演劇『明日はあるのか?』(作/演出・渡辺熱、デッドストックユニオンプロデュース)
5月1日夜、演劇『明日はあるのか?』(作/演出・渡辺熱、デッドストックユニオンプロデュース)の千秋楽を観た。
デッドストックユニオンの演劇を観るのは初めてだが、今回の劇は劇団や役者の生きざまを描く作品で、劇中劇も苦境に陥った劇団の物語。複雑な入れ子構造をラストで見事にまとめあげ、演劇の世界と現実、ドラマとノンフィクションをうまく紡いだ面白い作品になっていた。
デッドストックユニオンは、公式ホームページによると、「CM・映画・TV・舞台等、様々なメディアで活躍出来る俳優、タレントのマネージメント、育成をおこなっているプロダクション」「前身は、DEAD STOCK UNIONという演劇ユニット」「代表の渡辺 熱が、演劇を学ぶ為に3年間アメリカ留学した経験を生かして主宰しているワークショップ(WORKSHOP 101)の参加者を中心に作られた集団である。年間4本の公演活動を主体とするが、マスコミ等の外部出演依頼が増えた事等に伴い、更なる発展と新たな活躍の場を開拓する為に2001年4月にプロダクションとして法人化し、有限会社デッドストックユニオンとなる」「演劇ユニット当時のテイストを保ちながら、存在感のある魅力的な役者の育成を目指して現在も自社制作による公演を行なっている」とのことだ。
劇中の役や台詞にそんな精神が垣間見られ、面白かった。
午後5時半からの千秋楽をウッディシアター中目黒(東京都目黒区上目黒2-43-5 キャトルセゾンB1F、03・3791・6566)で観た。3月17日より上演を予定していたが震災で延期。今回、公演を行った。
劇場のホームページによると、基本情報は以下の通り。
4月27日(水)~5月1日(日)
「明日はあるのか?」
脚本・演出 渡辺 熱
出演 元木行哉、三崎千香、江藤修平、前野恵、道祖尾悠希、緑川睦、太田知咲、沢城千春、古川真由美、伊庭みずほ、酒井勝、今村祈履、石井良育、渡辺熱
照明 林 高士
音響 宮崎裕之
美術 ステージハットリザウルス
舞台監督 川崎耕平
制作 (有)デッドストックユニオン
チケット 全席自由
前売 ¥3.500- 当日 ¥3.800-
デッドストックユニオンから皆様へ~~~♪
いつの頃からか、夢は寝ているときにしか見ないようになってしまった・・・
大きくなったら・・・
将来は・・・
もう既に大きくなってしまった私には、将来の夢を見る事は出来ないような気がする。
勝海舟の言葉に、確か、こんなようなのがあった。
「誰でも始めに立てた方針通りに生きることは出来ない。元来人間は、明日のことさえわからないのだから」
これは、起きている時に見る「夢」のお話です。
本来は演劇の紹介はここで終わるのだろうが、もう少し書きたい。
※以下ネタバレの部分もあります。再演もあり得ますので、ここからは、これから演劇をお楽しみになる方は、読まないでください。
舞台はある劇団の稽古場。寺の住職が場を提供している。劇団の主宰者は脚本と主演をこなすが、演劇だけでは食って行けず、市役所の臨時職員のアルバイトで生計を立てている。
彼は同じ劇団で制作を担当する女性に結婚を申し込もうとするが、なかなか打ち明けられない。収入も少ない劇団員のままで、所帯を持とうなどと彼女に言えるのか。結婚を了承してもらうために市の正規職員になるための試験を受けるか。しかし、市の正規職員になれば、もう劇団中心ではやっていけない…。思い悩むのだ。
劇団の稽古場はある時から異臭を放っていた。稽古場にホームレスが住み着いていたのだ。ホームレスが登場すると臭ってくるようだった。劇団は当然、不法にも稽古場で寝泊まりしていた彼を追い出そうとするのだが、住職が人道的見地から、風呂に入ってくるように言って、稽古場での寝泊りを認める。彼は稽古の一部始終を見ていて、時折、劇団員個々に、「こうしたら良くなるのではないでしょうか」と意見を言うのだが、その通りにすると、劇が一段と良くなるのだ。彼は一体何者?
劇団が演じるのは、主宰者が死んで解散寸前になっているある劇団の物語。勝海舟がタイムスリップしてきて劇団を鼓舞し、救うというストーリーだ。 勝は強運の持ち主。運がやってくるまでは待たなければならないが、その運をつかむためにも最初に志したことは最後までやりとげなければならないと説く。
勝の言葉はやがて、劇団の主宰者や、ホームレスに向けても発せられ、劇中劇のアドリブと台詞、劇中の劇団の進むべき方向性、さらに、恐らく、この演目を演じている現実の劇団(デッドストックユニオン)の思いまでもが交錯し、観客は、知らず知らずのうちに目の前の空間からそれぞれが夢を追っているのか、あきらめずにやり通しているのかという自分の思いへも飛翔していく――。
人間は誰もが夢を負うべきだが、大人になると往々にして夢が欲に変わっている。
劇中のそんな台詞が印象的だった。
夢を追いたい。そんな元気が出る演劇だった。
ストレートなメッセージを上手に伝えていた。小演劇はエンターテインメントとして、枝葉で笑いを取ることがものすごく重要だと思うが、これまでは、笑いばかりを取ってなにが言いたいのか分からない、あるいは風刺は効いているのだが、代わってなにを訴えたいのかが明確でないような演劇も多かったと思う。おそらく劇団の演出家は、なかなか気恥ずかしくてストレートなメッセージを伝えにくかったのではないか。
でも震災後の日本全体の苦難、政治不在の不安の中で、ストレートなメッセージが再び求めらる時代状況にある。この演劇は、震災後にも強い共感の得られる夢と言うテーマをタイムリーに織り込んで、印象的な作品に仕上がっている。
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