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NHK放送技術研究所「技研公開2010」、3Dテレビと放送・通信連携で特別発表

 NHK放送技術研究所(世田谷区砧1-10-11、03・5494・1125)の「2010年技研公開」(5月27日~30日)に、5月28日に行った。
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 展示1番の放送・通信連携サービスのデモンストレーションコーナー

 技研の展示で一番人気の「スーパーハイビジョンシアター」は今回も超大画面で高精細の映像を見せてくれ、迫力があった。

 「高度な番組制作技術」も面白かった。煙や霧などの遮蔽物に隠れた被写体を、電波を利用して撮影する「電波テレビカメラ」はテレビ番組への活用は先かもしれないが、災害時に役立つ技術だと思う。「『坂の上の雲』VFXの世界」は2009年12月に第一部が放送されたスペシャルドラマ『坂の上の雲』で多用されたVFXを紹介するコーナー。2人の役者による数パターンの演技を3次元モデル化して群集のシーンを作る技術を紹介していた。

 「3次元物体の触力覚提示技術」(物体に触った感覚を触力覚で伝える技術)のような、「実用化されたら、どのように使われるのだろう」といろいろ想像をめぐらしてしまう技術もあった。

 しかし、最も興味深かったのは、この日行われた二つの特別発表だ。

 一つが、映画「アバター」をきっかけにブレークした3D映画などの課題を解説してくれた「技研における立体テレビの研究成果」(伊藤崇之NHK放送技術研究所次長)だ。大手家電メーカーが相次ぎ3Dテレビを発売しているが、視覚疲労などの問題は残されており、子供が長期間見たときの影響は、まだ分かっていないという。不況のなか、次のヒット商品として期待するのは分かるが、解決していない問題が多々あり、消費者として注意しなければならないと思った。

 もう一つが「Hybridcastの実現に向けて~技研における放送通信連携への取り組み~」(加藤久和NHK放送技術研究所次世代プラットフォーム研究部部長)。画期的な技術とは感じなかったが、放送・通信融合時代といわれるなかで、NHKが前向きに「Hybridcast」という概念を打ち出したのが注目される。

 「技研における立体テレビの研究成果」
 伊藤氏によると、2眼式の立体映像については、1985年~2003年に、ポストハイビジョンの研究課題として取り組んだ。2003年以降は、仕組みの研究としては、将来の立体テレビ(像再生型)の研究に移行したが、避けて通れない課題として、1995年から、立体視のヒューマンファクターの研究に力を入れている。
 映像の見づらさ、不自然さ、視覚疲労の問題だ。

 人間が奥行きを感じる手がかりとしては次の4つがあるという。
 ①輻輳
 近くにものがあると寄り目になり、遠くにあると眼が平行になるが、注視時の視線の角度を輻輳という。
 ②両眼視差
 これは一般によく知られている立体視の原理だ。両眼の網膜に映る像は位置の違いによって異なるが、これによって立体を把握する。
 ③調節、ピントあわせ
 ピントが合っているところと合っていないところで、奥行きが分かる。
 ④運動視差
 体を左右に動かすと目の前の景色と背景の位置関係が変わる。

 「像再生型」と言われる究極の立体テレビは、被写体から出てくる光そのものをそっくり再現する。上記の4つの手がかりをすべて再現するので、より自然に見える。

 しかし2台カメラを使って撮影する2眼式の立体画像は光学的仕掛けが簡単であり、輻輳と両眼視差のみを活用し立体視できるようにしている。

 2眼式立体テレビの場合、撮影がうまくできないと、立体画像が不自然に見えることが分かっている。
 たとえば、被写体が薄っぺらく見える「書割効果」、手前の画像が実際より小さく見える「箱庭効果」などが生じる。

 実空間を撮影したときに、実際の距離と再現された距離が一致していれば、ひずみは生じず、自然な立体感が表現できる。
 しかし、撮影時に画角を変えたり、2台のカメラの間隔を広げたり狭めたりすると、奥行きにひずみが生じ、不自然な立体画像となる。
 
 左右のカメラの特性に差があったり、明るさに差があったりすると、左右の画像が適切に融合できなくなり、見づらくなる。
 立体映像を見る姿勢によっても見づらくなる。寝っころがって見ると、水平でなくなるので、見づらくなる。

 撮影の条件をしっかり管理することで、疲れないような画像にすることはできるが、輻輳位置とピント位置の不一致は起こりやすく、眼が疲れる最大の原因となる。
 この状態で長時間立体画像を見たときのデータはない。
 被写界深度(ピントがちょうど合っている前後のピントが合っているように見える領域)というものがある。ディスプレーの面が被写界深度の中に収まっていれば、輻輳点とピントのずれは回避できるので、被写界深度を深くする工夫が必要だ(被写界深度は絞りを絞り込むほど深くなる。明るいディスプレーを用意することも必要)。

 立体視に関しては、視聴者への配慮が必要。特に子供への配慮は大切だ。眼や脳の機能が成長している子供が立体視を体験したときの長期的影響はデータがない。

 両眼の距離は大人と子どもでは違い、子供は一般に立体が強調されて見えるという。

 視覚疲労や眼への影響はしっかり検証する必要がある。

 「Hybridcastの実現に向けて~技研における放送通信連携への取り組み~」
 放送のデジタル化が進展しているが、ブロードバンドの環境も良くなってきている。ブロードバンドでハイビジョンコンテンツも送れる状況になっているので、こうした状況に対応するため、NHK放送技術研究所は昨年、「次世代プラットフォーム研究部」を立ち上げた。この組織で放送・通信連携に関連した課題に取り組む。

 NHKは放送・通信連携に近い研究は以前から行っていた。
 1980年代にはISDB(総合デジタル放送サービス)の研究を行っていた。当時は衛星放送を使ってデジタル化したデータを一斉に送るというコンセプトだった。伝送される情報の中には電子新聞、ファクシミリなども含まれていた。このあたりが今につながる話の始まりだったと思っている。

 2000年にはBSデジタル放送が開始された。電話モデムが搭載されていて、双方向データ放送のサービスが始まった。紅白歌合戦の投票に活用したりした。
 その後2003年12月には東名阪で地上デジタル放送が始まった。受信機には標準でイーサネットの通信機能が搭載されていた。これにより、電話をいちいちかけなくても、広帯域を使ってデータが送れるようになった。
 2004年4月には「NHKデータオンライン」のサービスが始まった。デジタル放送の波の中にあるデータ放送のコンテンツをサーバー上に置いて、多様な情報を提供するものだ。ここでは各地のきめ細かい地域情報を提供した。
 2006年4月からはワンセグ放送が始まった。関連の情報の提供は通信を活用した。このあたりから放送・通信融合サービスが本格化した。

 2008年12月からは「NHKオンデマンド」が始まった。光ファイバーを使って各家庭にハイビジョンの映像をオンデマンドで届けるサービスが始まった。
 昨年の技研公開で紹介した、データ放送とNHKオンデマンドを結びつける機能は昨年暮れに発売された新しいテレビ受信機には搭載されるようになった。

 通信の活用という意味ではNHKのウェブサービス「NHKオンライン」でも新しい試みをしている。昨年夏の学校音楽コンクールの動画はP2Pストリーミング技術を使ってライブで映像を配信した。この講演もP2Pストリーミング技術でインターネット配信している。
 バンクーバーオリンピックでも、マイナーな種目をネットで配信、延べ100時間を超えるコンテンツを提供した。
 今年1月からはアイフォーンによるNHKワールドのストリーミングサービスも始めた。
  
 いまは、どうなっているのか。
 映像情報インフラの普及状況をみてみたい。
 受信機普及台数。地上デジタル放送が、BS超える。先月末の段階で、それぞれ7000万台を超えた。
 ブロードバンドの契約数は3000万を超える(総務省まとめ)。
 ファイバーは1720万契約(昨年末)。

 放送・通信をめぐる動向をみてみよう。
 放送のデジタル化が進んでいる。そのメリットは①帯域が効率よく使える②画質、音質が改善される③パソコン、ネットとの親和性が高くなる④ワンセグ、パソコンでの視聴が可能になり「一人複数台」が実現。パーソナライズ化が進む④伝送帯域拡大に加えワイヤレス化が進展。携帯電話はLTE(3.9G)がまもなく始まる。都市部ではWiMAXなどの広帯域のワイヤレスサービスもスタートしている。

 インターネットは著しい発展をしている。新たな情報流通メディアができたといってもいい。ユーザーのコメント、映像までがネットを介していろいろな人に配信される「ソーシャルネットワークサービス」が隆盛となっている。

 とはいえ、放送局が制作したコンテンツを適切、確実に国民に伝える使命は引き続き重要だ。
 放送の使命は変わらない。
 昨年公表したNHK3ヵ年経営計画で、9つの方針を挙げた。
 方針の「3」で「放送・通信融合時代の新しいサービスで公共放送の役割を果たす」としている。
 オンデマンドの充実や、テレビだけでなくPCや携帯端末などの3スクリーンズで番組を見ること、放送・通信融合を先導する技術開発などを進めることを挙げている。

 音楽、新聞、書籍などのコンテンツはネットワーク、クラウドサービスを通してさまざまなデバイスに配信されるようになっている。
 放送は、放送波だけでなくクラウドルートからもコンテンツ・情報を提供できるメディアだ。
 放送はネットも使うハイブリッドなメディアになる。

 世界各国でも同じことを考えている。
 BBCではアイプレーヤーというアプリでPC向けに見逃しコンテンツを配信して好評を博している。
 最近はCANVAS(キャンバス)というプロジェクトが進んでいて、テレビの上でのウェブのアプリやVODを楽しめるようにしようとしている。
 EBU(欧州放送連合)では、HbbTVというIPTVと放送をつなげるサービスのガイドライン策定が行われている。

 NHKとしても、よりよいもの作りたい。

 技研は放送と通信のメリット、デメリットを十分考慮して新しいプラットフォームを作りたいと考えている。
 その名前をHybridcast(ハイブリッドキャスト)とした。
 
 放送の特徴である、同報性、高品質、高信頼は重要だ。それに加えて通信の機能を活用することで、放送を強化してよりよいサービスを提供するというのが基本的な考え方だ。

 通常の放送に加え、ネットワーククラウドから、視聴者の個別の要求に応えられるような情報を提供する。

 たとえば番組付加情報を「同期再生技術」により、放送と通信のタイミングを合わせて送る。

 ユーザーの情報なども活用、コンテンツを効率的に配信する。
 携帯端末も積極的に活用する。テレビと携帯端末の連携技術も必要となる。
 
 コンテンツの権利保護、個人情報を守るセキュリティ技術ももちろん重要だ。

 テレビセントリック(TV Centric)な放送・通信連携技術が私たちの目指すハイブリッド技術の特徴だ。

 現行放送とのコンパチビリティは考慮したうえで通信で機能アップを図りたい。


 公開で展示されている事例を紹介する。
 ①拡張コンテンツサービス
 多言語の字幕情報の提供。
 ゆっくり聞こえる音声情報を通信から提供する。

 ②ソーシャルテレビサービス
 ツイッターなどのコメントを言語解析しフィルタリング、カテゴライズして提供する。
 番組を一体感をもってみるサービスを提供する。

 ③おすすめ番組サービス
 EPG情報で同じキーワードの番組並べる。
 視聴履歴をベースに似た番組を提供。
 ソーシャルネットワークサービスで話題になったり評価の高い番組を提供。

 ④携帯端末連携サービス
 テレビでQRコード表示。端末で読み取り、テレビと携帯を紐付けてさまざまなサービスを提供。


 実現に向けたステップは以下の通り。
 ①現行デジタル受信機で、できるところから実現。
 データ放送と通信機能の応用して、多言語字幕やソーシャルTVの一部機能などは今でもできる。
 ②現行デジタル受信機の機能拡張による実現。
 ③Hybridcast対応受信機を作る。

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