夏野剛著『グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業』(幻冬舎新書)
グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業
夏野剛著『グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業』(幻冬舎新書、2009年7月30日発行)を再読した。
この本で夏野氏が言いたいことは、「まえがき」でほぼ言い尽くしている。
「アマゾンやmixiのように成功する企業が現れると、同じように、新しいウェブの技術を駆使しさえすれば、自分たちのビジネスもうまくいくに違いないと思ってしまう企業が多すぎる」「確かに、IT革命がもたらした情報流通の超高速化は経営環境の変化を加速させた」「だからといって、『ビジネスにインターネットを使えば何もかもが成功する』と考えるのは大きな間違いだ」「世界有数のネットワークインフラを持ち、高機能なケータイ端末を使いこなす日本人が、ITビジネスの世界ではアメリカにいかに後れをとっているか。ひとえに、ITビジネスを理解し、牽引していくリーダーが各々の会社に存在していないからだとしかいいようがない」。
第一章で夏野氏は「日本ではウェブの価値、そしてウェブビジネスの本質を誤解している企業があまりにも多かった」と指摘する。
「一番ありがちで大きな過ちは、『リアルビジネスとウェブビジネスは別物』という考え方だ。実は、ウェブやITというのは、単なるツールにすぎない。つまり、自分が手がけている商売の本質は、ウェブになっても何ら変わらないのだ。なのに、世の中はインターネットが一般的になったから何かやろうという安易な発想でウェブビジネスを始める企業が多すぎる」「ウェブで儲からない人は、もともとリアルビジネスも儲かっていないケースが多い」。
「既存の商店から、ウェブでも事業を始めたい、と相談を受けた際、私は必ずこう言うことにしている。『まずは、リアルの世界でやっていることは、すべてウェブでもやってください』 その上で、ウェブは実店舗でできないようなことがたくさんできるので、それを志向してくださいと」。
例えば、個人情報を先に登録させるサイトはダメ。「リアル店舗であれば、先に買い物をさせて『こういった特典があるからメンバーになりませんんか』と勧誘するのが当たり前だというのに、ネットはその工程が逆になっている」。
カニバライゼーションを恐れてインターネットビジネスに二の足を踏む企業も多いことも問題だという。「経営者としての視点が圧倒的に狭すぎると言わざるを得ない。自分の会社の商品の中で、自分の会社の売り場との比較でしかものを考えていないからだ」。
夏野氏はさらに、iPhoneのようなプロダクトは日本で生まれないと言う。iPhoneのようなプロダクトはハードウェア技術者の発想からは生まれないから、「その上のリーダーがプロダクトの使命を知り尽くした指令を出す役割を追うべきなのだ」が、「日本企業の場合、リーダーがビジネスのディテールを知らない、あるいはディテールを知らなくてもリーダーが務まってしまう組織構造だから」、「ソフト、ハード、そしてビジネスモデルも含めて、ユーザーのための価値を最大限にするための設計がほどこされている」iPhoneのようなプロダクトは実現しない。
第二章で、夏野氏は「ウェブビジネスを成功させる鉄則」について述べる。
「ウェブビジネスの大きな特徴は、『参入障壁が低い』ことだ」「自分が一番になったら、とにかくひたすら全速力で走り続けるしかない。…『ウェブ上に情報を提示すること=裸と等しい状態』なのだから、立ち止まってしまえば現在やっている内容が全部見えて、研究され尽くしてしまう」「自分たちの事業を真似された上に、プラスアルファの価値を追加されれば、ライバルが勝つのが当たり前」「参入障壁が低いということは、誰にでもチャンスがあるということだ。だから、人の『底力』が露呈しやすい」。
「底力とは、言い換えれば『自分が得意とする分野の知識、経験、興味』のこと。…ウェブビジネスで走り続けるには、知識、経験、プラス本当に興味があるかどうかが鍵」。
ウェブビジネスの厳しさを語った上で、夏野氏はEコマースのノウハウについて詳しく解説する。
第三章「ウェブビジネスの未来」ではウェブ広告、電子マネー、デジタルコンテンツについて考察する。
そして第四章。「旧来型日本企業への提言」。
夏野氏は、「ウェブは正しく使いさえすれば、これまでアクセスできなかった顧客へリーチできる強力な武器になる。とりわけ『飛び道具』としての性格が強い。地方からでも東京、あるいは日本全国、さらには世界を相手にして商売ができる」と強調。「ビジネスのドメイン、顧客、マーケット、ビジネスのやり方、在庫の持ち方――これらすべてのプロセスを見直すことが、飛び道具を使いこなすコツだ」と語る。
どう使いこなすか。
「新機軸ビジネスに向いた人材を集め、チームを組むことから始めなければ、うまく回るはずがない」。
「自分の会社の強みや弱みは何かをきちんと考え、強いところをどんどん伸ばして」いくことを考えて、ウェブビジネスに取り組む。
そして「IT時代、新しい商品開発を含めたすべての権限をリーダーに任せよう!」と夏野氏は提言する。
現代は情報が多すぎて、「時間をかけて議論を尽くせば尽くすほど、結論が出ない」。
「出ないのであれば、思い切ってやり方を変えるしかない。責任者を決め、責任と権限そして信念を持ち、ある意味自分の人生を懸けさせる。うまく遂行できなかったら、責任を取って辞めさせる」。
夏野氏は「ウェブビジネスというのは、組織的に、何か新たなディレクションを出そうといった、会社全体のストラテジーの話なのだ。そのことをリーダーが理解できないから、現場だけがウェブに対応し、それだけで終わってしまっている」と、最後に日本の経営者たちに苦言を呈する。
ウェブビジネスへの対処法を論じる本書だが、行き着くのは、日本の硬直的な組織とリーダーの不勉強という大きな障壁のようだ。
その思いが『夏野流脱ガラパゴスの思考法』につながっていくのだろう。
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