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猪口邦子、勝間和代著『猪口さん、なぜ少子化が問題なのですか?』(ディスカヴァー携書)

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猪口さん、なぜ少子化が問題なのですか?

 猪口邦子、勝間和代著『猪口さん、なぜ少子化が問題なのですか?』(ディスカヴァー携書、2007年4月20日発行)を読んだ。
 国際政治学者としての猪口さんは尊敬していたが、少子化・男女共同参画担当大臣であった頃の猪口さんは、切れ味が良くない、と思っていた。

 しかし本書を読むと、猪口さん、なかなか良いことをおっしゃっている。
 
 「かなりの方々が、好きな人ができて結婚して子どもを産み育てたいという希望を持っていると仮定した場合、そういう、さほど野心的ではない希望すらかなえにくい社会、それを夢として若い世代が抱きにくい社会、あるいは経済的にそれを実現することの見通しが立たない社会――現在の少子化の状況というものは、そうした社会の反映であり、そういうことの総合的な結果であるというとらえ方が必要です」。

 「仮に、無策である場合、2005年を分岐点に、これはもう幾何級数的に人口減少が進んでいき、2100年ごろになると4080万人、2300年には176万人と推定されます」「今なら1000億円の支援強化で流れを好転させることができても、2030年になってからでは、そこで、1000億、2000億の政策費を投入したところで、もはや変化をもたらすことはできないほど急速な縮小局面に入ってしまっていることになります」。

 これだけの認識や危機感が政府に共有されていたのかどうか。少なくともそんな危機感を担当大臣が持っていたとは知らなかった。


 「『新しい少子化対策について』の中で、事業所内保育施設の抜本的拡充ということを打ち出しました」「日本ではゾーニングの考え方が強くて、地域によってはまったく子どもの姿が見えません。住宅地に行かないと、お母さんと子どもの姿を見ることは滅多にありません。ところがどこにでも事業所内保育施設があることになりますと、都市のいたるところで、保護者と子どもの姿を見ることになります」「事業所内保育施設を、あちこちに設置すると、永田町や霞ヶ関や大手町の街に、ベビーカーを押すお母さんが通ることになります。外国のように、スーツ姿の背中に子どもを背負ったお父さんが通るということなんです」。

 残念ながら、まだそのような姿はあまり見かけない。

 勝間さんの発言の中で面白かったのは、ワーキングマザーに関する発言。
 「子どもを持ったことを後悔しているのか、といったらそんなことはない。そのたいへんさを補って余りある喜びを得ている、そのことを否定するワーキングマザーは少なくともわたしの周りにはいません」「問題は、そういうたいへんさに対する見返りが何かというのが、今、非常に想像しづらくなっていることにあるのだと思います」「理由の一つは、子どものいる喜び、これは非常に体験型の商品なので、子どもを持たないと、どうしてもわかりにくいものだからということでしょうね」「理由のもう一つは、ワーキングマザーたちが、あえてその喜びを語ろうとしない、という点にあると思います」「ワーキングマザーが声高に、子どもを持つことの喜びについて発言しないのは、気をつけないと、独身ワーキングウーマンも専業主婦も、どちらも敵に回してしまうことになるからですよ」「ただ、そろそろ、ワーキングマザーという生き方もあるんだということは、ある程度示唆していったほうがいいと思いますね。専業主婦のほうがいいとか悪いとかいう議論をいったん超えて、女性全体で、あるいは男女も含めて、子どもをちゃんとみんなで育てようという意思決定をしなければならない状況にきていると思います」。

 ワーキングマザーは女性のあいだではもう普通になっていると思っていただけに驚いた。

 「アシスタント職だと、時間の融通性という点でちょっときついのは事実でしょう。こういう話をすると、働く女性の全員がアシスタントではない地位に就けるわけでもないのだから、結局、ワーキングマザーというのは、一部の女性のものだという声が聞こえてきます。ですが、わたしは、すべての女性が、ある程度の地位まで目指したほうがいいと思っているんです。アシスタント職でない職のチャンスがあるのであれば、そちらを選ぶ。自分の自由な時間を確保できる仕事を目指したほうがいいと思うんです。そのほうが子育てがしやすいのですから」。

 バリバリ仕事をする職に女性が就いたほうが、子育てがしやすい、というのは意外な事実だった。

 「いわゆるノミニケーション、あれがなくても仕事はできるはずです」「女性がお酒も飲まずに仕事をし、家事をし、育児をやっているのに、なぜお父さんだけが外でお酒を飲んでいるんですか、ということです」「今、お父さんの家庭回帰というのが、ほんとうに必要なのです」。

 正論だ。

 「戦後の高度成長時代から続く効率主義が、もはや、企業の存続と発展のためにも効果的でなくなってきているということです。・・・そんな社会にしたからこそ、失われた10年があって、少子化があって、今の格差社会になっているのです」。
 「家庭と仕事の極端な分業が主流になったのは、わずかこの数十年のことにすぎません。人類の長い歴史の中で見たら、かなり特殊形態だったわけです」「今まさに、社会全体で、リデザイン、つまりデザインをし直している状態だと思うんです」。

 「人口の増加が止まってきた今では、供給が過多になっているんです。ならば、需要をつくらなければいけません。では需要をつくるのは何かというと、それが家庭に戻ることであり、子どもをもっと多く育てることなのです。それをせずして、これ以上供給したってしょうがないんですよ。消費する人がいないわけですから」。

 「最近よく受けるのが、自分は特別なスキルも身につけずにきてしまったが、この先、子どもを産んで、いったいどうしたらいいんですかという相談です。確かに、企業から比較的好意的に子育て支援を受けられるのは、女性が管理職や専門職である場合が多い。でもそれでは広がらないと思うんです。ごく普通の女性にまでハードルを下げていかないと」「普通の女性にスキルがつきにくいのは、企業内訓練においては、今でも完全なる男女差別があるからだとわたしは思っています」。

 
 少子化問題は社会全体の仕組みや我々の常識(=固定観念)にも関わってくる問題であることが改めて分かった。
 
 面白い一冊だった。

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