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岩崎日出俊著『定年後 年金前』(祥伝社新書)

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定年後 年金前

 岩崎日出俊著『定年後 年金前』(祥伝社新書、2011年2月10日発行)を読んだ。定年後の本や超高齢社会関連の本を読んで今一つピンとこなかったのが、定年後に最低どれだけおカネが必要で、自由な暮らしをするためにはどれだけおカネを稼がなければならないかということ。それを明確にしてくれ、しかも、おカネを稼ぐための個人起業のノウハウについても解説してくれている。最近読んだ本の中では最も実践的な本だった。

 年金はどのくらい?
 厚生労働省が発表している「年金のモデル世帯ケース」。モデルは20歳で就職し、厚生年金に加入して60歳まで同じ会社に勤めた男性。この男性が65歳からもらう年金は、月額16万7000円。
 「厚生年金の支給額が人によって違うのは、会社員時代の年収に左右されるからです」「いずれにせよ、月額13万円から17万円というのが、ごく普通のサラリーマンが受け取る年金額と言えるでしょう」。
 「個人事業主」は国民年金に加入しています。「厚生労働省によると、国民年金は満額で月6万6000円ですが、これは40年間保険料を払いつづけた人のケース」。

 「かつては60歳からもらえた年金が、やがて65歳にならないともらえなくなります。60歳に定年退職した場合には、65歳になるまで給料も年金も支給されない期間が生まれるわけです。これが『空白の5年間』と呼ばれるもので、サラリーマンにとって不安材料の1つになっています」「『空白の5年間』は男性と女性によって違ってきます。男性の場合、2階建て年金のうち、1階部分に当たる国民年金(老齢基礎年金)の支給は、すでに65歳からになりました」「2階部分の老齢厚生年金については、段階的に受け取れる年齢が引き上げられていきます」「昭和36年4月2日以降に生まれた男性…は、65歳にならないとまったく年金がもらえず、『空白の5年間』を過ごさなければなりません。これに対して、昭和28年4月2日から昭和36年4月1日までに生まれた男性(57歳から50歳)は、60歳になったときに支給される年金額は0円。しかし、その後の受給開始時期はそれぞれの年齢で違ってくるという、ややこしい仕組みになっています」。

 老後はいくらおカネがかかる?
 「じつは老後には、一般的に言って1億円程度のお金がかかるのです」。
 そして、「年金は…定年後に生きていくのに必要な資金のなんと6~7割をカバーしてくれるのです」。

 資産運用は安全ではないという。
 「リターンの高いものはリスクも高い。これが金融の理論の鉄則です」「長年会社の仕事を粛々とこなしてきて得た大切な退職金です。資産運用のうまい話は無視して、まとまったお金は1000万円ずつ分けて銀行に預金し、一生涯もらえる年金と併用していくのが安全な老後の道だと思います」。

 ある日突然やってくる「親の介護」。
 「私の周囲を見る限り『85歳』からが介護年齢ではないでしょうか。85歳を過ぎた両親について『急に老け込んだ』『転ぶ回数が多くなった』『物忘れが激しくなった』と語る友人、知人が多いのです」「生活に不安を感じたらヘルパーを入れて普段通りの生活をできるかぎりつづけ、最後はホームで過ごす……そんな道筋を今は描いています」。

 「入所型施設でなるべくコストを抑えるには、特別養護老人ホーム(特養ホーム)など公的な施設を利用するにかぎりますが、現実は非常にむずかしいでしょう」「このため多くの場合、親に24時間体制の介護が必要になったら、初めから民間の介護付き老人ホームを選ぶという人が多くなってきています」。

 「たとえば首都圏の場合、入居一時金1000万円、月額利用料25万円といったあたりが平均コストのようです」「かりに85歳で入居し、95歳まで施設を利用するとして、この平均的利用料で総額を試算してみると」「入居一時金1000万円+(月額25万円×12ヵ月×10年)=4000万円」となります。
 「入居一時金0円から100万円以下、月額利用料も15万円程度といった比較的リーズナブルな介護付き老人ホームも少なくありません」「しかし、価格が低い施設には、居室がかなり狭い、また介護スタッフの数が充分でなかったりするところもあるようです」。
 「介護施設の料金体系は施設ごとにさまざまですが、総体的に言えるのは『ひじょうに複雑』だということです。入居の際、数年分の施設利用料として『入居一時金』を取る施設も少なくありません。この入居一時金のなかには償却が含まれていますが、これには注意が必要です」。

 70歳まで働く時代。
 「これから定年を迎えるサラリーマンは、再雇用制度などを利用して65歳まで働くのがごく普通になってきます。いやそれどころか、『70歳まで働く』ことが前提の時代になりつつあります」。
 「定年後、再雇用制度を利用してもやりがいを感じる仕事には就けず、かといって家にいても妻に疎んじられるか、へたをすれば叩き出される――残念ながら、これが定年退職者の一般的な現実です」「運よく再雇用されたあとの職場環境に恵まれ、やりがいを感じる仕事を与えられても、65歳になればまた退職を迫られます」「となれば、残る道は『個人で仕事を始める』しかありません」「ただし、誤解しないでください。個人企業の目的は、大成功でも上場でもありません。自分と言うキャリアを活かして起業し、年金では足りない定年後の生活費を自ら生み出そう、という提案です」。

 退職金を「株で運用するということはどういうことでしょう。たとえばトヨタの株式に投資するというのは、自分が投じた資金の命運をトヨタの経営者にゆだねるということです」「起業をして、創業資金、事業資金としてお金を使うということは、自分で自分のお金をコントロールするということです。そのほうが他人(たとえばトヨタの経営者)に任せるよりも納得できませんか」。
 「往々にして、村社会でうまく立ち回れた人が村の外へ一歩出ると生きていけず、村の中では外れ者だった人が村の外へ出たとたん能力を発揮します。その意味で、会社で不遇を託ちながらも実直にサラリーマン生活を勤め上げた人ほど、定年後の個人起業で成功する確率は高いと思うのです」。

 「定年間近になって焦らないよう、少なくとも50代の半ばまでには退職後の起業について考えておくことをお勧めします」。

 具体的にどうすればいいか。
 「スタート後の半年間の資金計画をあらかじめ作ってから、事業をスタートさせましょう。もし事前の計画と異なってしまって、半年あるいは1年つづけても黒字にならなかったら、その時点で会社をたたむことを考えたほうが身のためです」。
 「起業はやはり自分の強み、キャリアを活かしたものでないとむずかしいのです」。
 「『このままリタイヤして一生を終えたくない』『ずっと現役で仕事を楽しみたい』」「規模の大小にかかわらず、熟年起業家にはこの気持ちがいちばん大切なのです」

 「事業の成功理由は、なかなかひと言では語れません」「しかし、事業失敗の理由は、ほとんど次のひと言に集約できます。『見栄を張ったから』」「大事なのは肩書ではなく、『この仕事がしたい』という意欲です」。
 
 「組織が大きくなればなるほど決定は遅く、一度決定したことは絶対に守らなければいけないという『病』に陥りがちです。だからこそ、個人起業に意義も勝ち目もあるのです」。

 定年後にやるべきことがだんだん見えてきた。

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