山田昌弘著『少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ』(岩波新書)
山田昌弘著『少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ』(岩波新書、2007年4月20日発行)を読んだ。
日本の高齢化率(65歳以上の人口が総人口に占める割合)が高まっている原因は長寿化と少子化だ。長生きは悪いことではないが、少子化を伴うと、高齢者を支える人間が減ってくるということで社会問題化する。
少子化についても学びたいと思い、本書を手に取った。
山田氏の著書は、以前『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書、1999年)を読んだことがあるが、同氏は本書の中で日本の少子化の主因を「①『若年男性の収入の不安定化』と②『パラサイト・シングル現象』の合わせ技(専門用語だと交互作用ということになる)」だと結論づけている。
まず、日本の少子化の現状を見てみよう。
山田氏は以下の4つの統計・調査データを「少子化の深刻化・四点セット」と呼んでいる。
①日本の総人口減少
「2005年、日本の総人口が、統計を取り始めて以来、初めて減少を記録した」「2005年に日本で生まれた子どもは、106万2530人と、前年に比べ4万8000人余り減り、死亡は、高齢化の影響を受け、108万3796人と、前年比5万5000人余りの増加となった。差し引き2万1266人の減少である」。
②合計特殊出生率の最低値更新
「2005年の合計特殊出生率が、1.26(確定値。速報では1.25と報じられた)と最低を更新した」「合計特殊出生率とは、女性一人あたりが一生涯に産む平均子ども数、つまりは一人の女性が平均何人子どもをもつかという数字である」「一人の女性が約2.07人位子どもを産めば、計算上、日本の人口は長期的に増えも減りもしない(これを人口置換水準という)。0.07人のおまけは、人間は生物学的に女性より男性の方が5%程度多く生まれることと、女性が子どもを産める年齢になるまでに亡くなる確率を考慮しているからである」。
③未婚率の増大
「未婚率、つまり、一度も結婚していない人の割合が急上昇している」「30~34歳までの人のうち、未婚者は、男性47.1%、女性32.0%に達している」「男性は1980年から、女性は1990年から、ほぼ、年1ポイント(全体の1%)の割合で未婚者が増えている」。
④夫婦出生率の低下
完全出生児数(結婚持続期間15~19年の女性が何人子どもを生んだか)も「2002年までは、30年間、2.2前後で安定していた」「2005年の調査では、2.09と低下を開始した」。
「戦後、もっと広くとれば、明治以来、日本では少子化が二度起きている。一回目は、1950年から55年にかけての少子化であり、二回目が、1975年から現在まで長期的に続く少子化である」。
1950年から55年の少子化は「4人産むスタイルから2人産むスタイルが標準になったことによってもたらされた」ものであり、「当時の子ども数の減少は、どの地域、どの家族にも、比較的、平均的に起こった」。
これに対し、「1975年頃から始まり、現在まで続く少子化は、地域や家族の格差を伴いながら進行している」「人口を維持できる都市部と、若者、そして子どもが減り、過疎化、高齢化が進む周辺部との二極化が生じている」。
「1975年から始まる日本の少子化は、単に各夫婦の子ども数が一様に減っているわけではない。若者の中で結婚する人としない人に分かれ、更に、結婚して子どもをもつ人ともたない人に分かれている結果生じている現象なのである」。
少子化のマクロ的なデメリット。
「もし、人口構成が変わらずに、総人口が減るのならば、大きな問題はない。しかし、現在進行中の少子化は、子どもの数が少なくなり、高齢者の割合が増えていく少子高齢化である」「少子化の結果としての『人口構成の変化』によって日本社会には、①労働力不足、②年金などの社会保障負担の増大、③経済成長の鈍化などのデメリットが生じることが確実視されている」。
「地域の問題で言えば、…①労働力不足、②社会保障財政、③経済成長の問題がより増幅した形で現れる」「①生産のための労働力不足だけでなく、需要が減少した人口減少地域からはサービス業も経済的に維持できずに撤退せざるを得ない。介護や医療の労働力も不足する」「②社会保障財政に関しては、地域レベルでの自立は不可能になる。・・・急速な高齢化が進む地域では、現役世代の拠出が少ないだけでなく、資産はなく収入も少ない高齢者が多い。つまり、若い人が高齢者を支える賦課方式をとろうが、お金持ちの高齢者が低収入の高齢者を支える『世代内助け合い方式』をとろうが、どちらも不可能という地域がこれからでてくるのだ」「③経済成長にしても、活力ある人は、雇用機会やビジネス機会を求めて活力ある地域に移動する。わざわざ人口減少地域に投資しようとする人はいないから、経済成長的にも、取り残される地域が出現する」「人口減少、高齢化が進む地域への特別の対応策を、『日本全体』で考えなくてはならない時期に来ているのだ」。
少子化はなぜ始まったのか。
「一言で言えば、少子化は、『若年男性一人の収入では、豊かな家族生活を築くのは無理になった』という事実への『日本的対応』の結果生じたものである」。
「日本社会では、結婚が遅れると、親と同居した生活を送る期間を長期化させることになる。そして、親と同居していると、消費やレジャーなど生活水準が上昇する。生活水準が上昇すれば、結婚生活に対する期待は上昇する。その生活水準は自分たちの収入だけでは実現することはできない。したがって親元に留まり続け、未婚率が上昇する」「『構造的に』出会えないまま、年齢を重ねる人が増えてくるのである」。
「欧米のほとんどの国々では、1970年代に少子化傾向が始まったが、1980年代には、アメリカや北欧では出生率が回復し、フランスやイギリスなどでは少子化が止まった。その一方で日本と同じように、(旧)西ドイツやイタリア、スペインなど出生率の低下が止まらない国も現れた」「その差が生じたのは、一つは『パラサイト社会』かどうかという文化的条件、もう一つは、『男女共同参画社会』への転換が進んだかどうかという社会的条件にある」「多くの欧米諸国では、共働き化によって、若年男性の収入見通しの悪化を補ったのである」。
少子化はなぜ深刻化したのか。
「1992年にバブル経済がはじけ、1990年代後半に入ると、若者をめぐる経済状況が悪化した」「近年は、結婚後の豊かな生活を期待するどころではない。『男性一人の収入では人並みに暮らしていくことさえもできない』状況が出現したのである」「つまり若者は、リッチな生活を営むために親にパラサイトするというよりも、パラサイトしなくては暮らしていけない状況に追い込まれたのである。親が政府に代わって若者の社会保障を行っているようなものである」。
少子化対策。
「意識面では、『男性のみが家族の収入の責任をもつべき』という意識を変える必要がある」「制度面では、実際に、女性が結婚して、子どもを産んでも、『無理なく』収入が得られる職に就けるという条件作りが必要である」。
しかし、問題は政府の少子化対策が「キャリアの女性を念頭に置いた対策であるという事実である」。
「問題は、男性以上に、女性の就労状況に格差が生じているということである。派遣社員やアルバイトとして働いている女性には、育児休業もなければ、復帰の見込みもない」「再就職をしようにも、企業に望まれるほどの能力や資格がない主婦は、よい条件での再就職は望めない」「非正規雇用の女性、つまり、スキルを蓄積できない女性ほど結婚しにくいのは、彼女たちが結果的に夫の収入に頼らざるを得ず、高収入の夫を待つより方法はないからである」。
「北欧諸国で少子化対策が成功したのは、低スキルの女性を介護や保育などの公的職場で雇用したからである」。
「専業主婦」はかつて「永久就職」先と言われた。そんな永久就職先がなくなったのが、今の出少子化問題の原因のようだ。解決は容易ではない。
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