岡嶋裕史著『アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争のゆくえ』(光文社新書)
アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争のゆくえ
岡嶋裕史著『アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争のゆくえ』(光文社新書、2010年3月20日発行)を読んだ。
本書はクラウドとモバイルをめぐり今後繰り広げられるであろう激しい主導権争いの行方を、キープレーヤーであるアップル、グーグル、マイクロソフトの戦略を分析しながら、予想する。
ニコラス・G・カー著『クラウド化する世界』、城田真琴著『クラウドの衝撃』、小池良次著『クラウド』といったクラウド関連の本でクラウドをしっかり勉強し、小林雅一著『モバイル・コンピューティング』といったモバイルの世界を見通す本を読んでから、本書を読むことをお勧めする。
クラウドとモバイルを軸に進むであろう近未来の情報社会の大変化を見通すための貴重な情報源となる。
クラウドは「インターネット上に1台の超巨大なコンピューターを構築するイメージ」のものだが、日本のデータセンタと米国企業のクラウド・コンピューティングのサービスは大きな相違点があるという。
「日本のデータセンタは規模が小さい。最も大きなものでも、グーグルやマイクロソフトが運営するデータセンタの数十分の一~数百分の一規模である」。しかも、日本のデータセンターは企業が買い取ったコンピュータをデータセンタの良好な環境で預かるハウジングサービス(コロケーションサービス)であることが多く、「かゆいところに手が届く」サービスを提供する半面、高コストになるのは避けられない。
日本のデータセンターが高コストなのは「華美で豪奢な設備にも一因がある」。「重厚な防壁に身を包み、完璧な空調、電源設備、免震構造を持ち、24時間体制で監視員が常駐する」。「立地条件もよい」。
これに対し、グーグルのデータセンタは「すべて無人運転」。「一日に何件もの故障が発生しているはずだが、基本的には修理はしない。壊れたものは破棄され、自動的にフレッシュな機器に動作が引き継がれる」。
「クラウドの牽引者たちはハードウェアなどどうでもいいと思っている」のだ。
岡嶋氏はコンピュータのサービスがネットワークが絶たれストップするリスクがある以上「企業が必要不可欠で止めることのできない最重要業務をクラウドへ完全移行するのを躊躇するのは当然である」と認めるが、「100%の自給率を維持するのもコストや技術キャッチアップにおいてリスクがある」としており、「どう組み合わせてリスクを軽減するかが問われることになるだろう」と結論づける。
つまり、企業の基幹ビジネスを担うコンピュータサービスであっても、これからはクラウドとは無縁、というわけにはいかないようなのだ。
クラウドにはIaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス、HaaS=ハードウェア・アズ・ア・サービスと呼ぶこともある)、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)の3階層があり、主戦場はPaaSであるという。
岡嶋氏は、従来のOSだけでなく、「マーケットプレイスもプラットフォームとして考えることができる」とする。
マーケットプレイスを握っている代表格がアップルだ。アップルは決済手段という汎用的な機能を押さえることで、iTunes、App Storeといった巨大なマーケットプレイスを持った。本来はSaaSのサービスなのだが、PaaSとして力を持っていくと岡嶋氏は予想する。
マイクロソフトはこれまでの資産(ウィンドウズ)との接続性を訴え、クラウドビジネスを展開。これに対して、グーグルはPCに分散されていたソフトウェアと情報をインターネット上に集約させようとしている点で、マイクロソフトとは真っ向対立する。
こうしたクラウドの覇権争いに、モバイル端末の勢力争いが重なっていく。
そのとき、日本企業はどう絡むのか。
「ジョブズの言う、『ハングリーで、バカな』企業や個人だけが、新しい次代を担う資格を持つだろう」。
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