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クリス・アンダーソン著『FREE(フリー) ~〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(NHK出版)

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フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略

 クリス・アンダーソン著『FREE(フリー) ~〈無料〉からお金を生みだす新戦略』(NHK出版、2009年11月25日発行)を読んだ。
 クリス・アンダーソン(Chris Anderson)は、2001年から『ワイアード』誌編集長。「ロングテール」という言葉を世に広めた。それだけに、注目が集まっているようで、私の周りでもITに関心のある人は、たいてい、この本を読んでいる。

 クリス・アンダーソンはプロローグでこう綴る。
 「料金をとらないことで、大金を稼いでいる人々がいるのだ。すべてとは言わなくても、多くのものがタダになっていて、無料か無料同然のものから一国規模の経済ができているのだ。それはどのようにして起こり、どこへ行こうとしているのだろうか。これが本書の中心となる疑問だ」。
 「21世紀の無料(フリー)は20世紀のそれとは違う」。「将来の売り上げのためのエサではなく、本当にタダなのだ」。

 無料広告モデルの地上波テレビや、広告依存度の高い新聞の経営がネット時代になって苦しくなっているのは周知の事実。ちょうど、「再生か破滅か 新聞・テレビの断末魔」という衝撃的なタイトルの特集が組まれた『週刊東洋経済』2月20日号が出たばかりだ。ネットに従来のマスメディアが広告主を奪われただけではない。新聞業界は、自ら無料広告モデルで記事を配信した結果、自分の首を絞めることになった、と悔いている。無料広告モデルの本家・地上波テレビの各局は、ネットの無料広告モデルがあまりに安い値段で広告ビジネスを展開していることを警戒している。いずれにしてもネットの無料広告モデルを歓迎していないマスメディアが多い中で、本書はどんな論理展開で「無料」を肯定しているのだろう。興味が湧いた。

 本書はいくつかのフリーのビジネスモデルを挙げるが、代表的なのが、「消費者がコンテンツを無料で得るために、第三者(広告主)が費用を支払う三者間市場だ」。
 「無料のラジオとテレビから、ほとんどのウェブまでがこれに含まれる」。
 実はこのモデルは既存メディアだけが採用してきた最強のモデルだったのだが、ウェブも採用することによって、メディアの世界に地殻変動が起きた。
 新聞、雑誌、テレビを問わず、希少な資源、つまりスペースを売ってきたが、「ウェブにはスペースがほぼ無限に存在」するため、「従来のメディア企業がオフラインと同じ手法でオンライン上のスペースを売ろうとしても、自分たちには価格決定力がほとんどないことに気づく」。
 ところがグーグルは違った。「グーグルが売っているのは広告スペースではなく、ユーザーの意思だ。つまり、検索リクエストという形でユーザー自身が表明した興味そのものを売っているのだ」。
 「結果として、従来の広告手法がオンラインでは限界がある一方、広告というものを再定義したグーグルの方法――表明された欲求と製品を結びつける――は、いまだに急成長している」。

 無料のオンラインゲームなどが採用するのが「フリーミアム」(Freemium)だ。
 「一部の有料顧客が他の顧客の無料分を負担する」モデルだ。オンラインゲームは無料だが、そのゲームをさらに楽しめる会員登録は有料といったものだ。
 
 これは私も知っているネット雀荘の「哲也@東風荘」は有料になると、使える『哲也』のキャラクターが増えたり、牌譜が残ったりするのだ。当然、気分によって哲也やユウジ、リサになって打つ私は有料版の虜なのだ。
 無料のオンラインゲームは、無料ゆえの集客力で多くのプレーヤーを集め、消費する時間をテレビからも奪っている。

 そして贈与経済(ギフトエコノミー)。「それは、ウィキペディアやブロゴスフィア(ブログ圏。無数のブログとそれらが作り出すコミュニティの総称)など、評判や注目、自己実現など金銭以外のインセンティブによって成り立つ経済だ」。
 「ひとたび基本的な知識や娯楽への欲求が満たされると、私たちは自分の求めている知識や娯楽についてより正確に把握できるようになり、その過程で自分自身のことや自分を動かしているものについてもっと学ぶことになる。それが最後に私たちの多くを、受け身の消費者から、創作に対する精神的報酬を求める能動的な作り手へと変えていく」
 群馬では、「もっと観光客のために本当の情報を伝えないと」と思い、この「ぐんぐんぐんま」というブログを書いた。観光客に読んでもらいたいと思った。ユーザーのリンクが多いと検索結果の上位に表示されるGoogle。1ページ目に「ぐんぐんぐんま」の記事があるととてもうれしかった。

 さて、それでは、どうやって無料で稼ぐのか。
 まず無料のパワーで人を集める。
 「何かが無料!になると、わたしたちは悪い面を忘れさり、無料!であることに感動して、提供されているものを実際よりずっと価値のあるものと思ってしまう。・・・無料!のものを選べば、目に見えて何かを失うという心配はない」

 音楽や書籍の配信を無料にして、評判を勝ち取り、ライブや講演で儲ける、というのが一つのパターンだ。
 
 そして、「潤沢な情報は無料になりたがる。稀少な情報は高価になりたがる」とクリス・アンダーソンは言う。
 デジタルの世界で配布にコストがかからなくなった情報は無料になっていくが、その周辺で稀少性のあるビジネスを作ればお金がとれるという意味だ。
 つまり、配信費用が安いデジタル書籍は無料でもいいが、著者の稀少な時間を使う講演やコンサルティングではしっかりお金を取る、という考え方だ。
 
 次のような例もある。
 「子供のときは、お金よりも時間を多く持っているだろう。だから手間がかかっても無料のMP3ファイルの交換をするしかない(でも違法だ)。・・・だが年をとって時間とお金の関係が逆になると、正規のダウンロードにかかる99セントはたいした金額に思えなくなる。そうすると、フリーミアムの世界において、お金を払う顧客になるのだ」。
 オンラインの世界ではお金を払う5%の人が払わない95%の人を支えると本書では説明するが、それができるのは、デジタルの世界で無料を標榜することによって、低コストで非常に多くの人間を集められるからだ。だから、「その一部」と言っても数千人から数百万人規模になるので、フリーミアムというモデルが機能するという。

 ただ、ここで一つの疑問が出てくる。無料で人を集めた後、新たな稀少性を提供できなかったら、ビジネスは成り立たないではないかと。
 その疑問には本書でも答えている。

 「もしもある産業で、新しいビジネスモデルが収益をあげられるようになる前に、デジタルのフリーがその産業そのものを非収益化してしまったら、全員が敗者になってしまう」。「グーグルの広告モデルが成功して新聞から広告市場のシェアを奪っていることが、新聞の存在を危うくしている」。

 発表記事など、誰でも手にできる潤沢な情報は無料で提供されても構わないが、記者が苦労して取った独自の記事は稀少性が高いから、有料で提供すればいいのだろう。
 記者クラブに居座り、発表記事ばかり書いているような新聞社は間違いなく苦境に陥る。
 
 クリス・アンダーソンはすべてを「フリー」にせよと言っているわけではない。デジタルの世界で価格がどんどん下落して無料にならざるを得ないものは、逆に自ら無料にすることによって、マーケティングパワーを発揮すべきで、稀少性の高いものや付加価値の高いサービスは高く売れと言っているのだ。
 また、だれもが安いコストで創造性を発揮できる世界では、まずは評判を勝ち得てからビジネスにすればいいと言う。それがデジタル社会、ネットワーク社会の新しいビジネスの手法なのだ。
 もやもやとしていたデジタルビジネスの世界の一端が見えたようで、刺激的な読書の時間だった。

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Comments

記者クラブ的な世界を脱し、かつ各新聞社がきちんと独自の視点と独自の取材、そして独自の記事で競い合うようになれば、変わるようにも思います。いまはAもBもそう変わりがあるわけではないからねえ。

Posted by: さいのめ | 2010.03.02 07:47 PM

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