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東京大学高齢社会総合研究機構著『2030年 超高齢未来 ―「ジェロントロジー」が、日本を世界の中心にする』(東洋経済新報社)

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2030年超高齢未来

 東京大学高齢社会総合研究機構著『2030年 超高齢未来 ―「ジェロントロジー」が、日本を世界の中心にする』(東洋経済新報社、2010年12月9日発行)を読んだ。
 「いまから20年後の2030年には、団塊の世代が80歳超になり、65歳以上の高齢者が人口の3分の1を占める超高齢社会が到来します」。
 「『高齢者が増加すること』をいわば契機として、社会のあちこちに急激な変化があらわれてくることが想定されるのです」「社会の急激な変化によって、これまで構築してきた社会の仕組みが十分に機能しなくなり、多くの人が日常生活に困難をきたすようになる。そんな状況が強く危惧されます」。
 「これから先、超高齢社会の問題が大きな広がりをみせていくことは間違いありません。しかもそれらの問題は、一つひとつが独立しているものではなく、さまざまな形で互いに深く関わっています」「その解決のためには、多くの人々の思いがひとつに合わさり、立場や分野を超えた連携が新たな価値を生み出していくような流れをつくることが必要です」「そのときによりどころとなるのは、誰もが共感できる『豊かさを実感できる、幸せな超高齢社会』の将来ビジョンです」。
 問題なのは、もう時間がないにもかかわらず、その『幸せな超高齢社会』を築くためのビジョンや道しるべを、ようやく議論しはじめたばかりだということです」。

 問題が大きそうだということや、取り組みが大変困難だということは分かった。この問題をわれわれは本当に解決できるのだろうか。政治が混沌としているだけに、不安ばかりが募る。
 
 超高齢社会にはどんな問題が生じるのだろうか。
 「通常、医療費は、年齢とともに上昇していきます」「また、医学や医療機器の進歩に伴う医療の高度化によっても、医療費は上昇します」。
 「わが国の医療費は、2008年で年間34兆円、介護費用は7兆円、計41兆円です」「2025年には医療費が70兆円前後m介護費用20兆円前後、計90兆円前後に増大し、年金の給付費は2007年の年間48兆円が、2025年には65兆円程度に増大すると推計されています」。
 「医療水準を落とさずに医療体制を維持するためには、国民全体の健康度を上げることで患者数が減ることにより、医療費の総額を抑制することが求められます」
 年金の負担も重くなる。
 「2000年には3.58人の就業者(20~64歳人口)で1人の高齢者を扶養していたものが、2030年には1.86人の就業者で1人の高齢者を扶養しなければなくなると推計されています」「もとより、若い世代に過大な負担を背負わせないためには、働く高齢者を増やし、年金給付費用を減らすことができれば、その方向が最も好ましいと考えられます」「これからの新しい社会の仕組みの構築に向けて、今後多くのさまざまな仕事が生まれます。これを高齢者自ら中心的に担っていくという姿こそが、ひとつの解決策になっていくものと期待されます」。

 ほかにもいろいろな問題が生じてくる。
 「懸念されるのは、都市中心部で多数の空き地、空き家が散在してくる状況です」「街中に空き地や空き家が散在してくると、治安上も好ましくありませんし、生活環境にも悪い影響が出始めてきます」「都市計画法やそれに付随する法体系んいは、この新しい課題を解決する力はありません」。

 「これから必要なのは道路の拡幅や新設ではなく、多種多様な移動体が安全に快適に移動できるような街路環境やシステムの整備でしょう」。

 「2010年6月16日の『日本経済新聞』によると、2030年には、築50年以上のマンションが全国で94万戸に達するという試算があるそうです」「高齢者の多くは、新たな住宅ローンを背負うことや転居を好みません。…しかも、入院している方、認知症で判断能力が落ちている人、複数の相続人の意向がまとまっていないケースなど、建て替え合意形成をはばむ要因は無数にあります」。

 「日本の社会資本整備は高度成長期から1980年代に集中したために、近い将来、いっせいに更新時期を迎える恐れがあります」。

 「大幅な人口減少で商業機能が著しく衰退した都市が、地方を中心に数多くあらわれてきます。団塊の世代を中心に急増するいわゆる『後期高齢者』のための宅配機能や、大幅な人口減少が予想される約3000万人の地方中小都市の、日常の買い物にも不便な地域における、商品供給のシステムも求められてきます」。

 「これから生じてくるさまざまな社会の課題を解決していく上で、今後増大する多くの元気な、高齢者と呼ぶにはふさわしくない人たちの力を借りることがひとつの鍵になってきます」「ただし、たんなる定年延長のような形で、高齢者の就業が若年層の就業を阻害するようになれば、現状でも若年層の非正規就業が大きな問題になっている中で、また新たな問題が生じることになってしまいます」「高齢者の就業においては、ボランティア的な要素を含んだ就業方法、比較的短い就業日数、時間など、従来であれば就業の足かせとなっていた要素を逆に活用した新しい就業形態を開発できます」。

 本書は、超高齢社会で生じる問題を整理したうえで、「ジェロントロジー(Gerontology)」と呼ばれる処方箋を提示する。
 「日本語では『老年学』あるいは『加齢学』などといわれることもありますが、そのような言い方では意味が狭く感じられてしまうため、広く高齢者、高齢社会に関する総合的な学問を表す意味では、カタカナ表記にするのが一般的です」「高齢化にまつわる問題解決のためのあらゆる知恵をヨコにつないでいこうというのが、『ジェロントロジー』なのです」「医学はもちろん、看護学、生物学、経済学、心理学、社会学、社会福祉学、法学、工学、建築学など、それぞれの専門家が高齢化に関する知識を集積し、その成果を社会に還元していくことを目的としています」。

 ジェロントロジーによる解決策が出てくれば、それは日本の成長エンジンになるともいう。
 「東京大学の小宮山宏氏は『課題解決先進国』という考え方を提唱しています」「少子高齢化という『課題』に関しても、日本は世界一進んでおり、いわば超高齢社会のフロントランナーです」「ということは、超高齢社会という『課題』もまた、日本が世界に先駆けてその解決策を生み出す『チャンス』」でもあるということです」。

 「2009年4月に、…『高齢社会総合研究機構』がスタートしました」「機構では、その活動の基本理念を『Aging in Place』と表現しています。これは、『いくつになっても、住み慣れた地域で安心して自分らしく生きる』という意味です」「『Aging in Place』を構成する要素は3つあります。ひとつは在宅医療の充実です。…2つめは生きがいづくりと就労です。人はただ長生きすればいいのではありません。QOL(Quality of Life:生活の質)を追求し、自分らしく長生きするための仕組みをつくる必要があります。3つめはそうした生活を支えるためのインフラ整備です」。

 ジェロントロジーを「老年学」にとどめずに超高齢社会への処方箋として一刻も早く活用することが必要なのだろう。 

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