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佐藤尚之著『明日の広告~変化した消費者とコミュニケーションする方法』(アスキー新書)

 ブックレビューを本格的に書き始めたのは2009年3月から。それ以前に読んだ本でも、面白かったものは随時、レビューを書きたい。
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明日の広告

 佐藤尚之著『明日の広告~変化した消費者とコミュニケーションする方法』(アスキー新書、2008年1月25日初版発行、2月19日第1版第2刷発行)を再読した。
 
 第1章は「消費者へのラブレターの渡し方」。
 「広告は消費者へのラブレター」。
・以前はラブレターが相手の手に渡りやすかった。
 「メディア担当者はターゲットに合わせて4マスの場所取りをして広告を載せていればよかったし、そうしておけば、消費者はその広告をわりと見てくれていた」
・他に楽しいことが少なかったので、ラブレターはとても喜ばれた。
 「広告自体をエンターテイメントとして楽しんでくれてもいた」
・渡したラブレターを相手がちゃんと読んでくれた。
 「広告はまだ情報ソースとして信頼されていた。だから消費者は広告ををちゃんと読んでくれた」

 「こうなりゃあとは表現勝負(ラブレターの内容勝負)。いろんな表現手法で相手を感動させれば、シンプルに口説き落とせた時代だったわけだ」

 ところが、状況は変わった。消費者が変わったのだ。
・ラブレターが相手の手に届きにくくなった。
 「消費者の行動をもっともっと観察し、あらゆるタイミングと場所で彼らを待ち伏せしないと、彼らと接触することすら難しくなってきた」
・他に楽しいことが山とあり、相手はラブレター自体に興味をなくしている。
 「消費者は自己防衛本能に近い反射神経で『要らない情報はスルーする』ようになった」
・ラブレターを読んでくれたとしても、口説き文句を信じてくれなくなった。
・しかもラブレターを友達と子細に検討し、友達に判断を任せたりする。
 「消費者は広告はあんなに疑うくせに『使った人や友達の生の声』は深く信じるのだ」「広告よりクチコミが効く時代なのである」。

 もうモテなくなったのである。モテる努力をしなければならない。
・相手の趣味や行動を調べ、よくよく観察し、相手の身になってみる。
・・・
・相手の友人にも気に入られるよう十分ケアする。

 ラブレターを渡したあとも大事だ。
・ラブレターを渡したあと、脈がありそうなら、すかさずもうひと押し。
・・・
・長くつきあうためには、イイトコロだけでなく、欠点も公平にみせていくこと

 つきあいの種類も考える。
・ひっかけナンパ
・・・
・結婚が前提のおつきあい

 そして「もっと効果的な方法」があるという、ラブレターを渡す自分自身を変えるのだ、相手好みに。 
 「消費者とより深くコミュニケーションするとしたら、広告だけが『変化した消費者』に対応してもダメである」
 「商品開発からすでに消費者とのコミュニケーションは始まっている。『変化した消費者』を相手にするとき、商品開発コンセプトという最上流に『全体のコミュニケーションをデザインできる人』を置くことが、これからの時代には必要になってくると思われる」

 第3章以降で、佐藤氏は具体的なノウハウを示してくれる。
 まず、「変化した消費者を待ち伏せる7つの方法」だ。
(1)消費者のコンタクト・ポイントで待ち伏せる
 「コンタクト・ポイントとは、消費者に接触(コンタクト)できるあらゆる接点のこと。マスメディアをはじめ、OOH(Out Of Homemedia:つまり屋外メディア。交通メディアなども含む)やネット、店頭、人など、あらゆる接点のことである」
(2)新しいメディアを創って待ち伏せる
 「いままでメディアと思われていなかったものを、アイデアによってメディアにしてしまうことをメディア・クリエイションと呼ぶ」「アイデアでコンタクト・ポイントそのものを新たにメディアにしてしまう」
(3)クチコミを利用して待ち伏せる
 英語では、BUZZ(バズ)とかWOM(ウァム)とかVIRAL(バイラル)と呼ばれる。
(4)CGMで待ち伏せる
 「消費者が創ったメディア、CGM(Consumer Generated Media)が注目されるのは、それがクチコミを媒介するからである」
(5)エンターテインメントの中で待ち伏せる
 「『消費者がわざわざ探して見に来たくなるようなコンテンツ』をプル型コンテンツ(プル、つまり消費者が自ら取りにくるコンテンツ。逆にプッシュ型は消費者に一方的に送り出すコンテンツのこと)と呼び、その中に広告を忍ばせることをブランデッド・エンターテイメントと呼んだりする」
(6)検索結果で待ち伏せる
 古典的なAIDMA(アイドマ、消費者はCMなどで注意<Attention>を惹きつけられ、興味<Interest>を持ち、欲しいという欲望<Desire>を抱き、商品名を記憶<Memory>し、購買行動<Action>に移るというもの)からAISAS(アイサス、AIまでは一緒。その後が違う。商品に興味を持ったらグーグルやヤフーなどで検索<Search>して調べ、購買行動<Action>をし、その結果を消費者同士が、例えばブログやメールなどで教え合って共有<Share>するというもの)へ消費行動が変化。
(7)メディアをニュートラルに考えてクロスに待ち伏せる
 「『消費者に一番伝わるメディア、もしくはコンタクト・ポイントは何か』を先入観なくニュートラルに考えてコミュニケーションの真ん中に据えるのである」
 「ニュートラルに考えて中心メディアを決めたら、それに連続して戦略的にメディアを配置し、相乗効果を狙いたい」「このように相乗効果を起こし、消費者がメディアをクロスして動くように意識してメディアを配置することを『クロスメディア』と呼ぶ」
 
 佐藤氏は「変化した消費者に対して最低限これらを活用して、コミュニケーション・デザインしていくのである」と説く。

 この後、第5章で、ケーススタディとして、「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」が紹介される。
 これまでの話がよく分かる、この本のキモともいえる事例紹介だ。

 このあたりから、この本は「コミュニケーション・デザイン」について書いた本であることが分かってくる。
 「コミュニケーション・デザインは、メディアの役割分担を明確にして設計するので、メディアそれぞれの役割は最大化される」
 「どのメディアがどう伸びどう衰退するとか、そんな論ばかり言ってないで全部活用すればいいのだ」
 「広告業やメディア業界の外部の人がいろいろ言うのはいい。でも実際にその中にいる人は、消費者が使うメディアを全部活用して前向きにこの業界を伸ばしていくべきだ」 

 佐藤氏は「おしまいに」で次のように言っている。
 「魅力的な新しいメディアや便利なデバイス、次世代のテクノロジーがどんどん増え、エンターテイメントが身の回りに溢れる。既存メディアも(きっと)変化して消費者のために尽くそうとする。ネットという『消費者のメディア』もますます豊かに進化し、発信の自由度も増すと思う。暮らしていく分には相当楽しい『明日』だと思う」

 2年たって再読。新しいメディアがさらに増え、消費者の変化はさらに進んでいるが、この本の「提案」は少しも陳腐化していない。逆に言えば、広告界やマスメディア界は悲観論から脱することも、新しい方向に踏み出すことも、いまだにできていないのかもしれない。

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