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歌田明弘著『電子書籍の時代は本当に来るのか』(ちくま新書)

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電子書籍の時代は本当に来るのか

 歌田明弘著『電子書籍の時代は本当に来るのか』(ちくま新書、2010年10月10日発行)を読んだ。
 佐々木俊尚著『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー携書)が発刊された昨年4月に比べれば“衝撃”の度合いは軽くなり、日本の企業も様々な対応をしているようだ。この本は、そんな日本企業の対応も含め、電子書籍がどのように発展していくのかいかないのかを客観的に分析した、大変有益な本だ。

 まず、「まえがき」で簡潔に現状分析をしている。
 「アメリカでアマゾンはベストセラーを含む多くのキンドル版の電子書籍を、新刊書の発売と同時に正価の半分以下の価格で発売した。電子書籍の魅力を増すことで、読書端末の普及に成功している。2010年8月末には日本語表示できるキンドルも発売されたが、…日本では電子書籍の『安売り』は簡単には起こりそうにない」。
 「日本でも著名作家の電子書籍が発売されて話題になり、成功例として語られるケースは出てきたものの、多くは印刷版を売るための『話題づくり』で、電子書籍単体で多くの利益が出ているわけではない」。
 「書籍を電子化してコンテンツの供給をする印刷会社と、課金・決済を請け負う携帯通信会社、端末を販売する電器メーカーなどがグループ化する動きも出てきた。多くの企業はオープンにすると言うが、今後の成り行きによっては、そうした言葉と裏腹の事態になりかねない」。

 第一章は「電子書籍の問題はどこにあるのか?」。
 「電子書籍端末の歴史は…期待と失望の繰り返しだった」。
 1999年10月、出版社やメーカーからなる「電子書籍コンソーシアム」が設立され、電子書籍実験を始めることになった。小学館の鈴木雄介インターメディア部次長(当時)らが中心となって、「さしあたりは出版社の財産を活かすことを考え、既刊本の各ページをスキャンし、画像データとして配信する」ところから始めようとした。
 ところが「出版界からは懐疑的な声も聞こえてきた」。「出版界全体の売り上げが大きなハードメーカー1社分、俗に『2兆円産業』と言われる出版業界だけで独自の端末をつくってもうまくいくはずがない」という声だ。
 「将来のさまざまな可能性のためにはテキスト・データで電子化することが必要だ。しかし、電子書籍実験では画像データ化を第一に考えて」いたことも業界が一つにまとまらない理由だった。

 結局、「専用端末は『時期尚早』と立ち消えに」。
 しかし、「2000年代初めにはPDA(Personal Digital Assistant)と呼ばれる小型の携帯場法端末が、システム手帳にとって代わるツールとしてガジェット好きなビジネスマンのあいだで浸透していた」。そして、「PDAが電子書籍についても『主戦場』になっていった」。
 シャープは「1999年6月に光文社の文庫を中心に『ザウルス文庫』を立ち上げ、同社のPDA『ザウルス』で読む仕組みをつくった」。
 「電子書籍を流通・販売するサイトも増加の一途だった」。

 「2004年の年明けも、『電子書籍元年』という言葉がメディアで飛び交った」「松下電器(現パナソニック)は2004年2月に『シグマブック』」を発売。「ソニーも『リブリエ』と名づけた読書専用端末を出し…2004年春から電子書籍サービスを始めた」。
 しかし、2005年10月にシグマブックの出荷は中止となった。
 ソニーの「リブリエは、数千台しか売れなかったと思われる」が、ソニーはあきらめず、「2006年9月末、アメリカで『ソニー・リーダー』と名づけた読書端末を350ドルで発売した」。

 もっとも携帯電話向けの電子書籍は急拡大。「ケータイ小説」という新ジャンルも生まれた。
 著者は言う。「ケータイ小説ブームが告げる教訓は、電子書籍の時代には、これまで思いもようらなかったことが起こるということだろう。印刷本を電子化したにとどまらないことが次々と起こると予想される。おそらく何十年と経った未来から電子書籍の発展を顧みてみると、印刷媒体をもとにした電子書籍は、結局のところ未来の読み物の一部でしかなかったと気づくことになるかもしれない」。

 読書端末は海外から押し寄せてきた。 
 「2007年11月19日、米アマゾンは『キンドル(Kindle)』と名づけた読書端末」を発売した。
 「そもそも日本の電子書籍は、読書家以外の人たちを対象にしようとする傾向が実証実験のころからかなり一貫してあった」が、「アマゾンは、明らかに本を大量に読む人たちに向けてキンドルを販売した」という。「こうした端末で読むのは若者ぐらいだろうと思うかもしれないが、キンドルをおもに購入したのはお金に余裕のある中高年齢層だったことを推定するデータも出ている」。
 
 著者がキンドルの弱点と考えているのは「ウェブと切り離された閉じられた端末で、電子書籍のビジネスを続けられるかということだ」。「動画表示は、デジタルの書籍や雑誌でも必要になってくるだろう」と見ているからだ。

 「マルチメディア電子書籍」が求められるようになればiPad型の多機能端末が優勢になるとの見方だ。

 第二章は「グーグルは電子書籍を変えるか?」。
 2004年10月、「フランクフルトのブックフェアでグーグルは、本の全文横断検索『グーグル・プリント』(その後『ブック検索』と名前を変え、現在は『グーグル・ブックス』となっている)を紹介し、検索対象にする本を送ってくれるように出版社に呼びかけた」「アマゾン同様グーグルは、出版社が提供した本をスキャンしてデータベースを作成した。著作権保護のため利用者は印刷や画像のコピーはできず、該当個所の前後2ページのみ見ることができた」。
 「ブック検索を始めて2ヵ月後の2004年12月半ば、グーグルは、スタンフォード大学やミシガン大学などの巨大図書館の蔵書のべ1500万冊以上を電子化する『ライブラリー・プロジェクト』を発表した」。
 「グーグルはフェア・ユースだと言うものの、作家や出版社などは反発した。グーグルと話しあいがおこなわれ、05年8月にはグーグルは一時作業を中止した」「9月には、米作家協会がグーグルの行為は『大規模な著作権侵害』だと提訴した。10月1日には、米出版社協会加盟の大手出版社も、グーグルを著作権侵害で訴えた」「事前許可なく電子化し検索表示する『図書館プロジェクト』についての訴訟は2005年から3年越しの裁判になり、2008年10月に和解案がまとまった」
 しかし、その後、集団訴訟の対象に日本の著作権者もなると告知され、一時大騒ぎとなる。
 その後、「グーグルのブック検索をめぐる米出版社協会や米作家協会との手段訴訟の和解案は、内外からの数々反発に加えて、アメリカ司法省などからも集団訴訟の拡大解釈が問題視され、和解案の修正を余儀なくされることになった。2009年11月13日にニューヨーク連邦地裁に修正和解案が提出された」「新たな和解案では、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアの4カ国で出版されたか、09年1月5日までに米著作権局に登録済みの著作物に限定された。日本のほとんどの本は対象ではなくなった」
 
 グーグは「出版社から本の提供を受けて電子化し、出版社や作家の認めたかたちで検索表示する事業はパートナー・プログラムと呼んで、図書館プロジェクトとは区別している。パートナー・プログラムのような本だけでもすでに200万冊あるという」「2010年秋にはアメリカで、この200万冊の本のうち権利者の許諾を得たものについて本全文に有料でアクセスできるようにする『グーグル・エデッション』と名づけた事業を開始する。そして2011年の初めまでには日本でも始めるという」。
 「グーグルがほかの企業にオープンにデータを使わせ続けるのであれば、グーグルの電子データは『電子書籍貯蔵庫』の性格を帯びてくる」「こうした電子書籍貯蔵庫は『電子書籍の時代』が来るには必要なものであろう」。
 
 グーグルのポジションがよく分かった。

 第三章は「『ネット無料』の潮目が変わろうとしている?」。
 この章では、「読書端末やスマートフォンでの課金という複数の選択肢が出てきたいま、ウェブ・サイトの課金のハードルは低くなってきた」とし、ウェブ・サイト課金ビジネスを展望している。
 その一例が朝日の「ウェブ新書」。「ウェブ新書は『わずか10分で<今>がわかる、新しい読書スタイルの提案』とのことで、朝日新聞や週刊朝日など朝日新聞社の記事だけでなく、講談社、時事通信社、小学館、ダイヤモンド社、文藝春秋の雑誌記事などのコンテンツを創刊記念価格として一律105円で販売している」「ほかの出版社ばかりでなく、書き手個人も販売できるようにするつもりだという」。
 「電子書籍が紙の本の電子化ということにとどまらず、ウェブの構造変化を引き起こすこともありえなくはない」。

 本格的な電子書籍の時代になれば、書籍も新聞も区別がなくなり、さらにはこれまでになかったジャンルも生み出されていくのだろう。『電子書籍の時代は本当に来るのか』は、電子書籍に無限の可能性があることを感じさせてくれた一冊だった。

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