夏野剛著『1兆円を稼いだ男の仕事術』(講談社)
夏野剛著『1兆円を稼いだ男の仕事術』(講談社、2009年7月2日発行)を読んだ。
このタイトルは夏野氏のドコモ時代の上司、榎啓一氏の「夏野がドコモにもたらした利益は、1兆円をくだらない」という言葉からとったものだ。
「まえがき」で夏野氏は言う。
「さて、偉そうなタイトルがついてしまいました。実は講談社から本書の企画を提案されたとき、私は出版すべきか否か、ずいぶんと迷ったのです」。
「私は『iモード』の開発や『おサイフケータイ』の立ち上げ、『FOMA』の再生といった、大きなビジネスに携わってきました。…いずれも仲間と力を合わせたからこそ成し遂げられたのです。…にもかかわらず、『俺が』『俺が』的な本を出すのは、いささかはばかられる」。
「一方で、胸の中にある『思い』を多くの人に伝えたい、という気持ちも強くなってきました」
「私たちが働く『目的』は社会の貢献にある」。
「会社は『道具』であって『目的にあらず』」。
「まえがき」を読んで、「俺が」「俺が」的な本でないことが分かり(笑)、読むことにした。
夏野氏の考え方のベースを知るために、まず読んでおきたい本だ。
まずは同書にある略歴を確認してから、読み進めた。
1965年、神奈川県に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒業。1988年、東京ガスに入社。1993年から米国ペンシルベニア大学経営大学院に留学し、経営学修士号(MBA)を取得。1995年に帰国し、ハイパーネット社に参加、後に同社の副社長に就任。ハイパーネット社は1997年に経営破綻し、同年NTTドコモに移籍、松永真理氏らと「iモード」ビジネスを立ち上げる。その後、ドコモのデータ通信料収入は、2008年3月期において1兆3700億円を超える。iモード以降も「おサイフケータイ」をはじめとするドコモの新規事業を企画・実現し、他社との幅広い提携を推進、合弁会社などを多数立ち上げる。2005年6月にはドコモの執行役員に就任。iモードビジネスにおける功績は国際的にも知られ、米国の経済誌「Business Week」は、2001年5月に「世界のeビジネスリーダー25人」に夏野を選出。2008年6月にNTTドコモを退社し、その後、ドワンゴの取締役に就任、「ニコニコ動画」の「黒字化担当」として活躍。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授、トランスコスモス社外取締役、NTTレゾナント社外取締役、セガサミーホールディングス社外取締役、SBIホールディングス社外取締役、ぴあ社外取締役などを兼務。
第1章で夏野氏は「これまでの私の経験から、成功に必要な要素は3つあります」という。
①10パーセントの才能
②20パーセントの努力
③70パーセントの運
「自分自身を飛躍的に向上させる、会社に莫大な利益をもたらす、また、社会に大きな影響を与える大成功を勝ち取るためには、運の力の後押しはどうしても必要になってきます」。
「ドコモにこないかと松永真理さんが連絡をくれたのも、私が学生時代から懇意にさせてもらっていたことがもたらしたわけです」。
そして松永真理さんは夏野氏が「インターネット・ビジネスを展開しているハイパーネットに在籍していたからこそ、その知識と経験を買ってくれたのに違いありません」。
「さらに、中途採用で入社した私や真理さんが、ドコモでそれぞれの能力を発揮できたのは、iモードの開発を担当していたゲートウェイビジネス部のトップに、榎啓一さん(現・ドコモエンジニアリング社長)がいたからでした」。
「いくつもの偶然が重なり、その偶然好機に変えることができたのは、それまでに築き上げてきた人脈があったからこそです。自分が歩んできた人生の充実度と比例して運がめぐってくる確率は高まるのではないでしょうか」。
「仕事なんて辛くてたまらない」が、それでも喜びを感じるのは「運と縁に支えられ、全力で突っ走ったあとに味わえる、何ともいえない充実感」があるからだと夏野氏はいう。
「もう一つ、私のモチベーションになっているのが、人々の『期待』。…人々に求められるということは、世の中が必要としているわけであり、それは私にとって『最上の喜び』です」。
第2章では商品開発について触れる。iPhone開発で陣頭指揮をとったアップルのスティーブ・ジョブズ氏、青色発光ダイオードを発明した中村修二氏を引き合いに出し、こらからの時代の商品開発には「個人の信念」が最も必要な要素になる、と夏野氏。
「世の中にはモノが溢れ、情報が溢れています。消費者の目が肥え、中途半端な商品では見向きもしてくれない」「皆の意見を持ち寄るというのは、確かに民主的であり大ハズレしないという面もあります。しかし、どうしてもその商品に対する信念や思い入れが薄くなってしまうのも事実です。…そこで求められるのが、リーダーの熱意であり、意思であり、魂なのです」。
第3章で、夏野氏は、「多様化し、複雑化し、加速度的に変化」する現在のビジネス現場でリーダーが決断を下す際に必要なのは「社内、社外を問わず信頼できる視点を持った人材であり、彼らとのネットワーク、つまり『人脈』です」と強調する。「『人』の力こそが、決断する力になるのです」。
そして人脈づくりのベースになるのが「Win-Winの関係」だという。
夏野氏は「大きな仕事に従事し、それを成し遂げたとき、そこには良き人脈がありました」と振り返る。
「大きなビジネスの現場では、個人ベースでのお付き合いも重要になってくるものです。肩書をぶら下げた者同士の関係で話し合っても、物事はスムーズに進展しにくいでしょう。『これは我々が出すから、あなた方はこれを出してください』 こういった、信頼し合える者同士が、腹を割って話し合うことからすべては始まります」「利益の取り分をどうするのかといったことより、真っ先に優先させるべきことがあります。それが『ともに目指すものが何なのかを明確にする』ことです」。
どのような人たちとネットワークを結ぶべきか。夏野氏がウォートン留学中に学んだチャンピオン・セオリーによると、「自分の一生をかけて仕事に取り組んでいる人。組織からは疎まれながらも正論を吐き、周囲から一目置かれている人。自己の安直な利益を優先させるのではなく、会社の利益をしっかりと考えている人」などが「チャンピオン」と呼ばれるらしい。「そういった人と積極的にネットワークを作っていけば、自分にとってプラスになるのです」と夏野氏は言う。
第4章では「勝てるケンカのための3条件」が明らかにされる。
①自分が成功を確信できていること
②論理的に筋道、理屈が通っていること
③社会、会社のためになっていること
この3つが整っていたときには徹底的にケンカをしたという。
最終章で夏野氏は改めて、「私はつねづね、会社とは社会を変えるためのプラットフォーム、つまり土台であり道具だと考えてきました」と語る。そして働く理由、目的は「『世の中に良き変革』をもたらし、『社会に貢献する』こと」であるとし、だからこそ「つねに社会に貢献できる新しい価値を提供することを目指してきた」と言う。
ところが、世の中を見ると、給与や待遇、上場することや役員になることを目的とする人が多く、「社会が求めるものが見えなくなる」と夏野氏は嘆く。
「『働く<目的>が社会の発展にある』という視点を持っていれば、社会が会社に求めることに応えることができ、それが自分の成功にもつながるのです。そして、会社そのものや最新の技術、資格までもが、『目的』を達成するための『道具』であることが見えてきます」。
夏野氏の言葉をしっかり胸に刻みたい。
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