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小林雅一著『モバイル・コンピューティング』(PHP研究所)

Mobile_computing
モバイル・コンピューティング

 小林雅一著『モバイル・コンピューティング』(PHP研究所、2010年2月22日発行)を読んだ。日本でのiPhone(アイフォーン)人気を見れば、今度のモバイルブームは本物、と感じるが、なぜ、これからがモバイルの時代なのかを、実証的、理論的に説明してくれる一冊である。

 「アイフォーンやアンドロイド携帯、ネットブック、キンドル、デジタル・フォトフレーム、そしてアップルの新しいタブレット型メディア端末など、次々と登場する多彩なモバイル・コンピューティングは、従来のデスクトップ・コンピューティング(机上の情報処理)という狭い枠組みを破壊し、情報処理の対象を広大な実空間における多様な領域へと開放する」。「モバイル・コンピューティングとは、全生活空間における私たちの活動を支援してくれるものだ」
 「はじめに」で書かれたこの一節が、モバイル・コンピューティングの本質を説明している。モバイル・コンピュータは現在のコンピュータより、はるかに進化したコンピュータなのだ。

 「コンピュータの利用形態は3段階を踏んで発展する。第1段階は1970年代までの、いわゆるメインフレームと呼ばれる大型コンピュータを多数のユーザーが共有して使っていた時代。第2段階は1980年代以降、1台のコンピュータつまりパソコンを一人が利用する時代。そして、第3段階は一人のユーザーが多数のコンピュータを使う時代だ。その先には、様々な日用品や道具、装置、家電製品などがコンピュータ化するという状況、つまりコンピュータがあまりにもありふれて、人間の意識に上らない時代が到来する」。
 
 コンピュータの研究には二つの流れがあるという。
 一つが「人工知能」(Artificial Intelligence:AI)の研究。もう一つが「知能増強」(Intelligence Amplification:IA)だ。
 これまではコンピュータという高度なツールを身体の一部のように使うIA派の現実路線が勝っていたが、「最近のモバイル・コンピューティングを中心に起きつつあるインタフェース革命はAI的アプローチの復活なのである」。つまり、最終目的に向かって、「ああしろ、こうしろ」と命令を下すだけで、システム側で適切なアプリケーションを迅速に立ち上げ、適切な処理を実行してくれる「人間の活動に基づく情報処理」(Activity Based Computing:ABC)にモバイル・コンピューティングを手がけるIT企業が注目しているというのだ。
 「屋外の慌ただしい諸環境で使われるモバイル端末では、パソコンのようにマウスを使って、一つ一つ順番にアプリケーションを起動し…といった悠長な作業は難しい」「むしろ手を使うことなく、言葉でカジュアルに指令を下すスピーチ・インタフェース、つまりABCの方がモバイル端末には向いている」。

 モバイル・コンピューティングをさらに推し進めるのがクラウド・コンピューティングだと、本書は予測する。
 「クラウドとは、パソコン中心の情報処理からインターネット中心の情報処理へと向かう、IT産業のパラダイム転換を指す」。
 「一人のユーザーが幾つもの情報端末を使いこなす時代には、…自身のデータを全てウエブ(クラウド)上に置いて共通管理すると共に、それを直にウエブ上で情報処理する方が合理的だ」。

 本書はモバイル・オープン化やクラウド化の動きが、モバイル・コンピューティングの発展を支えるとともに携帯業界の構造も変えると見る。
 ちなみに、「モバイル・オープン化とは、キャリア主導の閉鎖的なモバイルビジネスを、インターネット業界、IT業界、さらにその他の業界にも開放すること、つまりモバイル・ビジネスをもっと開かれたものにしよう、とする運動だ」。

 日本の多機能携帯は、「パソコン同様、その出荷前にハードウエアとして実装される機能は必要最小限にとどめている」スマートフォンに価格競争で敗れ、アプリケーションは、ユーザーが自由に選ぶようになる。さらに、「今後、モバイル・コンピューティング産業が成熟していく過程で、スマートフォンのような携帯端末(ハードウエア)や各種アプリケーション・プログラム(ソフトウエア)は陳腐化する」「つまり情報処理の中心がウエブへと移行し、ユーザーにとっては、どの携帯端末を使ってもパフォーマンスにおいて大差はなくなる」「価値の源泉は従来のハードやソフトから、クラウド上に構築された顧客データベースに移行する」。

 モバイル・コンピューティングの世界はユーザーに優しい世界であると同時に、これまで成功を収めたハードウエアやソフトウエア、コンテンツ関連の企業が脇役へと追いやられる可能性もある、既存業界にとっては恐ろしい世界だ。今後、この世界からは、目が離せない。

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