デジタル教育は是か非か?その(2)中村伊知哉、石戸奈々子著『デジタル教科書革命』(ソフトバンク クリエイティブ)
中村伊知哉、石戸奈々子著『デジタル教科書革命』(ソフトバンク クリエイティブ、2010年10月7日発行)を読んだ。
本書によると、「2010年、教育の情報化が急速に動き始めた」。
「きっかけは2つある。まず、政権交代後、政府が力を入れ始めたこと」「もう一つは、新しいデバイスが一斉に登場してきたこと」だ。
とはいえ、「日本は動きが遅かった。デジタル教育の後進国と言ってもよい。アメリカ、イギリス、ポルトガルなどが力強い足取りを見せている。さらに、韓国やシンガポールは2012~2013年にデジタル教科書の本格利用を予定しており、世界をリードする。日本の7~8年先を行く」。
「そこで2010年7月、教育のデジタル化を推進する母体『デジタル教科書教材協議会』が発足した」「本書の著者である中村・石戸らが事務局を務める同協議会は、文部科学省や総務省など政府関係者と意見を交換するとともに、内外の教育分野の研究者や全国の学校の先生たちとも連携して活動していく」と言う。
「紙には紙のよさがある。黒板には黒板のよさがある。そろばんには電卓にないよさがある。だが、デジタルにはデジタルにしかできないことがある。それを使いながら、次の世代の教育を作ることはできないか。日本は今、その入口に立つのかどうか、ということが問われている」。
それを考えるきっかけとして、両氏は本書を執筆したと言う。
本書によると、前東京大学総長の小宮山宏デジタル教科書教材協議会会長は「知識が爆発的に増加して、処理しきれなくなっている。これが教育に影響を与えないわけがない。その多くがICTを活用することで解決される。デジタル教科書は理科、英語、芸術などの教育に有効だ」とし、「世界でデジタル教科書の取り組みが進む中で、ピッチを上げないと間に合わない。せめて2015年には全国の小中学生に普及させるべきだ」との考え方を示していると言う。
教育情報化のメリットの第一は、「コンテンツやアプリケーションがデジタル化することでもたらされるメリット」。
・わかりやすくなる。
・楽しくなる。
・繰り返せる。
・創作、表現がしやすい。
第二は、「情報端末とネットワークがもたらすメリット、『つながる』ことの効用」。
・共有できる。
・世界の知識を得られる。
・世界とコミュニケーションできる。
・どこでも学べる。
・個別に対応できる。
「効率性」に着目する意見もあると言う。
「黒板を電子黒板に変えることによるマルチメディア性と高速性、教科書やノートをタブレット端末に変えることによるハイパーリンク性といったものを活かし、授業を非常に効率化できる」。
本書では、世界でのデジタル教育がどこまで進んでいるかをリポートした後、日本での先進的な取り組みも紹介。デジタル教育に必要な電子書籍端末や電子機器、教育用アプリケーション、デジタル教材についても概観する。
たとえば、電子黒板。
「電子黒板は、海外では一般的に『インタラクティブボード』と言われている。黒板ではなく、白板、ホワイトボードの進化の中で誕生してきたものである」「電子黒板市場が拡大する大きな契機となったのは、イギリスが国を挙げて電子黒板の導入に力を入れ、実際に学校導入数でほぼ100%、教室導入数で言えば8割以上の教室に導入したことであった」。
「電子黒板を中核に置く意味は、電子黒板が授業で先生と生徒の『対面コミュニケーション』を活性化するところにある。タッチ・インタフェース。手書きで板書ができる。教科書や資料、児童のノートまで、ありとあらゆるものを教材として大きく映し出せる。画像や音声、動画、アニメーション、3Dなどマルチメディアを駆使できる。教師が自分でマルチメディア・コンテンツを作成できる。電子黒板のスペースは無限にあり、どんどん記録し、再利用することができる」。
ここまで読み進んでくると、電子教科書が教育現場に入ってくるイメージがかなり鮮明になってくる。
では、どのように教育情報化を推進していく考えなのだろうか。
課題はたくさんあるようだ。
まず、開発面。
「基本的な課題は、子どもたちが使う情報端末も、デジタル教科書や教材も、学校におけるネットワーク環境も、いまだ圧倒的に不足しているか、そもそも存在していない、という点だ。端末も教材もクラウド環境も、これから創り出し、改良に改良を重ねていかなければならない」。
普及面の課題。
「まず、デジタル教科書・教材を指導にうまく活用できない教員への対応だ」「教員サポート体制も重要な課題だ」「校務の情報化も大切」。
「現場に普及のドライブがかかるためには、現場から『是非とも情報化を』という声がわき上がらなければならない」。
「制度の問題もある。既存の諸制度、特に教科書検定制度や教科書無償供与制度、著作権の問題については、デジタル教科書教材を普及させるに当たり、処理しなければならない課題となる」。
おカネの問題。コスト負担。
「学校のICT基盤の整備が遅れた原因は予算措置のあり方にあるという意見が強い。整備予算が『地方交付税交付金』であり、ヒモつきでなく地方自治体の裁量があるため、もともと積算されている額のとおりに実行されず、他の用途に振り向けられてしまうという実情がある」「地方のことは地方に任せよ、という地方分権のトレンドの中で、どう全国版との折り合いをつけていくか。悩ましい問題だ」。
「予算制度の問題もある。日本は物品購入には予算がつくが、通信費・保守・メンテナンスには極めてハードルが高い」。
「1台数万円はかかる情報端末を整備し、学校のネットワークを整備し、たくさんのデジタル教科書を配布する。相当な金額の予算措置が必要だ」。
こうした課題をクリアするためには、何よりもまず、デジタル教育やデジタル教科書に対する社会全体の理解を深める必要がある。
ハードルは低くない。
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