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竹中平蔵、池田信夫、鈴木亘、土居丈朗著『日本経済「余命3年」 <徹底討論>財政危機をどう乗り越えるか』 (PHP研究所)

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日本経済「余命3年」
 竹中平蔵、池田信夫、鈴木亘、土居丈朗著『日本経済「余命3年」 <徹底討論>財政危機をどう乗り越えるか』 (PHP研究所、2010年12月10日発行)を読んだ。池田信夫氏が司会を務め、財政学の専門である土井丈朗氏と社会保障の専門家である鈴木亘氏が現状を分析、竹中平蔵氏が日本経済の中での財政のあり方を論じている。小黒一正著『2020年、日本が破綻する日』(日経プレミアシリーズ)を読んでいたので、内容をほぼ理解することができたが、基礎知識なしに読むと難しいかもしれない。
 
 第1章 「国家破綻」に至るシナリオ
 「座談会」をまとめた本は、概して素人には説明不足と感じるところが多いが、分かりやすい部分もある。経済書だと、表などを使っての詳細な説明が多いが、座談会のまとめだと、口頭で丸めて説明しているので、概要や要点がつかみやすい。

 土居氏の説明。
 「わが国の財政赤字は、90年代以降、景気対策のたびに累積し、2010年末には政府債務残高対GDP(国内総生産)比で、200パーセントに達する見込みです。この数字は財政危機に陥ったギリシャの120パーセントを大きく上回るもので、先進国中最大です。それでもこれまでは家計の金融資産がたくさんあり、直接・間接に国債を消化できたため、金利はそれほど上がりませんでした。ただ、今後も引き続きそうかというと、かなり危ういと、私は思っています」「いま政府の債務残高は1000兆円近くあり、一方、家計には1400兆円強の金融資産があります。とはいえ家計には住宅ローンなどで、400兆円ぐらいの負債が存在します。これを差し引いた1000兆円が家計の純資産となり、これが国債を消化する余力になります。この家計の純資産と政府の債務残高を比べると、1990年代はまだ家計の純資産のほうが多かったのですが、ここへ来て両者はだんだん近づき、国内で国債を消化するのが年を追うごとに容易でなくなってきています」「できるだけ早く、政府債務残高を抑制する政策に取りかかる必要があり、タイミングを逃すと日本での金利が上昇しかねません。金利上昇はめぐりめぐって、設備投資の際に企業の資金調達コストを上げることになります」。
 
 医療保険と介護保険に関する鈴木氏の説明。
 「重要なのは、これらが実は隠れた債務になっていることです。たとえば年金の場合、すでに保険料率が上がることが確定していますが、医療や介護について厚生労働省は上がるといっていません。…お金がなくても、命に関わる問題ですから、給付を出さざるを得ないわけです。つまり、将来絶対に医療保険給付費や介護保険給付費を支払う必要があるのに、いまその原資を全く用意していないという意味で、これらは一種の債務といえます」「実は年金も同じで、いまの年金受給者、あるいはもうすぐ年金受給者になる人たちに対して、国は死ぬまで年金を支払うことを約束しています。しかし、その裏にある積立金は絶望的に少ない。…合計800兆円の債務超過となります」「医療が380兆円、介護が230兆円で、全部足して債務超過は1410兆円ぐらいになります」「もし政治的に何も改革できなければ、社会保障におけるこのオフバランスの債務は年々、オンバランス、つまり国債発行せざるを得ない現実の債務に変わっていきます」。

 竹中氏。
 「2013年を一つのポイントにする必要があります。民間部門のネットの資産が約1000兆円あり、2012年から13年ぐらいには、これに国債の発行残高が追いついてしまう。そこから先、日本の国債は国民の資産の裏付けのない時代に入ります」「もう一つ、2015年には広義の団塊世代が全員、年金受給年齢に入ります。彼らの社会保障費が、やはり2013年頃からいっきに増えはじめる可能性が高い」「よく日本経済は『全治三年』などという人がいますが、私は『余命三年』と考えたほうがいいと思います。2012年、13年までが最後のチャンスで、それを超えていまのような状況が続くと、本当に何が起こるかわかりません」。

 第2章 税と世代間の負担をどうするか
 土居氏。
 「私の印象では、少なくとも2020年にプライマリーバランスを回復させるのでは遅すぎます。もっと早める必要があり、当然、増税も早めざるを得ません」「このとき切り札になるのが、消費税の増税と法人税の減税をパッケージにして、税収を確保しながら経済成長を損ねないようにする戦略です」「この考え方は、『できるだけ早くやるべき増税をやったほうが、将来上げざるを得ない税率が小さくてすみ、長期的に経済成長に資する』という、課税平準化理論に基づいています」。 
 「私が消費税を上げ急ぐべきと考えるもう一つの理由は、世代間の受益と負担の格差の問題です。端的にいえば、いまの高齢者の方に、もっと納税をお願いする。このとき公的年金等控除をやめる手もありますが、実際にはなかなか難しい。そうなると他の手段として、消費税しかありません」。
 「法人税率引き下げの反対者に私がよくいうのが、コンサルタントや節税の専門家に高い相談料を払って税逃れされるような高い税率を維持するより、税率を下げて税金が国庫に入るようにしたほうがいい、というものです」「グローバル化の中で高い税率を課しても、海外に逃げられるだけです」。

 第3章 社会保障をどうすべきか
 鈴木氏。
 「日本には、スウェーデンやデンマークなど北欧のような高福祉・高負担を目指すべきという議論があり、一方で、いまの日本は低福祉・低負担という議論があります。そこから、もう少し福祉も負担も引き上げる余地があり、中庸をとって『中福祉・中負担』という話になっています」「この議論の根本的な間違いは、OECDにおける中福祉・中負担の国、あるいは高福祉・高負担の北欧の国々では、すでに少子高齢化の時代が終わりつつあるということです」「ところが日本の場合、一世代の間に少子高齢化の構造が急激に変わるような状況です。2010年の段階で、生産年齢人口に対する高齢者の割合は約三分の一で、つまり現役世代三人が一人の高齢者を支える社会です」「こうした現実を考えれば、現在、社会保障の充実などと安易にいえるはずがないのです」。
 「一般会計の社会保障関係費は、社会保障の本体ではありません。…2010年度の社会保障関係費27.3兆円のうち、国が一般会計で公費を支出せざるを得ない部分はわずか6.6兆円なのです」「残り20.7兆は何かというと、社会保険に対して国が出している根拠不明な公費です」。
 「私は年金だけでなく、医療保険も介護保険もすべて積立方式に変えるべきと主張しています」「積立方式というのは、単に、賦課方式の元ではこれから少子高齢化が進んで、将来財政が大変な状況になるので、余裕のあるうちに将来のための『蓄え』を行なって、財政が苦しくなったときに取り崩す『基金』を作りましょうということに過ぎないのです」。

 第4章 経済成長の鍵になる考え方
 竹中氏。
 「現在のグローバリズムについて『フラット化する社会』という表現をする人がいます。これはアメリカのジャーナリスト、トーマス・フリードマンの言葉で、グローバル化が進み、デジタル革命が進むと、賃金水準など国際的に収斂していくというものです」「一方で『スパイキーな(尖った)社会』という表現もあります。非常にクリエイティブな人たちが経済を成長させ、所得をたくさん稼ぐ時代という認識です。これは都市経済学者で、トロント大学教授のリチャード・フロリダの言葉です」「『フラットな世界』においては、同じことをやっていたら給与は下がっていきます。だから日本人は今後、『スパイキーな世界』に挑まなければならず、それができるような政策を日本政府は取る必要があります」。

 第5章 真の「政治主導」の実現を
 (略)

 竹中氏、池田氏の主張はいろいろなメディアで聞いたり読んだりしているが、鈴木氏、土居氏がどんなことを語っているのかは知らなかった。二人の経済学者の主張の一端が分かったのが有益だった。  

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