中村伊知哉・石戸奈々子著『日本を動かす次世代メディア デジタルサイネージ戦略 電子看板最前線』(アスキー・メディアワークス)
日本を動かす次世代メディア デジタルサイネージ戦略 電子看板最前線
中村伊知哉・石戸奈々子著『日本を動かす次世代メディア デジタルサイネージ戦略 電子看板最前線』(アスキー・メディアワークス、2010年4月26日発行)を読んだ。
本書によると、デジタルサイネージとは――。
「屋外・店頭・公共空間・交通機関など、あらゆる場所でネットワークに接続したディスプレイなどの電子的な表示機器を使い、情報を発信するシステム」(デジタルサイネージコンソーシアム)だ。
「天候や時刻、その場所の状況や通行する人々の傾向に応じた映像を提供する」「ネットワーク化された」電子看板。
「その場所を行き交う10人に情報を知らせるメディア」。
「屋外の大画面による広告」にとどまらず、「屋内」「小型の表示システム」「広告以外のコンテンツ」も含む概念。
「テレビ、パソコン、モバイル以外のデジタルメディア」。
「バーチャルな仮想空間とリアルな物理空間とをつなぐメディア」。
サイネージのどの特徴に焦点を絞るかで、さまざまな定義が成り立つようだ。
デジタルサイネージには、「ハイ、ミドル、ローの3つのレイヤーがある」という。
「ハイエンド層のサイネージ導入は2002年ごろからスタート」「コストがかかっても新しいことに取り組みたい企業がこの層に該当する」「銀行、証券会社、そして六本木ヒルズに入っている企業などだ」。
「ハイエンド層とミドル層の間に位置づけられるのが、JRや地下鉄といった鉄道機関だ」。
「ミドル層は流通系が中心となっている」。
ローエンド層は「小規模店舗やオフィスだ」「実は、オフィス展開の市場規模は今後最も大きくなると考えられている」。
ローエンド層のさらに下に「パーソナルサイネージ」という世界がある。
すでにこれだけ広がっているサイネージだが、課題も多い。本書は各企業にインタビューを試み、問題点などを浮き彫りにした。
森ビルは2003年にオープンした六本木ヒルズに300台弱のデジタルサイネージを導入した。
「街はメディアである」「テレビ局をつくりたい」――。そう語る森社長が積極的な導入に踏み切り、話題を呼んだが、①効果測定ができていない②年間300本を超えるコンテンツを制作・配信しているが、その経費、作業量が膨大③広告収入を増やす――などの課題がある。
六本木ヒルズのサイネージシステムの構築、コンテンツ制作、配信運営を担当するピーディーシーは、「大型商業施設の中でデジタルサイネージをトータルにプロデュースするには、十分な経験とITの知識が必要」という。デジタル技術が分からないと、どんなサイネージ機器を設置すべきかが分からないのだ。同社は、「最も重要なことは、設置する目的を明確にすること。情報提供なのか、広告なのか、それとも集客か? それによってサイネージのシステム、コンテンツ、ビジネスモデルはまったく違ったものになる」とも言う。
JR東日本の「トレインチャンネル」は、2002年の山手線への導入を皮切りに、現在では中央線と京浜東北線にも導入、合わせて1万6000個を超えたと言う。2008年7月からは、駅内での新しいサイネージとして「デジタルポスター」の運用を開始した。これまでに5駅に44面を設置している。
サイネージでは最も成功を収めていると思われているJR東日本だが、運営するジェイアール東日本企画によると、「駅と車内ともに天気・ニュース・JRの運行情報――が3大キラーコンテンツで、それ以外はどんぐりの背比べ」という。
「鉄道車内に関しては地域情報や観光情報も強いので、それをうまく取り入れたコンテンツを作れないか、サイネージでキャラクターを育てられないかといったことを考えています。駅の設置に関しては、縦型か横型か、動画か静止画かといった基本的なことから、各駅に少しずつ設置するのか少数の駅に集中して設置するのか、人が滞留する場所に設置するのか多くの人にリーチできる流動的な場所に設置するのか――といったさまざまな課題の検証を行っていきます」。
イオンリテールは2009年6月から関東地区30店舗で、300面のディスプレイを設置して「イオンチャンネル」をスタートさせた。レジ周りの紙のPOPをサイネージに代替し、紙を無駄にせずにタイムリーに情報更新することにしたが、「メディアとしての価値・効果が不明瞭であるため、広告出稿が思うように進まない」(イオンアイビス)という悩みがある。
広告主の評価を高めることがサイネージの最大の課題のようだ。
そこで、本書は広告主として、花王にも話を聞いている。
「実験期間内の売り上げの伸張はとれますが、サイネージ導入時には、売り場作りも同時に行うため、サイネージだけを取り出した効果検証はできていません」「自社メディアについてはWebを想定しています。サイネージがWeb型の情報を受け取れるのであれば、配信する準備はできているということです」。
「お客様にリーチする手段としてマスメディアを使うのか、それともパーソナルコミュニケーションを使うかを考えることが重要であるのに、店舗は販売促進費、テレビは広告費といった場所切り、媒体切りを行うなど、社内での対応部署がバラバラであることが問題になってきています」。
「世界がブランドマーケティングにシフトする中で、日本はいまだカテゴリーマーケティングです」「ブランドマーケティングでは、ブランド区切りの売り場となり、ブランドの新鮮さを保つために、ブランドプロモーショングッズを置こうということになる。そうすると店舗作りの一環でサイネージ導入という話も出てくるかもしれません」。
クリエイティブ面で、サイネージの強みを生かすことが必要というのは博報堂DYメディアパートナーズだ。
「効果の課題はあります。サイネージは、CMなどのマス広告と比べれば、生活者の情報への到達規模で圧倒的に劣ります。さらに、ポスターなど従来の看板広告に比べてコストがかさむため、費用対効果を打ち出しにくく、広告主の抵抗感は否定できません」「しかし、テクノロジーの新規性と表現の面白さがあれば、それは口コミで広がり、メディアに取り上げられることにつながります。サイネージは技術の新しさで人を驚かせることができる」「サイネージは、ユーザーの参加や体験の機会を提供できる一つのタッチポイントとして、そのポテンシャルは高いと考えています」。
サイネージにさまざまな形で関わる企業などへのインタビューはさらに続く。具体性があり、大変参考になる。
最後に本書は、「日本型デジタルサイネージの可能性」に言及する。
目次をみただけで楽しくなる章だ。
・ものづくり力とポップ文化力の結合
・ケータイと自販機
・日本固有のサイネージーーコンビニ・カラオケ・パチンコ・ゲーセン
・日本固有のサイネージーー大阪・回転寿司・風俗
サイネージをビジネス、システム、コンテンツなど多面的に論じた力作だと思う。
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