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結城康博著『介護 現場からの検証』(岩波新書)

Kaigo
介護 現場からの検証
 介護問題の基礎を学ぶため、結城康博著『介護 現場からの検証』(岩波新書、2008年5月20日発行)を読んだ。

 結城氏は「はじめに」で「2000年からスタートした介護保険制度はまがりなりにも定着し、いまや多くの高齢者に必要不可欠な制度となった」と介護保険制度について一定の評価をしつつも、改善すべき、さまざまな問題が噴出してきたことを指摘する。

 「2006年4月からスタートした『改正介護保険制度』は、開始早々利用者にも介護従事者にもさまざまなマイナスの影響を及ぼしている。たとえば、『介護予防による混乱が生じている』『以前ほどサービスを受けられない』『地域格差が拡大している』『介護士という職業では生活ができない』といった問題が顕在化してきているのだ」。

 そして、「介護の社会化」といった介護保険制度の根幹の理念が揺らいできているという。

 「そもそも『介護』というと、『家族扶助』といったイメージを抱く人も依然として多いであろう。しかし、現在の高齢社会においては、『公共性』といった側面はもはや無視できない段階にきている」「『老老介護』『独り暮らし高齢者の増加』などといったことからも、どうしても『介護』は社会全体で担っていく必要がある。現在の介護問題を考えていくうえで、『介護』における『公共性』の意義がもっと深く問い直されていくべきであろう」。

 以下、勉強のために、ポイントと思われるところを引用する。

 第1章 介護サービスが必要となったら

 「ヘルパー派遣やデイサービス、施設サービスといった介護保険サービスを利用するには、まず、自分の住んでいる自治体に介護認定申請を行い、『要支援者』又は『要介護者』の認定を受けなければならない」「通常、認定結果が下されサービスを利用する際には、『ケアマネジャー』を選んで自分の希望を告げ、相談しながらサービス調整を行う。その過程でケアマネジャーは、利用者の生活状況やニーズを把握する課題分析(アセスメント)を行い、具体的なサービスへとつなげていく」。
 「本来なら、たとえ、独り暮らしの寝たきりの高齢者であっても、介護保険サービスのみで手厚い介護が受けられ、在宅生活が充分可能になるべきである」が、「現在の在宅での介護保険サービスは、あくまでも家族介護が前提となっており、それを補完する機能に過ぎない」。

 「介護保険サービスを利用しながら、身の回りのことは自分で行い、独り暮らしを続ける高齢者は多い」が、こうした高齢者に対する介護サービスは改正介護保険法で制限されることになった。
 「2006年4月から改正介護保険制度が実施され、…比較的介護度が軽い要支援1・2といった高齢者は、『介護予防』の視点でサービスを利用することとされた」「この時同時に『介護報酬』という介護の値段の体系が変更され、改正前は120分程度のヘルパー派遣を受けることが可能であったのが、改正後は1回のヘルパー派遣が90分以内となってしまった」。
 「『介護予防サービス』が導入されて、利用者は限られた範囲でしか、介護保険サービスを利用することができなくなった。過剰にサービスを利用すると、余計に身体を動かさなくなる、との考えから、介護保険サービスの提供は制限すべき、との理屈である」。

 介護保険サービスが機能しない事例もある。
 「経鼻栄養法」(食事が口から取れなくなったとき鼻からチューブを入れて栄養補給を行う方法)や「胃瘻栄養法」(同じく腹部から直接、胃にチューブを入れて栄養補給を行う方法)といった医療的ケアは、「家族以外の第三者では看護師といった医療系職種にしか許されていない」のだ。「ヘルパーが行える介護は医療的ケア以外の介護分野のみであり、限られた範囲でのサービス提供とされている」。
 「医療的ケアを伴う在宅介護の場合、どうしても訪問看護サービスの回数を増やさざるを得ない。しかし、利用回数を増やしていけば、すぐに限度を超えてしまい、自費での対応を余儀なくされる」。

 「在宅介護が難しければ施設へ入所させればいいのではないか、と考える人も多いであろう」「しかし、介護保険制度があっても施設サービスにおいては、必ずしも利用しやすい状況とはなっていない」。
 「特別養護老人ホーム」(特養)は「要介護度1以上の高齢者が入所できる公的な老人ホーム」だが、「通常、入所まで平均して、2~3年以上と長期間待たされ、毎月、きっちり介護保険料を納めていても、いざ寝たきり状態となり施設を利用しようとすると、何百人と待機者がいる」。
 「特養入所希望者は各施設に必要書類を添えて申し込み手続きを行い、入所者は施設ごとの入所判定委員会によって決定される。しかし、定員が決まっているため、退所者や亡くなる人がいない限り、すぐには入所できないのだ」。
 「2003年以降は家庭環境や本人の状況を考慮して、優先度の高い順に入所できる仕組みになっている」「その判定基準は、①本人の要介護度が高いか否か、②認知症による日常生活状況の程度、③年齢及び在宅介護もしくは入院期間の年数、④在宅における介護保険サービスの利用状況、⑤単身世帯か否か、同居家族が高齢もしくは病弱であるか否か、⑥家族及び介護者がいるか否か、⑦年金収入の額など、となっている」「このように改めて特養入所の仕組みを見ていくと、要介護度の低い高齢者はほとんど入所できないことが分かる。筆者の経験からも03年以降、要介護度4ないし、要介護度5でなければ特養への入所は難しい印象を受ける。要介護度3であっても独り暮らし高齢者で身寄りがなく、軽い認知症もあって在宅介護が難しいという人でなければ入所は難しい」。

 「老健施設」(老健)は「基本的には、病院に入院して一定の治療が終了後、在宅での生活は難しいという高齢者を対象にしている」。このため、入所しても「3か月~1年以内に退所することが前提となっている」。

 「かつては『老人病院』と呼ばれていた医療施設で、一般の病床と比べて医師、看護師数が少なく、主に介護・療養を目的とした病院が『療養病床』である」「医療保険適用の『医療型療養病床』と介護保険適用の『介護型療養病床』の二つに分類され、一般に利用者の医療的ケアが必要な場合は、『医療型療養病床』へ入院するケースが多い」。
 「日々、ケアマネジャーの仕事をしている筆者は、『療養病床』の役割は大きいと痛感している」が、「厚労省は、これらの『療養病床』を約38万床から15万床程度に削減する方針を、2006年医療制度改革関連法等に盛り込んだ」という。

 「『グループホーム』(公的施設と位置づけられるものの、家賃などの一部分は営利的に費用を設定できる)は、『認知症対応型共同生活介護施設』と呼ばれ、9人程度を1つのユニットとしており、高齢者が共同で生活していく小規模な施設である」「入所時には認知症のみの症状で、何とか身の回りのことはできていた高齢者でも、数年後、身体機能が低下して車椅子状態になってしま人は多い。そのため、徐々に要介護度が重くなっていく高齢者が退所を余儀なくされるケースもある」
 「2006年改正介護保険制度の実施によって、原則、自分の住んでいる住所地内のグループホームしか利用することができなくなった」「それによって、大都市を中心に地価高騰によってグループホームの建設が出遅れていた地域では、これらのサービスが利用できない可能性が一気に高まった」。

 「多少、金銭的に余裕があり、介護保険制度の枠内で施設サービスを利用することが難しければ、有料老人ホームに入所しようと考える人もいるだろう」「有料老人ホームは大きく分けて、『介護付き有料老人ホーム』『住宅型有料老人ホーム』『健康型有料老人ホーム』といった3つに分類され、『介護付き有料老人ホーム』はさらに一般型と外部サービス利用型に分けられる」。
 「有料老人ホームの費用については、都内であれば。毎月、約23万円前後が相場であり、神奈川県では、平均約20万円前後となっている。地方によっては約15万円以下の施設もあるが、いずれにしろこれら毎月の費用にプラスして、入居者の介護度に応じて介護保険自己負担額1割の2~3万円が必要である」「入居金に関しては、100~1000万円までといったように幅があり、0円という施設もある。もっとも入居一時金が安ければそれだけ毎月の費用に上乗せされるのが一般的である」。

 第2章 現場と政策のあいだ
 略。

 第3章 介護予防システム
 略。

 第4章 介護保険の原点は何か

 「介護保険制度の発足にあたっては、社会保険方式とするか、税金で賄うべきかの激しい議論がなされた経緯がある」「しかし、結果的には健康保険、年金、雇用保険、労災保険に次ぐ5番目の社会保障として介護保険制度が位置づけられ、1997年12月に介護保険法案が国会で成立、2000年4月から介護保険制度がスタートした」「その目的は以下の4点にまとめることができる」「第一に、『介護の社会化』という意味で、主に家族が担ってきた介護に対して、社会全体で取り組むというねらいがあった。特に、『嫁』『妻』に大きな負担がかかり、女性が介護に追われてしまう社会問題もクローズアップされた」「第二に、医療と介護の区分の明確化である。当時、老人病院などを中心に社会的入院が顕在化しており、医療費高騰の要因ともなっていた」「第三に、…競争原理を活かしながら、多様な供給主体を介護業界に参入させることにあった」「第四に、介護保険制度は市区町村が主体となり、保険者として、各地域に合ったサービス体系を構築することが目指され、国の主導ではなく地方分権の試金石として期待された」。
 「しかし、未だに社会的入院は深刻化し、利用者がサービスを選べるほどにはなっていない。しかも、『介護の社会化』が目指されたといえども、家族に依存する在宅介護の現状は変わっていない」「介護保険制度が創設されるにいたった『理念』と、8年が過ぎた介護現場を比べると、かなり乖離していると言わざるをえない」。

 第5章 介護労働者から見る現場
 略。

 終章 現場へ歩み寄るための道筋
 略。

 「介護保険制度」や「公助」に100%頼ることはできないということは肝に銘じておいたほうがよさそうだ。 

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