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杉山知之著『クリエイター・スピリットとは何か?』 (ちくまプリマー新書)

Creator_spirit
クリエイター・スピリットとは何か?

 杉山知之著『クリエイター・スピリットとは何か?』 (ちくまプリマー新書、2007年4月10日発行)を読んだ。
 杉山氏はデジタルハリウッド大学の学長。1994年10月、東京の御茶ノ水でクリエイター養成スクール、デジタルハリウッドを設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開き、翌年、「デジタルハリウッド大学」を開校した。同時に数多くのITベンチャーの起業に携わりクリエイターを必要とする場もつくってきた。その杉山氏のクリエイター論に興味を抱き、この本を手に取った。

 杉山氏は、クリエイターとしてオリジナリティーのある発想をしようと思ったら、まず、「『自分らしいもの』や『自分が好きなもの』をもっと知る必要がある」という。
 「たとえば、君は『このカタチがいいな』と思って歯ブラシを選んだとする。そうしたら、『ああ、こういうものが並んでいるときには、こういうカタチのものを選ぶのが自分なんだ』ということを知っておきなさいということ。一つ知れば、それだけでもう自分のことが一つわかるようになる。それをどんどん増やしていけばいい」。
 「そして、自分の好きなものがおぼろげながらもわかると、好きなものをつくるときにも自然と気持ちが入っていく」「そうすると脳がいい方向にまわっていって、なにか新しいものがきっと出てくる」。

 「いろんなアーティストやクリエイターに聞いてみても、いちばん最初の出だしには好きなものばかりつくってたというケースがほとんどだ」。

 「クリエイターを目指す人は、自己発見のトレーニングを通じて、それぞれ自分なりの原点を見つけだしてほしい」。 
 「自分を知るトレーニングを積んできた人なら、自分の好みを原点とする座標軸をしっかりと持っている」ので、クライアントから自分が本来つくりたいものとは違う傾向のものを頼まれても「自分の好みという原点からクライアントの要望が位置する点」までの距離が分かるので対応できるという。

 さて、クリエイターになるためにまず、何をすればいいか。杉山氏は「基本はパクリからはじめよう」と言う。
 「『カヴァーから入る』という伝統は、ミュージシャンの世界ではできている」「若いうちはどんどんコピーしろといいたい。コピーの過程は自己発見の過程にも重なる。だって、好きな人の作品をどんなに模写しても、どうしても似ないということがあるでしょう。その、どう似せようとしても似ないところこそが、自分らしさだったりするんだ」。

 そして、「なりたいものがあるのなら、その分野の作品に浴びるように触れてほしい」。
 「お父さんもお母さんも、子どもがなにかにものすごくハマって、そればっかりやるようなら、むしろ安心と思わなきゃいけない」。

 自分の好きなものを見つけて、ハマる。うん、これならだれでもクリエイターになれそうだ。♪


 そして、杉山氏はクリエイターにとって理想の環境が日本にはそろっていると言う。
 「日本ほど、小さいころに特定の価値観の刷り込みをされていない国はない。だからこそ、どんな表現だって平気なのだ」。
 「日本人は無頓着で貪欲で、使えるものは何でも使っちゃうみたいな感覚を持っている。楽しめるものは楽しんじゃう。そこに歯止めがない」。
 「西洋文化のコピーをつづけるうちに、ある時期からそれを突き抜けちゃったんだと思う。だからこそ、いまや世界中からそのオリジナリティを認められるようになったんだね」。

 杉山氏は「マンガやゲームのなかの暴力シーンや残虐なシーンを、なるべく規制していこうという」世界の流れに対しては否定的で「むしろイマジネーションというものは、行けるところまで行っちゃっていいと思う」と言う。
 「一歩まちがえば人間はどんな残虐なこともできるんだよ、どんなおそろしいことでも考えつくんだよ、ということはどんどん表現しちゃったほうがいいと思う」「『人間はときにこんなに残虐になれるんだ』ということを表現することは、ある種の抑止力にもなるんだ。だから『見る』ということはとても重要なんだ。見ることは疑似体験になるから」。

 自己規制せずに、表現してみなさいと言うことか。表現の自由!


 クリエイターはどのようにアイデアを得るのだろうか。
 「アイデアや考えというものは、自分で自由につくり出すというよりは、そうだな、どっちかというとアイデアの方から降りてくるものだと思ったほうがいい」「アイデアが降りてきたら、なるべくすばやく記録するのがいい」「これは落語家でも建築家でも小説家でもゲーム・デザイナーでも、大なり小なり成功した人なら、誰もがやっていることなんだね」。

 クリエイターに学校の勉強は必要か?
 みんなが必要最小限の知識を共有していると「いろんな人たちと会話をしたり、意見を交換したり、一緒にものをつくっていったりするときに、効率がよくなるというメリットがある」。
 「自分の世界を築くうえでも、自分が所属している社会や世界について見通しをもっていたほうが断然いい」。
 「RPGのアイテムみたいなものだと思ったらどうだろう。…知識というアイテムも幅広くたくさん装備しておくことで、いろんなことの見通しがよくなる」。

 「一番大切なことは、自分がつくりたいものにとって、なにが本当に必要なのかをしっかり知ることだ」「たとえば、本格的に3DCGで絵を描きたい人は、手描きがまったく不要かといったらそんなことはない。…やっぱりデッサンをお勧めする。…形と陰影を見る訓練としては、やっぱり伝統的なデッサンが適している」。

 そして、ものをつくりはじめる。

 「表現をするとき、そしてそれを一応完成したものとして手放すとき、必ず自問自答をしよう。自分はこの作品に自分がいま持っている技量を出し尽くしただろうか、しっかりと考え抜いてつくっただろうか、要するに自分は全力を注いだだろうか、と」「全力を尽くしたなら、評価は評価で置いておいて、ともかくつぎをつくる」「つくればつくるほど技量は磨かれるし、当然のことながら経験値も増えていくよね」「なにより、つくっているうちに自分自身もどんどん変わっていく」

 しかし、自分の作品を世に出したければ、「セルフ・プロデュース」が必要と杉山氏。
 「その作品をいったい社会のなかのどこに置いたら価値を持つだろう。誰に提案したらおもしろがってもらえるだろう。つまり自分にとってだけの価値じゃなくて、他の人にとっても価値が生まれるだろう。そういう意識をもつこと」がセルフ・プロデュースだ。

 もっとも、クリエイターがそこまでやるのは難しい場合が多く、杉山氏はクリエイティブ・プロデューサーがどんどん生まれてほしいと願う。作品にふさわしい場所を見つけてくれる人のことだ。審美眼があり、社会の仕組みや時代の潮流についても目配せでき、プレゼンテーション能力があり、法律や経済的知識にも長けた人だ。


 本書で「クリエイター・スピリット」については感じがつかめた。日本には、クリエイターを生み出す最適な環境があることも分かった。
 しかし、深刻なのは、彼らと世の中をつなぐプロデューサーが、いま一番不足しているようなだということだ。

 杉山氏には、ぜひ、プロデューサー論も書いていただきたい。

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