池田紀行著『キズナのマーケティング~ソーシャルメディアが切り拓くマーケティング新時代』(アスキー新書)
池田紀行著『キズナのマーケティング~ソーシャルメディアが切り拓くマーケティング新時代』(アスキー新書、2010年4月10日発行)を読んだ。
「はじめに」を読むと、この本のスタンスがよく分かる。
「人と人、ウェブとウェブがつながるソーシャルな時代において、企業のマーケティングコミュニケーションはどう変わらなければならないのか。この本は、ソーシャルメディアマーケティングへの取り組みを煽るのではなく、その本質を理解してもらった上で、どう取り組むべきなのか(場合によっては取り組まないべきなのか)、ということについて、比較的冷静な視点で書いてみたものだ」。
「自社が抱える課題は何で、理想と現実の間にはどんなギャップがあってということを把握し、それを埋めるシナリオの中で、ソーシャルメディアマーケティングが向いているのであれば取り入れればよいだけなのである」。
「企業のマーケティングコミュニケーションは『変わらなければならない』のではなく、『変わることができる』のである。『脅威』ではなく『機会』なのだ」。
「この10年間に起こったマーケティング環境の変化」の考察はなるほど、と思った。
「世の中の情報流通量が爆発的に増加したことがアテンションエコノミーを引き起こし、広告が効かなくなった」と言われているが、「どうやら犯人は情報爆発だけではなさそうなのだ」として、8つの要因を挙げる。
1.消費の成熟―欲しいものは、もうすべて持っている
2.消費の学習効果―そして僕らは賢くなった
3.情報リテラシーの向上―毎日が、情報の取捨選択
4.メディアの多様化―消費者との接触ポイントは分散化
5.UGCの量的増加と質的向上―量が質を押し上げるサイクルに入った
UCGとはUser Generated Content(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)。「ユーザーが生成するコンテンツである」。
6.認識できる(取得可能な)選択肢の増加―だけど、選ぶのがメンドクサイ!
7.認知的不協和の増大―失敗しないから、調べまくる
「認知的不協和」とは、「あっちのほうが良かったかな」「失敗したかな」といった、「矛盾する認知を抱える状態で、そのときに感じる不快感」を表す表わす社会心理学の用語だという。
「大切な人と大切な日に行くレストランや、あまり買い替えのきかない家電、高額な自動車や保険商品、一生に一度か二度くらいしかない不動産の購入などは、その認知的不協和も巨大な怪物となる」「できる限り認知的不協和を回避したい僕たちは、いつからか購入前にネットで『失敗しないための』情報探索を丹念に行なうようになった」。
8-1.企業メッセージの相対的信頼性の低下―もう無垢な消費者ではない
8-2.広告アテンション獲得力の低下―広告は邪魔者
8-3.従来型CRMによる顧客関係性の維持・向上力の低下―顧客とのキズナづくりへ
CRM(Customer Relationship Management)は「約半数の企業で失敗している」という。池田氏はこれについて「そこに『キズナ』がなかったからだと思っている」と分析する。
「これからのマーケティングに求められるのは、企業と消費者の真の『キズナ』づくりだ」。
ここからキズナづくりのためのソーシャルメディアマーケティングの具体的なノウハウが語られ始める。
ソーシャルメディアマーケティングには
(1)短期的な話題化を図るバズ・バイラル型
と
(2)アドボカシー型
がある。
「バズとは、『鉢の羽音』(蜂がブ~ンとざわめいている)という意味で、話題となるコンテンツをつくり、そこに人を惹きつけるプロモーション手法だ」「一方、バイラルは『ウイルス』という意味で、話題性のあるバズネタを人から人へのクチコミでウイルスのように伝播させるマーケティング手法である」
アドボカシー(advocacy)とは。『顧客の信頼を勝ちとる18の法則―アドボカシー・マーケティング』(山岡隆志著・日本経済新聞社)によると、「『支援』『擁護』『代弁』等の意味を持ちます。顧客との長期的な信頼関係を築くため、企業は顧客を支援します。…『アドボカシー・マーケティング』とは、徹底的に顧客の側に立って、モノゴトを考え実行する信頼ベースのマーケティング手法です」という意味らしい。
なぜ、アドボカシー型に取り組まなければならないのか?
池田氏は次のような理由を挙げる。
(1)潜在顧客とお近づきになるチャンスを失ってしまうリスク
(2)競合他社が先にキズナを形成してしまうリスク
(3)消費者のホンネを知らないリスク
(4)無駄な広告宣伝広告コストをかけ続けるリスク
(5)変化したマーケティング環境に適応できないリスク
(6)手遅れになってしまうリスク
リスクを恐れ、先頭に立って行動を起こさない企業が増えているが、何もしないことがリスクであるという視点が面白い。
しかし、「ソーシャルメディアマーケティングは『結果』をコントロールするものではなく、最適な結果を導き出すための『プロセス』をマネジメントすること」なのだ。このことを池田氏は何度も強調する。
「ソーシャルメディアはクチコミ同様、消費者同士が利害関係なく、自由にコミュニケーションをしている公園なのだ。その公園であなたはマーケティングを『させていただく』のである」というたとえはわかりやすい。
ここを間違えると、ソーシャルメディアマーケティングは失敗する。
実践篇では、具体的事例も交え、詳しくソーシャルメディアマーケティングを解説する。
ソーシャルメディアマーケティングは難しいが、うまくいけば効きそうである。
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