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地域再生のヒント満載の好著、井上 ひさし著『ボローニャ紀行』 (文春文庫)

Bologna_kiko
ボローニャ紀行 

 井上 ひさし著『ボローニャ紀行』(文春文庫、2010年3月10日発行)を友人から勧められて読んだ。日本の地域社会を活性化するためのヒントがたくさんあり、面白かった。

 ボローニャは「ヨーロッパでもっとも古い大学、ボローニャ大学の所在地である」「古くから物資の集散が盛んで商業が栄え、商売には約束や契約が付きものだから、それについての学問、いうならば法律学の勉強を志す青年が大勢いた。彼らがてんでに学者のもとへ通学する個人学校が林立するうちに、それらの青年たちが学生組合をつくって、そこへ学者を招いて講義させるという形をとって実学中心の大学が発足した。それが1088年である」。
 「学生が管理する大学だから、教授の人選は学生がやる。授業内容も、給料も学生が決める。つまらない講義をする教授や、聴講生の少ない教授からは学生が罰金を取る」「単位取得試験は、すべて筆記と口述の併用なのです。しかも口述の単位取得試験は公開で行われる。…見学者たちに囲まれながら、教授が矢継ぎ早に繰り出してくる質問に答えなければなりません」

 翌年に迫った市長選挙の候補者定めの集会。「ボローニャ大学の教授と学生たちによる1時間ほどの報告がありました」「右派市長のもとで街がどう変わったか。左派市長時代よりよくなったことはなにか、そしてどんなところが悪くなったか。彼らは1年がかりで調査していたのです」
 「よくなったところは一つ、とにかくわずかだが景気がよくなった」。
 「しかし悪くなったところがたくさんある。たとえば、バスやタクシーや個人車はこれまで旧市街に入れなかったのに、現政権による規制緩和によって通りは車の洪水になった。…景気か、散策の楽しみと命の安全か」
 「現政権になってから、市内40の劇場への助成金が減っている。…オペラや演劇は日々の糧ではないか、それなしでは生活の質がガタンと落ちるに決まっている。…景気か、生活の質か」。
 「未来を育てるとは、子どもを育てることである。ところが現市長は、未来養成機関の保育所から高校までの、すべての公立校の予算を削っている。景気か、未来か」
 「文章にしてしまうと硬くなるのが残念です。会場では、報告や演説に即座におもしろいマンガやコメントが添えられるので、聴衆は初めからおしまいまで笑いつづけていました」。
 市長候補が登場すると、「市民たちが次つぎに、『市長になったらこれはどうするつもりか』『この問題はどう処理するのか』『この難問をどう考えるのか』と質問を突きつける」。候補者は汗をかきながら必死になって答える。

 一方で、全国規模の選挙ではとんでもない人が選ばれる。
 「シルヴィオ・ベルルスコーニは民間のテレビ局を三つも所有する実業家で、『メディアの帝王』という異名を奉られています。2001年の総選挙の前、彼は、マフィアとの癒着、脱税、政治家や裁判官や財務警察への賄賂、それから資金洗滌など、14件の裁判を抱えていました」「首相になってからのベルルスコーニがまたハデで、たとえば、国の赤字を埋めると称して、国宝級の文化財を含む国有財産を大量に売り払おうとしたり、一定の反則金を収めれば脱税を赦免する法律をつくろうとしたり…」
 井上ひさしはボローニャ大学のニーノ教授に質問する。
 「地域の選挙では膨大な労力を費やし、細心の工夫を重ねて、その椅子にふさわしい人物を選ぼうとするイタリア人が、どうして全国規模の総選挙になると、ベルルスコーニ氏のような素っ頓狂な人物を選んでしまうのか」
 教授の答えはこうでした。
 「わたしたちは、自分の街がうまくいっているなら、それで十分、たとえ国がどうなっても仕方がないと考えているんです」。

 「国という抽象的な存在ではなく、目に見える赤煉瓦の街、そしてそこに住む人たちのために働く」。そんな「ボローニャの精神」は何度も本書で紹介される。

 「1945年4月、ボローニャの人たちは、当時、街を支配し占領していたナチスドイツ軍とイタリアファシスト軍に対して、何度もデモを行ない、ストライキを打ち、やがて彼らと戦って、自力で街を解放しました」「守るべきものとは、誇大妄想狂たちが発明した空虚な言葉や抽象概念ではなく、具体的な人間や目に見える景色のことです」。

 ホームレスがいれば、手を差しのべる。
 『大きな広場』紙の「最新お助けニュース」。
 <インディペンデンツ通りの高級料理屋ディアナでは、水曜と木曜はパンやハムがあまるから、閉店間近の午後10時すぎに裏口へ行くのがいい。ただし、給仕のジュリアーノはケチな上に無愛想なので、彼を避けるのが賢明である。ジュリアーノは大男で、若いのに禿げているからすぐわかる。>
 「大きな広場の道」という組合では市が不要になったバスの車庫を無料で提供。そこに集まったブローニャ中の廃品をホームレスの人たちが修理して再び使えるようにして売りに出す。
 井上ひさしは「助けることで助けられる。この仕組みにすっかり感心してしまいました」と言う。

 国への不信と地域への愛着が強くなったきっかけになったのは戦後の復興時の出来事。 
 「戦後イタリアでは、いたるところでキリスト教民主党と共産党の二大政党が対抗していて、ときの中央権力は右派のキリスト教民主党の手中にあった。そこで中央権力は、復興のためのマーシャル資金を政敵であるボローニャにはなるべく回さないように画策したり、ボローニャが誇る精密機械をわざと買い渋ったり、かなり露骨にボローニャいじめをしました」「ところが皮肉な話で、中央のいやがらせが、ボローニャの精密機械を世界に広めることになりました」「やがてボローニャはイタリアでも指折りの裕福な都市になりました」。
 「このときボローニャの人たちは、中央政府と五分に争うまでに成長した自分たちの力量を、たとえば演劇で表現できないものかと考えました」「『自分がいま生きている場所を大事にしよう。この場所さえしっかりしていれば、人はなんとかしあわせに生きていくことができる』というボローニャ人の熱い思いを舞台に再現して、目に見えるものにしようと思い立ったのです」。
 「同時に旧市街の歴史的建造物の再開発にも着手しました。その原則は、『歴史的建造物は壊さない、もちろん外観も変えない、しかしその内部は市民の必要に応じて思いっきり変えてしまおう』というものでした」。
 このやり方は「『ボローニャ方式』と名づけられ、世界へ広まって行きました。つまりボローニャは都市再生の世界的なモデルになったのです」。

 ボローニャがボローニャ方式を推進するにあたって、必ずつくるのが組合だ。「なにかあるとすぐ組合会社をつくる。この組合会社のことを社会的協同組合と言う」「組合会社にはいくつもの特典があります。一人立ちするまでは税金を収めなくてもよろしい。市や国から援助がある。銀行や企業などの財団から堂々と資金援助を仰ぐことができる」。

 「貯蓄銀行は地域の公的目的のために、最終利益の50%を営業地域の自然保護、文化財遺産の保護と修復、地域の文化活動の促進に向けることが義務づけられていた」「他人のお金を運用して利益を出すのはいい。しかし、もともとが他人のお金を使って儲けたのだから、儲けの半分を、お金を預けてくれた地域の人びとに還元する。筋道の通った考え方です」。

 「過去と現在とは一本の糸のようにつながっている。現在を懸命に生きて未来を拓くには、過去の学ぶべきだ」というのがボローニャ精神の本質だというが、日本では都市再開発が必ずしも地域の再生に結びつかなかった。地域住民と地域との関係は希薄で、地域内で自らの問題を自分たちで解決しようという動きはあまり見られない。

 これから高齢化社会を迎えると、地域に暮らすシニアが増えてくる。目に見える街とそこに住む人たちのために働きたいというシニアも増えてくるに違いない。成熟した地域の文化、社会を再生させるために、「好きなことに夢中になっている人たちに資金を提供する」といったボローニャの方式は有効なのではないだろうか。

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