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上野千鶴子著『おひとりさまの老後』『男おひとりさま道』(法研)

おひとりさまの老後、男おひとりさま道

 上野千鶴子著の『おひとりさまの老後』、『男おひとりさま道』(ともに法研)を読んだ。
 Amazonのカスタマーレビューを見ると、『おひとりさまの老後』は星5つから星1つまで評価はばらばら。
 すばらしい。批判を恐れず、上野さんが率直な考えを書いている証拠だろう。
 実は、本当におひとりさまで老後は大丈夫?と思う部分もあったが、この2冊は、ひとりで死ぬ、という、今後当たり前になりそうなことを極めて前向きに捉えており、とても清々しい気持ちになった。おひとりさまでも死ねる世の中をぜひとも作らなければならないと思った。
 
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 『おひとりさまの老後』は平成19年7月12日発行。

 第1章 ようこそシングルライフへ
 「2005年の日本では高齢者になると、65~69歳で52対48、75~79歳で57対43と女性がどんどん増える。85歳以上では72対28、女性5人に男性2人の割合だ」。
 「離婚や死別でふたたびシングルになることを『シングルアゲイン』という」。
 「これを昔のひとは、『後家楽』とよんだ。うるさい夫を見送って、後家になりさえすれば、わが世の春」。
 
 「だが、超高齢社会で亭主がなかなか先に逝ってくれないと、自分が元気なうちに『後家楽』はやってこない。熟年離婚が増えたのは、『もう待てない!』という女たちが、はやばやと夫に最後通牒をつきつけたからではないか」。

 「主婦の時間は待機時間だ、といわれてきた」「自分以外の家族のためにカラダを空けて待機することに、妻はどれだけの時間を使ってきたことだろうか」「だれの顔色もみなくてすむ、だれかのためにカラダを空けて待機しなくてすむ、自分だけの時間。そんな時間が地獄になるか、極楽になるかは、その時間をつぶすノウハウがあるかどうかにかかっている」。

 「子どもは老後の頼りになるだろうか?」「65歳以上の高齢者の子どもとの同居率は、1980年には約70%だったのが、どんどん減少して、2000年には50%弱。代わりに増えたのが、高齢者の夫婦だけの世帯と単身世帯だ」「高齢者世帯のうち夫婦世帯の割合は、1980年に19.6%だったのが、2000年には33.1%。ひとり世帯の割合も、1980年に8.5%だったのが、2000年には14.1%と、同じように増えている」。

 年老いた親と子どもの同居について上野さんは次のように言っている。
 「『おとうさん、おかあさん、わたしたちといっしょに住んだら』という”悪魔のささやき”には、きっぱりとこう答えよう。『ありがとう、おまえの気持ちはうれしいよ。だけど、わたしはここを動かない』」「なによりそれがお互いのためだ。『おや、そうかい、それはうれしいね』とほいほい同居を開始したとたん、せっかくのおだやかな老後を失い、親子関係までこわしてしまうことになりかねない」。

 「おひとりさまになるまでには『ふたり』が『ひとり』になるプロセスがあり、そこには喪失の体験がある。喪失のうちで、もっともダメージが大きいのは配偶者の喪失である」「喪失の体験はたしかにつらい。だが、喪失は同時に自立をもたらしてもくれる」
 「私の周囲のシングルアゲインは、死別組も離別組も新たなパートナーを求めるのに臆病ではないが、法的な結婚や同居を選ばないケースが多い」「『ひとりで暮らす』ことが基本にあり、『ときにはいっしょにいる』という選択肢もある彼女たちのスタイルは賢明で、幸せそうだ」。

 第2章 どこでどう暮らすか
 「在宅支援の地域介護体制が整っていれば、要介護のお年寄りにだってひとり暮らしはじゅうぶん可能だ」。
 「高齢者は『家に帰りたい』が、家族は『同居したくない』と利害が対立したら、高齢者を『家に帰さない』という選択をする代わりに、家族のほうが『家を出ていく』という選択をすればよい」「同居がイヤなら、しょっちゅう親の顔を見なくてすむ距離を保てばよい。つまり“パートタイム家族”や“サムタイム(ときどき)家族”をすればよいのだ」。
 「自分の住んでいるすべての空間をひとり占めできる、それが、『おひとりさまの老後』の最低限のインフラ(生活基盤)だ」。

 「おひとりさまの老後」が自然と考える上野さんも「認知症になっても、寝たきりになっても、同じ場所に住みつづけることができるのか」は気になるようだ。「現行の介護保険は、ひとり暮らしの高齢者を基準にはつくられていない。介護をする家族がいることが前提で、その負担を軽減する目的でつくられたものだ」という現状は認識していて、「ひとり暮らしが高齢者の標準になることが予想されるのだから、制度設計をひとり暮らしに合わせるべきだろう」と言う。
 まだ、実現していない「おひとりさまの老後」だからこそ、上野さんは1冊の本を書いたのだろうと思う。

 けれど、それは実現できると上野さんは見ている。「地域に在宅支援の介護体制さえあれば、かなりの程度の要介護者でも在宅でやっていけるのは、北欧で証明ずみ」。

 “在宅”の効果は大きいという。例えば「重度の要介護高齢者が入居している特養では、6割以上が認知症をともなっている。そのひとたちに対して、逆デイケアという試みがはじまった。病院型の施設を抜け出して、日中、民家を改造したふつうの住宅のような小規模デイホームへ連れ出すと、確実によい効果があることがわかっている」。

 第3章 だれとどうつきあうか
 「ひとり暮らしの達人は、ひとりでいることだけでなく、ほかのひととつながることにおいても達人だ」「家族はやがて去る。仕事も仕事仲間もいつかはいなくなる。そのあとに残るのは、友人たちである」。
 「足腰が弱って出かけるのがおっくうになっても、ハイテク情報通信があれば交際の手段には不自由しない」「ITは、高齢者にとって、まさに福音だ」。
 「喪失のつらさを軽減するには、年少の友人をつくるにかぎる。年下だからといって自分より長生きするとはかぎらないが、少なくとも喪失のリスクを分散することはできる」。
 「自然は孤独の最大の友である。ひとりでいることがまったく苦にならないのは、自然のなかにいて、自分がどれほどちっぽけかを実感しているとき」。

 第4章 おカネはどうするか。
 「ほんとうにほしい介護は、カネでは手に入らない。ケアという商品にかぎっては、価格とクオリティが連動しない」。

 第5章 どんな介護を受けるか
 「『介護されることを勇気をもって受け入れる』病人歴の長い柳澤桂子さんは、要介護のプロとでもいうべき存在。そのひとのことばである」。
 「現実には、いまの介護保険制度にはさまざまな限界があるが、『家族に頼らない老後』という介護の社会化へ、大きな一歩を踏み出したことは評価してよい」。

 第6章 どんなふうに「終わる」か
 「ほんとうは『社会的な死』である家族のなかの死が、あたかも『自然な死』であるかのように規範化され、『孤独死』を蛇蝎(だかつ)のごとくいみきらう。たくさんの孤独死の事例を経験してきた小島原さん(※東京都監察医務院に勤務うする小島原將直さん)のアドバイスのトップにくるのは、ひとりで死ぬのはぜんぜんオーライ、ただ、あとのひとの始末を考えて早く発見してもらうような手配だけはしておきなさいね、というきわめて現実的なものだ」。

 『おひとりさまの老後』は女性のために書かれたものだが、男にも、ひとりで死を迎えたいと思わせてくれる1冊だった。

 上野さんはあとがきで「なに、男はどうすればいいか、ですって?そんなこと、知ったこっちゃない。せいぜい女に愛されるよう、かわいげのある男になることね」と書いているが、男を見捨てなかった。平成21年11月1日に『男おひとりさま道』を出したのだ。
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 「これまでの結婚は、男の『不便』と女の『不安』との結びつきだった。だが、女に『(経済)不安』がなくなれば、女の側の再婚願望は低下する」「男がおひとりさまになるなり方には、3種類ある。第1が死別シングル、第2は離別シングル、第3は非婚シングル」「死別・離別シングルの再婚のハードルは高い。相手の女性が死別シングルなら、亡夫を看とった代償に年金がついているから、それをみすみす手放すとは思えない。離別シングルの女性なら結婚に懲りているから『再チャレンジ』のハードルは当然高い。非婚シングルの女性なら、結婚相手に求める条件がもともと高い。…これまで同世代の男を選ばずにきた彼女たちが、将来、同世代の非婚シングルを選ぶ可能性はますます低い」「というわけで、死別シングルも離別シングルも、ふたたび『おふたりさま』になる可能性は低く、現在の非婚シングルが将来『おふたりさま』になる可能性はもっと低い」。
 「だが、女に依存せずに男おひとりさまが生きることは可能だ」。

 第1章 男がひとりになるとき
 死別シングル。「男性も85歳を超えれば、シングルの割合は3人に1人」。
 離別シングル。「男シングルアゲインが、女シングルアゲインと決定的にちがうのは、離別とともに男は家族のすべてを失うことだ」「離婚したときに成人前の子どものいる割合は6割、そのうち妻に親権がわたるケースが約8割」「妻にしてみれば、もともと、“夫不在”で“母子家庭”同様だった世帯が、ほんものの母子家庭になっただけのこと。経済的な問題さえなければ、夫というストレス源のなくなった母子家庭のほうが、まだましかもしれない」。
 非婚シングル。「40~44歳の非婚率は22%、約5人に1人」。

 第2章 下り坂を降りるスキル
 「70歳以上のひとに対して、『もしあなたがもう一度人生を生きなおせるとしたら、何歳に戻りたいですか』という質問がある。これに対する答えには、男女差がある。女性は30代、男性は50代と答える人がいちばん多いという」「女の30代は出産・育児に夢中な年齢だ」「他方、男の50代といえば、定年直前。職場での地位と収入がピークを迎える。男はその時代に戻りたいという」。
 「下り坂とは、…昨日までもっていた能力や資源をしだいに失っていく過程である。昨日できたことが今日できなくなり、今日できたことが明日はできなくなる」「問題はこれまで、人生の上り坂のノウハウはあったが、下り坂のノウハウがなかったこと。下り坂のノウハウは、学校でも教えてくれなかった。そして上りよりは、下りのほうがノウハウもスキルもいる」。 
 「男が女とちがうのは、同じくらい弱いのに、自分の弱さを認められない、ということだ。弱さを認めることができない弱さ、といおうか。これが男性の足をひっぱることになるのは、老いるということが、弱者になることと同じだからだ」「ずーっと強いまま、現役のまま、中年期のまま、死を迎えられたらよいかもしれない。だがそれが不可能なのが、人生100年時代である」。

 「定年になってから『家庭への回帰』など、してもらわなくてもかまわない。そんなことをしてもらったら、かえってはた迷惑になる。定年になってから必要なのは、職場でもなく、家庭でもない、第三の自分の居場所である」。

 「男たちがカラダを張ってまであれほど仕事に熱中するのは、『妻子を養う』ためでも、『会社以外に居場所がない』ためでもなく、パワーゲームで争うのがひたすら楽しいからにちがいない」「だが、何度もいうが、老後とは『下り坂』の時間。勝ち負けを争う必要のない時間だ。パワーゲームなら、手札を実際よりも強くみせることは相手を威嚇するうえでも必要だろう。しかし、『下り坂』を降りる知恵は、むしろ自分が持たないカードを他人から引き出すための『弱さの情報公開』にある」「だから、180度生き方を変えなければ、後半生をわたっていくのはむずかしい」。 

 第3章 よい介護はカネで買えるか
 「よいサービスとは、結局、利用者が受けたいケアのことなのだが、それを実現しようとすれば、個別ケアが理想」だが、それは「日本では夢のまた夢なのだ」。
 「ケアのついている住まいに移転することを考えるよりは、自分のいる住まいにケアを持ってくることを考えればよい」

 第4章 ひとりで暮らせるか
 「老後のおひとりさまを支えてくれるのは、『このひとイノチ』という運命的な関係よりは、日々の暮らしを豊かにしてくれるゆるやかな友人のネットワーク」「ファッションデザイナー花井幸子さんの『後家楽日和』(法研、2009年)に、『無二の親友より10人の“ユル友”』とあった」。
 「一緒にいて気分のいい相手。しょっちゅう会いたい相手、どきどき会いたい相手、たまに会いたい相手、困ったときに助けてもらいたい相手、助けてあげたい相手、気になる相手、気にかけてくれる相手……が、多様に自分の身のまわりをとりかこんでいればよいのだ。それをセーフティネットともいう」。
 「友人のネットワークをつくるには、“一本釣り”もあるが、もっと効率のよい方法がある。選択縁の仲間に入れてもらうことである」「選択縁とは文字どおり選べる縁。志や教養、趣味、思想信条、ライフスタイル、学歴や経済水準などで、あらかじめスクリーニングされているから、打率が高い」「選択縁の社会は、脱血縁、脱地縁の非日常。ふだんと違う私を演出する返信の場だ」。

 「海外ひとり旅は、『無力な自分』『助けてもらう自分』を経験するのに、よい訓練の場かもしれない」。

 「たとえひとり暮らしでも、1日1回か数日に1度は、連絡したり顔を合わせたりする関係をつくっておこう」。

 第5章 ひとりで死ねるか
 「①24時間対応の巡回訪問介護②24時間対応の訪問看護③24時間対応の終末期医療」「介護・看護・医療の3点セットと多職種連携がありさえすれば、おひとりさまの在宅死は可能である」。

 「生涯の最後に他人さまのお世話になる期間は、死因が、①心疾患と脳血管疾患、②がん、③老衰や感染症の順に短い。寝たきりの平均期間は8.5カ月。がんなら半年、寝たきりなら1~2年程度を予期して、終末期に投資すればよい」。

 2冊を読み終わって、分かった気がする。仮に難しくても、死ぬまで自立を目指すことが潔い。年金だけに頼らず最低70歳までは働き、家族に負担をかけないよう、寝たきりになった時の金銭的な対策もしておく。これまでの人生で出会った信頼できる友人たちとネットワークをつくる。
 自由な人生は自立が基本。今からしっかり準備をしたい。
 

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