井出洋介著『井出洋介の一牌入魂』(日本文芸社)
井出洋介著『井出洋介の一牌入魂』(日本文芸社、平成元年9月1日発行)を読んだ。
井出氏が「麻雀名人戦」でV3を達成した後の執筆。脂が乗り切っているころの著作だ。
東1局 人生は麻雀のようなもの
「実際、マージャンというものは順風のときは何をしなくともうまくいく。うまくいかなくなれば、どんなに手づくりに頭をひねり、策を弄してもなかなか思い通りにいかない。いや、むしろもがけばもがくほど、流れは悪いほうへ悪いほうへと傾いていく」「こんなとき一番いい方法は、"おしん"じゃないが、実はじっと耐えること、待つことである」「じっと待ちながらチャンスをうかがい、勝負どころがくれば、敢然と勝負に出なければならない」。
「順風のときも下手に動くとよくない」「マージャンでも、順風のときは他の人の手を借りなくても、ちゃんと必要な牌をツモってくる」「『疾きこと風の如し 動かざること山の如し』は武田信玄の有名な言葉だが、人生においても、マージャンに限らず勝負の世界でも、流れを読み、"機をみて敏"であることが勝利への条件であろう」。
「やはり、日頃の努力、一生懸命に人生に立ち向かっていなければそんな幸運はやってこないだろうし、仮りにラッキーが訪れてもそれをつかむどころか、それがチャンスであることすら見逃してしまう」「日頃、飲んべんだらりと、何の努力もせずに、惰性的に生きているような人はマージャンのみならず、勝負事はそんなに強くなれないし、せっかくのチャンスがきても、それをみすみす逃してしまうのがオチである」「人生は毎日が勝負だ」。
「私自信、必ずしも勝たなくてもいいと思っている。マージャンでもそうだが、"負け"を肯定する勝負師であるし、負けもまた勝負である」「ただし、問題は負けた後だ。次に勝つためにいかに一生懸命努力し、創意工夫をこらすかだ」「私にとって勝負は負けたときからである」。
東1局1本場 勝負強さについて
「まずマージャンにおいて勝負強い人というのは、いわば"一芸に秀でた人たち"というか、経営やそれぞれの専門分野できちんと仕事を成し遂げている人たちである。私の見た限りではこうした人たちは例外なく勝負強い」「彼らが勝負強いのは、まず決断力に富んでいるからではないか。その決断力というのは、ここで勝負できるか、できないか。つまり攻撃をかけるか、あるいは引くかの決断が、何かことを成し遂げた人は一様に鋭いのである」「なぜ決断力があるかのかというと、その前提として、彼らが状況判断に優れているからだということができる」「逆境をはね返す力をもっていることも、こうした勝負強い人の特徴である」
東1局2本場 命がけで勝負できるか
「『シンドイことが継続してできるか。地道な仕事が何年も継続してできるのか』…これが一つの目安となる」「技術に裏づけられた精神力が勝負に勝つための大きなファクターになる」「ゲームの流れを読み、ここで我慢というときは我慢ができ、しかも、チャンスがきたら果敢に打って出るというようなことは、いくら頭で考えていてもできるのものではないのだ。それができるのはやはり、人生に耐え、地道な努力を何年も続けてやってきた人たちである」
「勝負に関してまた、武宮さん(囲碁の武宮正樹世界選手権者)の言葉を引用させていただくが、彼はプロの中でも強くなり、一流の棋士になる条件として、『一生懸命では足りない。命がけで勝負できるかどうかだ』と言い切るのだ」
東2局 清濁併せ呑む
「『井出ちゃんよ、"清濁併せ呑む"ことも必要だよ』 こう諭すように言ってくれたのは、馬券作家の高本公夫さん」「話せばなかなかの論客である。…その一言、一言が当時の私にはとても身にしみた。大きな声で、歯に衣着せず、ポンポン辛辣な言葉をぶつけてくる。それでいて、きわめて論理的なセオリーに反したことも平気でやっているのだ」。
東2局1本場 日常が勝負である
「私は原稿を書くことも、マージャン教室で講師をすることも、あるいは日常のいろいろな生活においてさえも、すべてのことが、私のマージャンにとって大きな糧になっていると思う」。
東2局2本場 "運"か"実力"か
「確率を重んじた上で、マージャンにおけるその局面の状況に応じた決断(つまり、確率的に高いほうをとるか、低いほうをとるか)を下し、信念をもって打つことが私のマージャンのスタイルである」「一連のゲームの流れをいかに読み、それにいかに対応するかが腕であり、ツキを呼び込んでチャンスを拡げたり、あるいは逆境を切り抜けたり、ピンチをチャンスに変えたりするトータルな力量こそ、真の実力である」。
東3局 勝負は人なり
「阿佐田(哲也)さんが文章やコメントなどで『あまり勝ちすぎてもよくない。相撲にたとえれば9勝6敗でしのいでいくのがいい』と言っていた」「トータルで勝ち残るためには、なまじある時期13勝2敗などと勝ちこんでしまうと、その後の反動が出て1勝14敗、あるいは15戦全敗となって再起不能の打撃を受けてしまったりする。あるいはそうでなくても、バクチで大勝ちを続けるような運を使うと、その分、身体をこわすなどの不運を背負い込むことになる。これが世の中のバランスというものだ。これが阿佐田さんの哲学である」「ラッキーで勝ったり、あるいは仕事の上で恵まれたことがあったとしよう。たいていの人はここで有頂天になる。自分自身を見失ってしまう。そんなときに必要なのが、いわばこの"9勝6敗"の感覚といえるのではないか。"9勝6敗"的バランス感覚があれば、勝った後、うまくいった後の苦戦の覚悟ができているから、たとえこのあと自分の思い通りにならなくてもあわてずにすむ」。
東3局1本場 一流の打ち手はみんな個性的
「大隈(秀夫)さんが守りのマージャンで、人柄もきわめて折り目正しい人物であるとすれば、自由奔放で個性的なマージャンの打ち手の筆頭が、映画監督の長谷川和彦さん」「長谷川さんに王位戦で敗れたことが、私の闘志に火をつけ、"プロの意地"を改めて呼び覚したのである」。
東3局2本場 谷川名人の強さの秘訣
「要するに強くなることは、それが好きになることであり、愛情をもつことであり、将棋でもマージャンでも同じことである」「どんな世界においても一つ一つの事柄に心を込めて当たる。この積み重ねが"勝負への道"につながる
」「"一牌入魂" 私は改めてこんな言葉を考えた」。
東4局 プロとアマはここが違う
「それに生きようとする"プロ"であれば、まさに一摸一打に本人の存在が賭けられなければならない」。
東4局1本場 プロであることの条件
「プロといえども、その瞬時、ある勝負では負けるかもしれない。しかし、同じ相手と次に勝負するときには勝つ」「プロは負けたその瞬間、次にどうすれば負けないかを考える」「本当のプロとは"何度でも勝つ力"をもっている人であり、仮りにそのときは敗れてもまた必ず借りを返し、タイトルを失ったらそれを奪回できる実力をもった人にほかならない」。
東4局 私はこうして強くなった!
「競技マージャンを少し訓練するとふつうの賭けマージャンの成績が悪くなるというパターンがあって、競技マージャンを始めた頃の私もこうした状況に陥ったものである」「ふつうのマージャンに勝つために必要な"勢い"の部分の読みが競技マージャンをやっていると弱くなるんだということに気がついた」
南1局 勝負は戦う前から始まっている
「勝負に限らず、やはりここ一番人生における重要な一場面において、それを成功裏に終わらせるためには、事に当たる前のコンディションづくりが、大きなウエイトを占めていることに変わりはないだろう」。
南1局1本場 平常心をどう保つ
「私はこれまでマージャンに限らず、将棋や囲碁のプロ、あるいはスポーツ選手などに会ってきたが、彼らが一様に口にするのは『迷ったら負け』。
南1局2本場 スランプ脱出法
「フォームの崩れといった実際に表面的にもわかる欠点が目につくかもしれないが、そうしたことは、その人間の精神的な迷いや焦りといったものから生じているのだといえよう」「気持ちのもち方一つで、心は奮い立ちもするし、滅入りもする。それならば心が燃えるほうに考えた方がいい」。
南2局 "勢い"を読む
「偶然性と腕、さらに勝負を左右するメンタルな要素こそ、マージャンをして、人に飽きさせない魅力の根源のように思う」「まず、自分の勢い、その時々の状況において、いま自分がツイでいるのか、いないのか、ということの判断が"読み"の第一歩である」。
南2局1本場 勝負どころを逃がすな!
「勝負どころをいかにつかむか、また、いつ勝負をかけるか。これを的確に読み、敢然と勝負に出なければ、逆転はおろかせっかくの勝ちパターンの対局までふいにすることになる」。
南2局2本場 攻められたときが勝負どころ
「勝負するときに勝負しないとツキは逃げる。勢いがなくなってしまう」「チャンスが回ってきて、相手に攻められたときが、ここ一番の"勝負どころ"となるのだ」。
南3局 勝負は気合だ
「同じランク同士が戦うのなら、やはり気合が入っているほうが勝利への確率が高くなる」。
南3局1本場 何か違ったことをやって勝つ
「どうしても勝てない相手には――。そのときは"奇襲戦法"」。
南3局2本場 逆転こそ勝利への道
「勝負においては、引き離されず、その差を保って、じわじわと追いついていけば、必ずそこにチャンスが到来する」。
南4局 「名人戦」大逆転の構図
「諦めてはいけない。"ああもうダメだ"と思ったら絶対に逆転できるわけがない」。
南4局1本場 「名人戦」大逆転から学んだこと
「苦境を切り抜けて勝つことによってはじめて、ピンチがきてもあわてなくなるのだ」。
南4局2本場 格闘派マージャンへの脱皮
「勝負というもの、何よりも大切なのは大局観である。終局を頭に描きながら、どっしり構えていて、力をためておいてここ一番勝負をかけるときはかける、ということでなければなかなか勝てないのだ」。
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