側に商人の町が開けた。
 初代は倉田栄蔵。表通りに出てから商売繁盛したが、長男金太郎がいっぱしのすし職人となると、遊びにいってしまうことが多かったという。料理人の世界に道楽はつきものだったらしい。しかし、金太郎は商売一筋の律儀者。すしに打ち込んで名人芸の職人になった。魚の仕入れも一目で見分けられた。
 金太郎は握りずしの元祖として有名な両国の華屋与兵衛のお座敷ずしを手本にした。神田名物になったすし栄には商店の旦那衆が息抜きにやってきて賑わった。ところが金太郎は健康を害し、行く末を案じて、長男の華太郎にすしを仕込んだ。
 悪童連を引き連れて遊び回るのも得意なら勉強もできた華太郎はすし店を継ぐつもりはなかったというが、金太郎が53歳で没すると、あとを継がざるを得なかった。
 しかし、継いでみて驚いた。父の病中、叔父が取り仕切っていたすし栄は借金まみれになっていた。
 「山のような借金をどうやって返したらいいか。一生かかっても返せる額ではないだろう」。華太郎は途方にくれた。
 華太郎を救ったのは第一次世界大戦だった。軍需関係の好景気で物価が上がり、すし栄は嘘のように儲かってくる。一人前二十銭も出せばおなか一杯食べられたすしが、七十銭になった。一生かかっても返せないと思った借金は三年で完済した。
 すし栄は大正10(1921)年には間口10間、奥2間半(一間は六尺=約1.818メートル)の大きな店となるが、大正12年の関東大震災で焼失した。神田は区内の90%が焼失したというが、すし栄は1週間後には掘立小屋で再開。年が明けると本建築に取り掛かり、震災後まっさきに立ちあがった店として神田商人の耳目を集めた。
 しかし、神田にかつての繁栄は戻らず、大正14年には銀座に店を出した。その10年後、銀座数寄屋橋通りの四つ角(現在のソニービルの角)に進出。この店が空前の大盛況となる。
 この銀座時代、華太郎はあらゆるすしを考案して新発売した。生ものの珍しいタネを考案したのはすし栄が初めだったという。明治末まで、すしのタネは全部、火を通した。魚、貝類もさっと湯にくぐらせる、煮付ける、醤油か酢につける保存食だった。
 すし栄には武者小路実篤、宮本百合子、岡本かの子らの作家をはじめ、佐野周二(俳優)、中村メイコ(女優)ら有名人が次々訪れた。漫画家の横山隆一も常連で、のちに、すし栄のマーク(三代目華太郎がマグロをほおばって笑っている姿)をデザインした。
 昭和12(1937)年に始まった日中戦争あたりから軍需優先で物資が不足してきた。華太郎は多難な時代に備え、業界団体をつくった。物資の統制が始まってからは指導的な役割を果たした。
 警視庁からすし業界に「市内凡そ三千店のうち千店を廃業せよ」との通告がくると「無力な者から切って長たる自分が永らえるのは罪」と昭和19年に店を閉じ、組合長を辞した。
 その後、空襲で、すし栄は数寄屋橋店のほか、弟が経営する三原橋店、三男が経営する神田の総本店のすべてが焼失した。
 再建は昭和23年になってから。木挽町に25坪の家を買い、加工ずし(客が持参の米と交換につくるすし)を売った。昭和24年、株式会社すし栄発足。昭和28年にテレビ(NHK、日本テレビ)が開局すると、新し好きの華太郎はいち早くラジオとテレビですし栄のCMを流し、31年には日本テレビの料理番組のすし講座に出演した。
 昭和44年には、創業120年を機に、店を7階建てのビルディングに改築した。
 昭和50年時点で、外神田三丁目を総本店、銀座七丁目を本店とするすし栄は、19店のチェーン店を持つまでになった――。
 160年の歴史を見ると、山あり谷あり。並大抵のことでは続けられないことが分かった。

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 カウンター席に座った。

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 突き出しはあん肝。

 お品書き――。
 江戸前にぎり寿司
上         3150円
特         4200円
特上        5250円

ばらちらし
上         3150円
特         4200円
特上        5250円

板長おすすめ  3675円
 にぎり寿司八貫、かんぴょう巻、更にお好きなネタのにぎり寿司を二貫お付けします。

上鉄火丼     3675円

穴子尽くし    2625円
江戸前穴子にぎり寿司三種(煮穴子、白焼き、酒蒸し)各二貫、穴子きゅうり巻

嘉永寿司
 嘉永元年創業当時の江戸前寿司を現代風にアレンジしました。

特選嘉永寿司 4200円
づけまぐろ、小肌、白身昆布〆、煮穴子、蒸しあわび、姿巻海老、かんぴょう巻

特上嘉永寿司 5250円
特選嘉永寿司に、自家製玉子焼、煮はまぐり、蒸たこをお付けします。
お召し上がりのお客様には、お漬物、お椀、果物をお付けいたします。
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 創業当時の江戸前寿司を体験できる特上嘉永寿司を頼んだ。
 新鮮なネタもいいが、酢〆、ボイル、煮もの・・・と手の込んだ寿司は逆に新鮮(体験として)で、おいしかった。
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 果物とゼリー。

<営業時間>
本店1階
月曜日~金曜日 午前11時30分~午後10時。
土曜日 午前11時30分~午後9時。
日曜日休み。

本店2階
月曜日~金曜日 午前11時半~午後2時、午後5時~午後11時。
土曜日、日曜日、祝日休み。

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Comments

う、なんか妙に興味がある・・・。

Posted by: さいのめ | 2010.01.12 03:48 AM

すし栄に関しては公式ブログより詳しいよ(^^ゞ

Posted by: フーテンの中 | 2010.01.12 04:31 AM

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