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京井良彦著『ロングエンゲージメント なぜあの人は同じ会社のものばかり買い続けるのか』 (あさ出版)

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ロングエンゲージメント なぜあの人は同じ会社のものばかり買い続けるのか

 京井良彦著『ロングエンゲージメント なぜあの人は同じ会社のものばかり買い続けるのか』 (あさ出版、2011年1月9日発行)を読んだ。

 「共感」をキーワードにした広告(コミュニケーション)の広がりを分かりやすく解説している。

 プロローグは2010年6月にカンヌ映画祭に参加した著者の体験談から始まる。
 「象徴的だったのは、広告メディアに最も貢献した人物に贈られる賞である『メディア・パーソン・オブ・ザ・イヤー(Media Person Of The Year)』にFacebookの若きCEO、26歳のマーク・ザッカ―バーグ氏が選ばれたことでした」「授賞式での審査員の言葉は、『選定理由は簡単。彼は世界をつなげたから』」

 「カンヌの広告賞には様々な部門があります。その中でとくに注目されるのは、『チタニウム部門』という革新的な広告作品が競われる部門です」「2010年度にこのチタニウム部門のグランプリを受賞したのは、「Best Buy(ベストバイ)というアメリカの家電量販店の『TWELPFORCE(ツウェルプ・フォース)』と名付けられたキャンペーンでした」「『TWELPFORCE』とは、ベストバイが開設したTwitterのアカウントです(『TWELP』は『Twitter(ツイッター)とHelp(ヘルプ)』を組み合わせた造語)。ユーザーがこのTwitterアカウントに対して家電に関する質問をつぶやくと、知識豊富な全国のベストバイの社員が即時に答えてくれるという仕組みです」。

 「実は、チタニウム部門に限らず、他のどの受賞作も、広告表現でもない、仕組みでもない、『広告なんだか、何なんだか……』というような何か煮えきらない、派手さのないものばかりに見えました」。

 しかし、帰りのフライトで、考えがまとまってくる。

 「ソーシャルメディアは、てっきり広告に活用できる新しいツールだとしか思っていなかったけど、どうやらそういうことじゃないようだ。いわば人と人、さらに企業もつなぐ、ものすごく大きなプラットフォームということらしい。ということは、ソーシャルメディアをツールとしてどう広告に活用するかではなく、ソーシャルメディアの浸透によって変化した生活者とどうやってコミュニケーションをとっていけばいいのか、それを考えなくてはいけないのではないか」「生活者、企業、政府は、このプラットフォームを通じて、同じ社会に同じ立場として共存していくことになる。この関係は、新しい生態系のようなものかもしれない」「もう生活者は、送り手側からの一方的な、派手で、刺激的で、うまく言えているような広告は求めていないのかもしれない。それよりも、いつも身近な存在で、困った時に助けてくれるというような日常的な関係性を、企業や政府に求めているんじゃないだろうか」。

 「インターネットの普及によって、爆発的な情報量の増加が起きたことは言うまでもありませんが(…『情報インフレーション』…)、ソーシャルメディアを活用した生活者の情報発信は、この情報インフレーションをさらに大きく加速させることになりました」

 「もうひとつの特徴として、生活者同士がつながったということがあげられます。誰とつながるかは、生活者自身が選ぶことができます。そのため、このつながりは、単に物理的なものでなく、価値観による感情的なものと言えます」「自信の価値観に基づいて、情報やつながる相手を選ぶ。そこに共通するのは『共感』というキーワードです」。

 「これまで広告は生活者に情報を届けるために、熾烈な『アテンション』獲得競争を繰り広げてきました」「しかし、ソーシャルメディアというプラットフォームの登場によって、広告コミュニケーションは、『アテンションの獲得』から『共感の獲得』へと発想を転換していく必要が出てきています」。

 「このように変化した生活者は、もうターゲットではなく、長く付き合っていくパートナーとして捉える必要があります」「そこで、企業と生活者が日常的に末長く持続的な関係性を構築していくという概念を、『ロングエンゲージメント』と名付けて、これからの広告コミュニケーションが向かっていくひとつの方向性として探ってみることにしました」。

 プロローグで言いたいことをすべて言ってしまった感はあるが、先へ進むと、しっかりとした分析があり役に立つ。

 では生活者は何に共感するのか。
 まず、コンセプト。
 「欧米の企業は日本の企業に比べ、生活者のマインドの中に、明確なコンセプトを伝えている」「企業のブランドストーリーとでも言うべき大きな背景や文脈がハッキリと築かれていて、生活者はそのコンセプトに共感している」。

 「多くの企業が…業種を飛び越えたサービスを抱えるようになり、生活者へのソリューション提供を目指して拡大してきたため、業種という垣根がナンセンスになりつつあります。このような環境で生活者とのコミュニケーションを展開していくためには、提供する商品やサービスの背景や文脈を整理し、コンセプトとして理解を得る必要があると思うのです」。

 次にストーリー。
 「生活者は、微差のスペックの情報やデータを意識するのではなく、その商品やサービスにまつわるストーリーを知ることで共感を抱くのではないでしょうか」。

 そして、デザイン。
 「デザインを生み出すということは、対象をきちんと整理して、ものごとの本質を導き出して形にすることなのです」「たとえば、iPhoneやiPadなど、立て続けに発表されるアップルの一連の商品には、デザイン本来の力が鮮やかに発揮されています。明快なコンセプトと美しいプロダクトデザイン、操作性、iTunesソフトとの連動性、パッケージデザイン、アップルストア店舗、一連の広告キャンペーンまでがすべて完璧にその哲学を体現しています」「これは装飾ではなく、まさにソリューションとしてのデザインです」。

 「ロングエンゲージメント・コミュニケーションとは、企業と生活者が『企業哲学を共有』し、お互いが人格を持ったパートナーとして認め合い、よい関係を保ちながら長く付き合っていくためのコミュニケーション活動と言えるでしょう」。

 ロングエンゲージメント・コミュニケーションを展開していくために必要な要素として必要なのは次の3つだという。

①Philosophy(フィロソフィー):企業哲学の共有
②Participation(パティシペイション):生活者の参加
③Dialog(ダイアログ):生活者との対話

 それぞれの事例紹介はとても示唆に富んでいた。Appleの「Think Different(人と違った考えを)」キャンペーンや、ナイキの「LIVE STRONG(強く生きよう)」キャンペーンなどだ。


 これからの広告に関わる人たちには必読の一冊である。

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