« 夏野剛著『グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業』(幻冬舎新書) | Main | 増田幸弘著『プラハのシュタイナー学校』(白水社) »

坪田知己著『人生は自燃力だ!! 私の日本経済新聞社生活37年』 (現代プレミアブック)

Tubota_shizenryoku1

Tubota_shizenryoku2
人生は自燃力だ!! 私の日本経済新聞社生活37年

 坪田知己著『人生は自燃力だ!! 私の日本経済新聞社生活37年』 (現代プレミアブック、2010年10月7日発行)を読んだ。

 坪田氏は、2009年12月末、日本経済新聞社を定年退職した。37年と9ヵ月、日経に勤めた。
 「私は1994年からの約16年間、会社の枠組みを上手く使いながら、やりたいことをやり抜きました。会社から押し付けられたものではなく、すべて自分の考えで自分の仕事をしてきました」と坪田氏。「何事にも前向きになれるよう、自らを促し、その気持ちを持続・発展させることができました」と言い、この推進力を『自燃力』と名付け、この本のタイトルとした。
 「この本では『創造型サラリーマン』になるための『自燃力』を得てもらうために、私が学んだこと、経験したことを書きます」と言う。

 坪田氏を個人的にも知っているので楽しく読むことができた。
 
 第一章で、坪田氏はデジタルメディアにかかわるようになったきっかけを次のように語る。
 「私の転機は、1981年にアルビン・トフラーの『第三の波』を読んだことです。同書には『メディアは全てデジタルの世界に入っていく』と書かれていました。実際、1986年にパソコン通信に出会い、『第三の波』で受けた衝撃は確信に変わりました」「さらに1989年から2年間、私は日経BP社で『日経コンピュータ』誌の副編集長を務めました。その間、ハイパーテキストの概念をまとめた情報工学の開拓者、テッド・ネルソンらデジタルメディア界の巨人たちにインタビューをするなど、デジタル世界の地検を深めました」「1994年に日経新聞に復帰して経営計画の担当になってからは、デジタルメディアに関する自分の確信と知識をフルに使って、日経新聞という経済メディアがデジタルで発展する基盤を創ろうとしてきました。そして『日経新聞・電子版』の前身と位置づけられるニュースサイト『NIKKEI NET』の立ち上げや、米国のインターネットプロバイダー、AOL(アメリカ・オンライン)との提携を手がけました」。

 NIKKEI NETはさらに電子新聞へとつながっていく。
 2005年8月中旬、杉田亮毅社長(当時)から「デジタル事業の核として有料制の電子新聞をスタートさせなくてはならない、と私は考えている。ただ、ひとつ悩んでいることがあるんだ。電子新聞の立ち上げにあたって、現在の『NIKKEI NET』の部隊にやらせるべきか、電子新聞の新しい部隊を創るべきか――」と相談を受けた坪田氏は、「編集局を軸に、新しい部隊を創るべきです」と答えたという。
 「電子新聞プロジェクトは、年間数百億円の収入を生む、今後の会社経営の命運を握る一大計画だと私も社長も考えていました。この『社運が懸かっている計画』という意識を社内に浸透させるためにも、ものづくりの中核である編集局の記者がプロジェクトに参画することは必須でした」。
 「私が社長に呼び出されてから7ヵ月後の2006年3月、無料の『NIKKEI NET』を発展・継承させた有料の電子新聞プロジェクトがスタートしました」「開発スタッフは当初十数人でのスタートでしたが、『日本経済新聞・電子版』創刊時は200人近くになりました」。

 この章で、坪田氏は、いま話題になっている日経電子版とのかかわりを中心に、日経でしてきた仕事について語っているが、「日経デジタルコア事務局代表幹事、日経メディアラボ所長」の印象も強い。社外で幅広いネットワークを構築して、新聞記者としての活動だけでは得にくい種類の情報や知見を集めていたからだ。
 2003年から2010年3月まで慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別研究教授も務めるなど、その目はいつも、社内よりもむしろ、社外に広がる世界を見ていた。
 
 坪田氏のこうした経歴も知ったうえで、本書の大部分を占める坪田氏の「創造型サラリーマン論」を読むと、実践に裏打ちされた坪田氏の言葉が力強く伝わってくる。

 会社と社員との関係はどう変わっていくか。
 「企業が情報を独占できる時代は終わりを迎えつつあります」「トップを頂点にしたピラミッド型の構造は今後、現場の社員を頂点にした逆ピラミッド型の構造へと『さかさまになっていく』」。
 「個人が会社に対して優位に立つ時代は来ると思います。会社が上で社員が下、という常識は会社が『さかさまになる』これからの時代、必ずひっくり返るでしょう」。
 
 第二章で、坪田氏は「人生を貫く『覚悟』がなければ『自燃力』は維持できません」とし、その覚悟をどう形作っていったかを語る。
 「世に生を得るは事を成すにあり」という坂本龍馬の言葉を引用し、「『自分なりに成果を挙げた』という満足感で、世を去りたい」と言う。 

 「会社に命じられるもの」が仕事なのではなく、「生きていることが全部仕事」であるとも言う。
 同時に「生きていることの全部が遊びだ」とも本音を漏らす(笑)。

 第三章「『信念力』で仕事をする」では、なぜ「44歳の時から定年までの約16年間を『自分の好きなことだけやる』で通せた」かの秘密を明らかにする。
 「広く世界をながめ、時代を認識する。…そこに布石を打っていけばいいのです。やがて会社は、自分が布石を打ったところに入ってきます」。
 「命をかけるべき信念を築き、信念に沿って仕事をしていればチャンスが訪れる。チャンスを最大限活かすために、勉強をしてポジションを確立する。一度ポジションを確立しさえすれば、仕事は抜群に楽しくなります」。

 第四章「『知識力』を磨け」
 「『会社』ではなく『自分』との関係を作り上げる上で『知識力』は不可欠」で、知識力をつけるためには、いい本を厳選して読むことが必要と坪田氏は言う。そして、7冊の「人生の書」を紹介する。
 
 「『知識力』がどこまでついたかを確認する」ために、論文や本を書いたと言う。
 「本や論文を書くには、論理構成がしっかりしていて、事実確認ができていなければなりません。単に『知っている』程度の知識ではダメなのです。こうした訓練が、知的能力を向上させますし、それを世の中に問うことで、自信がつきます」。
 
 「また、講演などを聞く時に、ノートの左側には講演内容の要点をメモしますが、右半分には、そこで思いついたこと、講師への反論などを手短に書いています」「このようにメモのとりかたひとつでも、自分らしく独自の工夫を加えて、自分のスタイルにしていくことは、知識力をつける基礎になる」。

 第五章「『つながり力』を拡張しよう」
 「『つながり力』の強みは、人を介して仕事がどんどん広がっていくこと」。 
 これこそが坪田氏の最大の強みではないかと思う。

 第六章「豊かな人生のために」
 会社が与えてくれる役割に満足し、「自燃力」を持たないサラリーマンは退職すると行き場がなくなると坪田氏。
 「自分らしい仕事の仕方、生活スタイルを作った『自燃力』のある人が豊かな老後を楽しめるのです」。
 
 坪田氏は定年退職を機に、「フリーエージェント宣言」と銘打ち、仕事を受けるためのホームページを立ち上げたと言う。「自分の過去の経験を活かして、①メディアビジネスについてのアドバイス②地域活性化のアドバイス③商品開発のアドバイス④本の編集⑤『創造型サラリーマン』への研修・講義――を『できること』として列挙しています」。定年退職者はみなフリーエージェント宣言をすればいいと思う。

 カバーデザインは、出版社が新聞をこよなく愛していた坪田氏のためにデザインしたのだろう。
 ただ、坪田氏のような生き方をする人は、個性あるジャーナリストが多いと思われている新聞社の中でもそう多くはないと思われる。

 しかし、これから時代が大きく変わり、坪田氏が予想するように会社と社員の関係が逆転する時代が来れば、坪田氏流の自分を活かす生き方こそが、サラリーマンのスタンダードになるに違いない。

 そんな世の中になることを私自身も期待してしまう。

| |

« 夏野剛著『グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業』(幻冬舎新書) | Main | 増田幸弘著『プラハのシュタイナー学校』(白水社) »

Comments

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 坪田知己著『人生は自燃力だ!! 私の日本経済新聞社生活37年』 (現代プレミアブック):

« 夏野剛著『グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業』(幻冬舎新書) | Main | 増田幸弘著『プラハのシュタイナー学校』(白水社) »