川北義則著『「55歳」からの一番楽しい人生の見つけ方』 (知的生きかた文庫)
川北義則著『「55歳」からの一番楽しい人生の見つけ方』 (知的生きかた文庫、2011年2月10日発行) を読んだ。
川北氏は1935年生まれ。「現在、出版プロデューサーとして活躍するとともに、生活経済評論家として新聞、雑誌などに執筆、講演活動を行なっている」。ブログはこちら。
「定年退職した途端、花が枯れるようにしょぼくれてしまう人がいる…一方で…第二の人生は趣味に遊びにいきいきと過ごすひともいる。…その差は何か。思うにそれは、現役のうちに会社離れをする準備ができていたかどうかの違いではないだろうか」「現役のうちから会社離れをする準備を始めておいたほうがいい…。60歳定年ならば55歳くらいからその準備にかかるのがちょうどいい」。
どんな準備をしておけばいいのか。
「社用車を使える人は使用を控える。会社のお金で飲み食いしない。タクシーを使わず電車で動く、歩く」。
大丈夫だ。すでに実行している。
「生活レベルも定年後の収入に合わせる。年金生活はもとより、再雇用や再就職で働くにしても収入は大きく下がる。それまでのせいぜい3~7割程度だろう。それを想定して、ある程度慣れておかないと、後であまりの落差にショックを受ける」。
確かにそうだ。貯金がほとんど残っていない状況だが、支出を抑え、貯金もしていかなければならない。
「定年後も働きたいなら、会社勤めをしているうちに『その道のプロになる』ことだ。…本当に能力が高く、実力のある人であれば、会社を辞めても必ず生きていけるものだ」。
しかし、「定年後も働きたい」との思いを「起業」に賭けることについては、川北氏はネガティブだ。
「定年世代は意外と無謀なところがある。なまじ会社経験が長く、それなりのポストで人もお金を動かしてきたものだから、最初から大きなビジネスをやろうとするケースが少なくないのだ。会社で大きな事業を手がけることができたのは、会社の人材、資材、設備など経営資源があってのことなのに、すべて自分の実力だと勘違いしている人があまりにも多い」「定年起業で成功しようと思ったら、以下の五つのポイントは必須である」「①起業の目的を明確にする」「内側から沸き立つ『これがしたい!』という強い願望がなかったら、絶対に会社経営は成功しない」「②過去の肩書きを捨てる」「③経営者向きか、自ら冷静に判断する」「④『やりたいこと』と『やれること』の違いを知る」「⑤しっかりした事業プランを作る」。
「50歳代になると健康に気を使う人が増える」が、「何事もほどほどが肝心」「フィンランドの保険局が…健康を管理するグループと管理しないグループに分けて追跡調査を行なったところ、15年後、驚くべき結果が出た。心臓欠陥系の病気や高血圧、各種の死亡、自殺のいずれも、健康を管理したグループより健康を管理しないグループのほうが少なかったのだ」「健康に生きるのは大事だが、健康のために頑張りすぎるのは不健康だ。いつまでも健康でいたいなら、健康オタクになるよりも、好きなものを食べて毎日気を使わず暮らすこと」。
「WHO(世界保健機関)は要介護状態となった『不健康期間』を平均寿命から差し引いたものを『健康寿命』と定義している。…WHOの『世界保健報告(2003年)を見ると、当時の日本の平均寿命は男性78.4歳、女性85.3歳だが、不健康期間は男性で6.1年、女性で7.6年もあって、…健康寿命は男性72.3歳、女性77.7歳にとどまる」「なぜ、これほど要介護の期間が生まれるのか。医師で作家の久坂部羊さんは『日本人の死に時』(幻冬舎新書)でこう述べている。『病院へ行って、無理に命を延ばすから、平均寿命が延びる。だから健康寿命との差が広がり、介護の需要が高まる』」「久坂部さんは『ある年齢以上の人は病院へ行かないという選択肢』もあっていいのではないかと提案している。…その年齢は70歳を超えたくらいでいいと思う」「不健康期間を短いものにするには、過剰な健康管理をしないで、与えられた天寿を粛々と受け入れることだ」。
後期高齢者医療制度の「75歳以上の後期高齢者」という定義は意外に根拠のある定義のようだ。
「年を取れば、自分の持ちタイムは徐々に減っていく。気力や体力も衰えていくし、預貯金の残高も減っていく。親兄弟や連れ合い、友人など周囲の人間も少なくなっていく。老いというのは、生きるのに必要な『人の資源』がだんだん枯渇していくことなのだ」「であればこそ、残された人生の資源は、大事にしないといけないし、有効に使うべきだろう。それには『本当に自分が大切にしたいものだけを大事にする。いらないものは思い切って捨てる』、そういう心がまえというか、覚悟のようなものが必要だと思う」。
同感だ。これはモノだけに言えることではないと思う。人間関係も整理していくべきではないだろうか。シニア向け交流サイトなどでシニアになってから新たに友人を作ろうとしているのには違和感を感じていた。
そろそろ、これまでの人生で出会った人たちのなかで、本当に付き合っていきたいと思う人たちに可能な限り絞って付き合っていくのが、豊かな人生を送るコツのような気がする。
このほかにも、本書には山ほど年を取ってからのノウハウが紹介されている。
そして、いくつかの先人の言葉も。
覚えておきたい言葉を引用する。
「裏をみせ、表をみせて散るもみじ」(良寛)
「夢を持たない男は野菜と同じだ」(「世界最速のインディアン」のなかで主人公のバート=アンソニー・ホプキンスがつぶやく言葉)
「水を飲んで楽しむ者あり、錦を衣て憂うる者あり」(江戸中期の儒学者中根東里)
「旅で不思議と印象に残る時間は、『海岸線を陽が暮れるまでただ歩きつづけた一日』のような、『何かに有効に<使われた>時間ではなく、ただ<生きられた>時間』である」(社会学者の見田宗介さん)
「老後の一日楽しまずして空しく過ごすは惜しむべし。老後の一日千金にあたるべし」(71歳で隠居し、84歳で『養生訓』を書き上げた長寿快老の達人、貝原益軒)
「年齢に不相応な欲望がどこかに残っていると、それが老醜になる」(作家の星新一さんが『祖父・小金井良精の記』=河出文庫=で)
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