次代の3D演劇『ME モリイズ オブ YOU』(プロデュース・演出・音楽 加藤多聞)
演劇『ME モリイズ オブ YOU』(プロデュース・演出・音楽 加藤多聞)を観た。1時間40分、役者と同じ空間を共有する、刺激的な体験だった。
新人脚本家をめぐる悲喜劇。細部にリアリティのある脚本と役者の名演で、芝居の中に引き込まれた。
小劇場は80年代後半に、よく見た。新宿梁山泊、第三舞台、夢の遊眠社、遊◎機械/全自動シアターなど、いろいろな劇を見たが、今回のような仕掛けの演劇は見たことがない。映画も本格的な3D映画が登場、その中に入り込むような感覚が強まったが、今日の演劇は3D演劇とも呼べる臨場感があった。
会場は、「千駄木344スタジオ」( 東京都文京区千駄木3-44-9 パレ・ドール千駄木 II B105)。
これまでに3月12-14、19-20日に上演。3月21日、26-28日にも上演する。
メールでの予約は、多聞企画のアドレスへ。
tamon.kikaku@gmail.com
※以下ネタバレの部分もありますので、ここからは、これから演劇をお楽しみになる方は、読まないでください。
会場の「千駄木344スタジオ」1階は 菓子工房まある。スタジオは地下で、注意しないと気づかないような場所だった。
会場に入って驚いた。机と椅子があるだけ。観客席がその周りを囲む。観客席と舞台が一体なのだ。
チケットは2000円。これだけの観客では採算が合わないのではとちょっと心配になったが、観客にとっては、ありがたい。
こんな贅沢な空間で演劇を見られることはめったにない。開演が待ち遠しかった。
※以下完全にネタバレなので、これから演劇をお楽しみになる方は、本当にここまでにしてくださいね(汗)。
舞台はテレビドラマの制作会社の企画会議室。深夜枠の連続ドラマを受注したものの、予定していた脚本家が入院し、急きょ、この制作会社はディレクター、江里(天川紗織)の後輩の脚本家、春田道雄(土屋卓也)に白羽の矢を立てる。
会議の前に、ディレクターの一人に好きな映画を聞かれ、春田は迷いなく「小津安二郎」と答える。
ディレクターは米国のCGをふんだんに使った映画が好きだと言う。
ちょっと嫌な予感が頭をよぎるが、春田は制作会社社長の大川美登里(小林寧子YASKO)がホワイトボードの前で語る、作りたいドラマ像に共感を覚える。
「日本のドラマの地位が落ちているのは企画力低下が原因」「オリジナルドラマではなく、安易に人気漫画の焼き直しばかり作っているからだめなのだ」「オリジナルドラマを作りたい」。
話が具体的になると、雲行きが怪しくなる。
「キャンディキャンディって知ってる?」。
「20世紀初頭のアメリカ中西部を舞台に、明るく前向きな孤児の少女キャンディが、成長する過程を描くドラマよ」。「それを現代に置き換え、主人公が立派なage嬢に成長するサクセス&ラブストーリーを書いてほしいの」。
キャバ嬢の教科書と言われる「小悪魔ageage」を見せられ、愕然とする春田。恐る恐る「これってキャンディキャンディの焼き直しでは・・・」。
一瞬の間を置いて大川は答える。「age嬢というトレンディアイテムを加えた独自の切り口の立派なオリジナルドラマよ。タイトルはドリーミングバタフライ。略してドリバタ」。
春田は自分の書きたい脚本を書きたいと一度は断るが、断れる状況ではなかった。サラ金に借金までして作ろうとした最初の作品がとん挫。借金まみれになり、同棲相手の奈美(外村佳南子)が女優をやめて会社勤めをし、春田を助けていたのだ。その事実を江里が厳しく追及。春田は書くことを引き受ける。
その後はテレビ業界の縮図を見るようで楽しかった。制作会社の社長以外に、もう一人のプロデューサーがいる。テレビ局プロデューサー(局P)の安西芙美子(木村八重子)だ。安西は企画会議に、広告会社社員の山城由香(小西めぐみ)を連れてくる。山城がドラマの関連グッズを示し、これが売れるようにドラマの小道具に組み込むことを提案。制作会社の女性ディレクターたちはみな賛成する。
制作会社はテレビ局に逆らえない。テレビ局は広告主、広告会社に頭があがらない。
大川は山城に、「広告主の商品についてのコメントを台詞としていれられません?ちょっとやりすぎですかね」と控えめな表現ながらも、依頼され、了解する。
局Pは脚本を読んで「難病の人がいない」と注文する。
さらに、大川はターゲットとなる若い女性の好きなドラマが「赤い糸」、「恋空」といったケータイ小説が原作のドラマであることを知り、最近流行のケータイ小説の必須要素である「いじめ」「ドラッグ」「レイプ」「恋人の難病」もすべて脚本に織り込んでほしいと春田に依頼する。
春田はプライドをずたずたにされ、友人に深夜番組の脚本を書いていることを言わず、ひとり徹夜で脚本を書き続ける。さすがに新人脚本家として賞をもらったこともある実力の持ち主。形にはなっていく。
しかし、ドリバタを演じるヒロインがちょっと不安な人なのだ。ヒロイン役の瑠璃(飯田史代)は読者モデルとしてデビュー。さらに活躍の舞台を広げるため、芸能プロダクションの社長が大川に売り込んだのだが、「役者ってちょっと残念な感じで・・・」と興味を示さない。ドリバタについても「ビミョー」という評価。まったくヤル気がない(笑)。石川遼にそっくりなマネージャー、森下伸一(森成翔)も頼りない。
作品として訴えたいことも明確でなく、大勢の船頭と広告会社主導で作られていくストーリー。役者魂のかけらもないヒロイン。しかし、それでもこのドラマは深夜枠ながら10%を超える高視聴率を獲得。さらに映画化も検討される。
いまのテレビ業界の裏側、制作スタッフの残酷物語を、こんなにおかしく、楽しく見られたのは脚本のリアリティと、役者の熱演、舞台の臨場感すべてが揃ったためだろう。
プロデューサーの加藤さん、役者のみなさん、ぜひ、この演劇をテレビドラマ化してください(笑)。
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Comments
昨日はお疲れさまでした。今、この記事を読んで「細部までよく覚えてるな~」とか「さすが、まとめ方がうまい!」などと思っていたのですが、『ダメ男~』の本の紹介のところで、すでにBUNNYが同じこと書いているんですね
。でも書かせていただきました~。
Posted by: さなえ | 2010.03.21 05:30 PM
最近、相次いで身近な方からコメントいただき、うれしいです。
ちょっと取り上げる範囲を広げた方がいいですね。書いていて楽しい。
Posted by: フーテンの中 | 2010.03.21 07:38 PM