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向山雄人著『生きる力がわく「がん緩和医療」』 (講談社プラスアルファ新書)

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生きる力がわく「がん緩和医療」

 向山雄人著『生きる力がわく「がん緩和医療」』 (講談社プラスアルファ新書、2009年7月20日発行)を読んだ。
 向山雅人氏は癌研究会有明病院(癌研有明病院)緩和ケア科部長。
 実は癌研有明病院は両親ともに大変お世話になった病院である。

 母親は数年前、胃がんになったが、胃の大半を摘出し、さらに胃癌で入院中見つかった乳がんの手術も行って、今は80歳だがぴんぴんしている。趣味の踊りでは花道を駆け抜ける元気さで、とても80歳の人には見えない。
 
 父親は食道がんだが、癌研で診察を受けたときは水も喉を通らない状況で、体中にがんが転移。もう手術ができない状態だった。完治は無理だが、人間らしい暮らしができないかということで放射線治療をしていただいた。胃瘻(ろう)というものを胃に通し、そこから栄養を補給している。
 放射線治療が終わり、これからどうすればいいかというときに、相談に乗っていただいたのが向山先生である。
 癌研有明は自宅から遠かったので、父は自宅に近い病院で緩和ケアを受けることにし、東京・豊島区の要町病院を紹介していただいた。

 癌研有明病院は病院の入り口に立ったところから、優しさや思いやりが伝わってくる病院である。入り口での対応はホテルのようだし、1階のフローリングスペースは明るく、たまにコンサートが開かれる。
 患者はPHSをもたされ、適宜、「待合室に入ってください」などの連絡を通信で受けるので、病院内のどこにいても良い。患者を待たせるのを何とも思わないのかと思わせる大病院が多い中で、治療前の段階でも、人間味を感じさせてくれる病院なのである。

 この本を読んで、なるほど、だから癌研有明病院は温かいのだなと納得した。


 本書によると、がん患者が抱える痛みは、身体的な苦痛(痛み、倦怠感、食欲不振、吐き気、呼吸困難感など)、精神的な苦痛(不安、いらだち、虚無感、孤独感、うつ状態など)、社会的な苦痛(仕事の問題、経済的な問題、家庭の問題など)、そして人生は自分の存在に対する悩み(スピリチュアルペイン、罪の意識、死の恐怖、生きる意味の喪失など)がある。
 「これら4つの苦痛は適切な治療を早く行わないと、相互にからみ合い、それぞれの苦痛がさらに強くなっていくのです」「痛みの治療は『Just in Time(ジャスト・イン・タイム)必要なときに、必要な医療を、必要なだけ』で受けなければ、すべてが負の方向へ向かうのです」と向山氏。

 「日本のがんの治療において、このような痛みをはじめとした苦痛の緩和に目が向けられたのは、ごく最近のことなのです」。
 「日本では現在でもがん疼痛治療が十分に行われていない」のは以下の三つの要因がいまもなお根強く横たわっているからだと言う。
 「ひとつには、多くのがん治療医の日常が手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)など『がんを攻撃する治療』で手いっぱい、あるいは、がんに伴う苦痛緩和は自分たちの守備範囲ではない、関心がない」と思っている現実がある。

 「2つめは、モルヒネに対する誤解、偏見です」「モルヒネは適正に使うことでがんの苦痛を緩和して普通の生活を送れるようにするための薬です」。

 3つめの要因は「緩和ケア科受診=すぐ目の前の死」と大勢の人が誤解してきたことだ。
 「WHOでは2002年、緩和医療を新たに次のように定義しました。『緩和ケアとは、生命を脅かす疾患に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛みなどの身体的問題、心理・社会的問題、スピリチュアルな問題に対して適切な診断を行い、予防や治療を行うことで、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質、生命の質。以下、QOL)を改善するための医療である』。
 しかし、「早期から、各診療科と同時に緩和ケア科の診察を受け、適宜、症状緩和治療をうけること、十分な信頼関係を築けるがん緩和医療専門医がいることで、再発・転移がんに罹患した患者さんの人生が180度変わるといっても過言ではないのです」「『がんを攻撃する治療』と『がんに伴う症状緩和治療』の両者は同時に並行して行うものです。なぜなら仮に前者に限界が来ても、後者を徹底して継続することで、その多くが『のんびりがん』である固形がんの苦痛をとりつつ共存できるからです」。

 
 「これまで遅々として進まなかった緩和医療の普及に、一気に弾みをつける施策が登場しました。それが2007年4月に施行された『がん対策基本法です』」。この法律に「早期からの緩和医療の導入」が定められたと言う。

 第2章の「緩和医療の実際」では、痛みとそれに対する治療に関する専門医ならではの具体的な知識や情報が紹介される。

 ケーススタディも役に立つ。
 ある大学病院で前立腺がんと診断されたG・Hさんは「セカンド・オピニオンを受けるため」、癌研有明病院の緩和ケア科を受診した。「緩和ケア病棟に入院し、疼痛治療を集中的に受けられ、全ての痛みは緩和されました。そして、緩和ケア外来への通院治療へ移行しました」。その後入退院を繰り返したが、薬を内服薬にして、旅行をしたり、自宅で年越しをしたりして、亡くなるまで充実した時間を過ごしたという。

 向山氏は言う。「がんになったことによって生じる心身のさまざまな症状、しばしば起きる容態の急変にもきめ細かく対処していく緩和医療は、まさにオーダーメードのがん医療です」「しかも、薬物療法、放射線治療、神経ブロック、インターベンショナルラジオロジー、アロマセラピーなど、緩和医療の領域にはさまざまな新しい薬や技術が導入されています。多くの分野の専門家があらゆる手だてを駆使して、患者さんの苦痛を取り除くばかりでなく、苦痛が生じないように予防にも力を注ぎ、心地よく充実した日々を過ごしていただくように努めるのが、本当の緩和医療の在り方だと私は思います」。

 緩和ケアはさらに、患者の家族、また患者が亡くなった後の遺族をケアするプログラムも用意しているという。

 まさにこの本のタイトル通り「生きる力がわく」本だった。


※本書で紹介していたがん緩和ケア関連ホームページ
痛みの緩和について考えるJPAP(Japan Partners Against Pain)
国立がん研究センター・がん対策情報センターがん情報サービス

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