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孫正義vs.佐々木俊尚『決闘 ネット「光の道」革命』(文春新書)

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決闘 ネット「光の道」革命

 孫正義vs.佐々木俊尚『決闘 ネット「光の道」革命』(文春新書、2010年10月20日発行) を読んだ。
 本書は2010年5月13日、ユーストリーム及びニコニコ動画で配信された<孫正義×佐々木俊尚対談「光の道」>を適宜加筆・修正し、まとめたものだ。

 ソフトバンクの孫正義社長は10月25日、2015年までにブロードバンド通信の完全普及を目指す「光の道」構想に関連して、「NTTのインフラ敷設部門を分離し、政府をはじめ、NTTやソフトバンクといった通信会社が計5000億円を出資して新会社を設立し、民間から調達する3兆1000億円の資金で現行の電話回線を光回線に一気に置き換えるとべきだ」とする新提案を発表したばかり。

 そのもとになる考えや論点が良く分かる本だった。

 最初に孫氏が提言する。
 「『光の道』で一体何をしたいのかと申しますと、いまある6200万の固定回線(=メタル回線)をすべて光回線に替えましょう、しかも税金を1円も使わずに実現しましょう、ということです」。
 「これからは“情報アクセス権”という新しい権利が、21世紀の重要な基本的人権に加わると私は信じています」。
 「FTTH(Fiber To The Home=光ファイバーを使った家庭用データ通信サービス)の普及率は現在9割とNTTは言いますが、マクロ局にしろマイクロ局にしろ、いま光が来ているのは無線を受け取る鉄塔のところまで。家庭やオフィスの中まで光をもってきて、それをフェムト(フェムトセルの略。自宅に引かれているインターネット回線経由で携帯電話を利用する仕組み。近くに基地局がないため電波が届かない場所でも、携帯電話が利用できるようになる)化あるいはWi‐Fi(無線LANのこと。光ファイバーやADSLのインターネット回線を家庭まで引き、回線の末端に無線LANのアンテナを設置することで、自宅内のどの場所でも無線でインターネットを利用できる)化して、光を生活のすぐそばまで引き寄せなきゃいけない」。

 光線はメタルと同じ1400円で使えるようにするという。

 「ADSLも光も使わないおじいちゃん、おばあちゃんにまで、光を押し付けてどうする?」という声に対しては、「黒電話しか欲しくない場合も光を家まで引きます。そして家の内壁にアダプターをつけて、アダプターから黒電話までは従来どおりのメタル線でかまわない。黒電話がそのまま使えて、料金もいままでと同じであれば無理強いにはならない」という。
 「黒電話しか欲しくない人の家まで光をひく」のには理由がある。公的なサービスである電子カルテや電子教科書をいつでも使える状態にしておくためだ。
 「アダプターの中に、Wi‐FiのチップとONUとターミナルアダプター(光ファイバーの末端に取り付けて、パソコンなどをインターネット接続できるようにする装置のこと)を入れておけば、内壁からWi‐Fiがふいている状態ですから、往診に来たお医者さんや看護師さんが電子カルテで病歴に関する情報を見たり、夏休みで遊びに来た孫たちにも自宅にいるときと変わりなく、電子教科書を使って勉強することができる」。

 これに対し、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「いまの状況で何をすべきか?その選択と集中の問題において、やるべきことがちょっと違うんじゃないか」と持論を展開する。

 佐々木氏は例をあげて説明する。
 「ブロード化すれば即、電子カルテが普及するか、と言えばそんなことはなくて、カルテが電子化されてブロードバンドの上を流通するには、電子カルテのプラットフォームが必要になります。いまの日本に一番欠けているのは、この真ん中のプラットフォーム部分です」。
 「ブロードバンド化は大事ですが、多分それだけでは全体がうまく回らない」。
 「仮にiPadを無償で配って、全国の隅々まで行き渡らせたとしても、それを使って授業をする先生のITリテラシー(コンピューターやインターネットを使いこなす知識や技量)がいまのように低いままでは、あるいはそれに載せる“教材”というアプリケーションがきちんと出来ていない状態では、果たして電子教科書として流通できるのかどうか……」。

 インフラよりもプラットフォームの構築に今は全力を尽くすべきだ、というのが佐々木氏の意見だ。

 孫氏もプラットフォームの重要性は認めた上で、本当に国費ゼロでブロードバンドができれば、問題はないはずと、数字をあげて、説明する。

 孫氏は「『メタルの道』は本当に重たくて、保全費がかかる」「メタルの場合は距離が延びないので、途中にRT(リモートターミナル)という中継局を置かなければいけません。…この維持費にまた膨大な費用がかかる」とし、メタルと光の双方を保全していると年間1兆円かかるが、完全光化すると5200億円ですむとして、完全に光化したほうがお金がかからないと主張。NTTのアクセス部門(メタル線あるいは光線の物理線の部分)は今は2600円の赤字だが、完全に光化すれば3500億円の黒字になると試算する。
 
 そして、NTT東西のアクセス部分を切り離して、アクセス回線会社を作るべきであるとする。
 「メタルを廃止して、赤字を垂れ流している部分をストップすることによって利益の出る会社にする。その会社が、自ら出る利益の中でひかりをに引き直すことができるなら、公的資金、税金は1円も要りません」。
 光の設備投資には2.5兆円が必要だが、年間3500億円の営業利益が出れば、毎年4500億円の現金が残り、2.5兆円は6年間で全額返済できる、と孫氏はいう。

 佐々木氏はこうした孫氏の提案について、「実務ベースの検討を行なうというのが大前提」としながらも、「国費がゼロならば、僕は孫さんがおっしゃる『光の道』構想に何の反論もありません」と述べた。

 一方で、孫氏も「僕が光を引きたいだけだなんて、ちょっと待ってくれと、『たいがいにせい!』と思っているわけですよ。インフラ側と合わせて、利活用についてもお話ししている」と佐々木氏に対して歩み寄りをみせた。

 政策の優先順位などについては対立していた両者だが、医療クラウドができない現状を改革する必要性や、生活に密着したサービス開発の必要性などについては意見が一致していた。

 デジタル教育をめぐる田原総一朗vs.中村伊知哉」の議論と同様、改革が必要という大前提では両者は一致しており、建設的な対論になっていた。

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