志村一隆著『明日のテレビ〜チャンネルが消える日』(朝日新書)
志村一隆著『明日のテレビ〜チャンネルが消える日』(朝日新書、2010年7月30日発行)を読んだ。
とにかく楽しい本だ。「はじめに」で志村氏はこの本のことを「アメリカのメディア、コンテンツ業界やベンチャー企業の動向を記したもの」で、「『広く、自由に、柔軟に、考えれば、ビジネスチャンスはたくさん転がっており、視聴者にとって楽しいテレビライフが待っている』ことが伝われば、本望です」と語っているが、世の中の変化を危機と捉えずにチャンスと捉えると、こんなに楽しくものが見えるのかと思う。
「なぜインターネットでテレビの生放送が見られないのか」と竹中平蔵総務大臣(当時)が「通信・放送の在り方に関する懇談会」(竹中懇談会)の設立を発表した2005年末に語っていたが、いまだに日本ではテレビの生放送は見られず、見逃し番組のビデオオンデマンドサービスも一部しか提供されていない。
「ネットでの著作権処理が難しいから」「テレビほどの広告収入をネットでは得られないから」・・・。テレビ局にも言い分はあるのだろうが、視聴者の利便性を考えた映像サービスは既存の日本のテレビ局からは出てきていない。
そんな閉塞感のあるなかで、この本を読むと、新鮮さを感じる。
志村氏はまず、50年周期で映像メディアの交代が起きていると説明する。
「映画は、今からちょうど100年前の1910年代から世界各地で人気の娯楽となりました」
「日本でもアメリカでも今から50年前の60年代がテレビの黄金時代といわれています」
「2010年代は、ケータイでもブロードバンド化が進み、どこからでも映画やスポーツ中継を楽しむことになります」。
「1910年、60年、そして2010年、なんだか偶然のようですが、映像の主役が交代する端境期に私たちは生きているのです」
そして、映像は次のような変革を遂げるであろうと予測する。
第一が「映像をどこでも見られる、モバイル、クラウド配信」だ。
「すでにDLNA(Digital Living Network Alliance)」という技術のおかげで、居間にあるハードディスクレコーダーに録画したテレビ番組を、寝室にあるテレビで見たり、そのあとケータイにダウンロードして見ることが簡単になっています」
「このサービスがさらに進化すると、録画をしなくても、映画やテレビ番組の見る権利を買えば、パソコン、テレビ、ケータイあらゆる端末から一生その映像作品を楽しめるようになります。・・・これはコンテンツのクラウド配信と言われています」
第二が「番組をバラ買い、集めてマイ・チャンネル」。
「これからのテレビでは、自分の好きな番組を集めた自分だけのマイ・チャンネルを見る感覚が普通になります」
「インターネット時代のビジネスは、商品の送り手の都合が優先するのではなく、消費者である私たちの都合が優先されます。インターネットはオンデマンドな文化なのです」
「インターネットでマイ・チャンネルばかり見ていると、自分の知らないことをどうやって知るのか?という問題点にぶつかります」「インターネットでも自分の知らないことを知る手段はたくさんあります。そのひとつが、ブログやツイッターの発信機能です」
「あらゆる映像ニーズに応えるには、膨大な映像が必要となります。・・・そこで、インターネットにある映像は、普通の企業、個人が作り手として登場します」
「インターネット時代の映像ビジネスを担うのは、既存の大手メディアではありません。あまりにビジネスが小さすぎて利益が出ません」
第三が「映像をシェアする時代」。
「ユーチューブには好きな動画だけを集めてマイ・チャンネルを作る機能が付いています。ニコニコ動画(日本の動画共有サイト)を見ながら、友達とチャットをしたり、好きな動画を見つけたら友達にそのURLを送って共有することも簡単です」
こうしたインターネットに対応するテレビを象徴する言葉として、最近アメリカで「ソーシャル・テレビ」という言葉をよく聞くと言う。
「ソーシャル・テレビとはなにか? インターネットを利用し、映像を友人とシェアをしながら楽しむという、新たな視聴者の映像消費行動やそれに対応するテレビ局のことを言います」
「ソーシャルと名のつくものは、既存の大手メディアにとって、本来自分のビジネスを脅かす存在です。インターネットでは、自分の好きな映像は、友達からのメールやRSSフィードが届けてくれるわけです」
大きな変化に直面すると日本のメディア企業は守りに入ることが多いのだが、アメリカの企業は違うと志村氏は言う。
「それでもアメリカではテレビ局、広告代理店、コンテンツ・ホルダー(映像コンテンツを所有する映画会社やテレビ局)たちはとても前向きです。社会が変わったことを前提に自分たちも変わっていこうとしているのです」。
第一章を要約するだけでも、こんなに中身が濃い。
テレビが好き「だった」人にはおススメの本だ。
第二章以下ではさらに具体的に話が展開するが、長くなったので、読みどころを簡単に紹介しよう。
第二章
フールー(アメリカの大手テレビ4社のうち3社=NBC、ABC、FOXが出資して作ったインターネットの映像サイト)について紹介する。
「インターネット的な機能で私がいちばんすごいと思ったのは、テレビ番組を切り取れる機能です」
第三章
アメリカのテレビの紹介。ケーブルテレビのコムキャスト(Comcast)、衛星放送のディッシュ(DISH Network)、ディレクTV(DIRECTV)、IPTVのユーバース(U-Verse)、ファイオス(FiOS)などにも触れている。
第四章
インターネット動画をテレビで見る。ボクシー(Boxee)、テレビ・ウィジェット、ティーボ(TiVo)などが紹介される。
そして、iPadの可能性——。
第五章
テレビは何で儲ける会社になるか。
CBSは屋外看板市場で全米2位。
NBCの、「録画視聴に加え、インターネットやモバイルで見た人も視聴率に加える試みである『TAMi(Total Audience Measurement Index)』」
第六章
地デジ移行とモバイル放送の関係
第七章 3Dにかける映画会社と家電メーカー
第八章
これからのテレビ
アルビン・トフラーの言葉。「歴史を知る必要はあるが、過去を振り返る必要はない。環境が変わってしまったら、古き良き時代の記憶はそばに置いて、新たなルールで生きるほうが楽しい」。
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