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小林雅一著『スマートフォンのすすめ―手のひらのクラウドで未来を生きる』(ぱる出版)

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スマートフォンのすすめ―手のひらのクラウドで未来を生きる
 
 小林雅一著『スマートフォンのすすめ―手のひらのクラウドで未来を生きる』(ぱる出版)を読んだ。 
 スマートフォン、ソーシャルメディアの入門書は多く、この本もその類と思われそうだが、小林氏はただ、「何かをおすすめする本」は書かない。コンパクトな本ながら、スマートフォンの本質をしっかり解説している。

 このジャンルのバイブルとも言える小林氏の『モバイル・コンピューティング』(PHP研究所)を読んだ人は、その続編として、最新情報を入手できる。

 スマートフォンとケータイとはどこが違うのか。
 「まず利用できるインターネットが違います」「従来のケータイでは、いわゆる『公式サイト』や『勝手サイト』のような、携帯端末でしか使えない『亜種インターネット』につながっていました」「これに対しスマートフォンではみなさんが普段パソコンでご覧になる『本来のインターネット』を使うことができます」。

 「本来のインターネットと接続することにより、スマートフォンは一種の開放型システムとして、クラウド(サーバー)に蓄積された『外部の創造性』を取り入れることができます」。

 「『販売奨励金』と呼ばれる、事実上キャリアからメーカーへの開発補助金が廃止へと向かい始め、これにともない携帯電話の実勢価格はどんどん上昇していきました」「ユーザー(消費者)のほうでは、値段をそこまで引き上げられてまで、彼ら提供者側から無理やり多数の機能を押し付けられることに嫌気が差してきました。これとほぼ期を同じくして、ユーザーが自由に機能を変更できるスマートフォンが登場したので、それは消費者のニーズにぴたりとマッチしたのです」。

 「異なるユーザーによって、スマートフォン(モバイル・コンピュータ)はまったく違う端末に化けるのです」「スマートフォンはまた、一人の人間(ユーザー)の成長や変化に適応することもできます」。

 「スマートフォンの出荷台数は2011年に世界全体で4億台に達し、パソコンの出荷台数を抜き去ると見られています。つまり台数ベースでパソコンを超える主力製品になるわけですが、こうした市場環境の中でさえ、『スマートフォンで一体、何ができるのか?』という懐疑論も根強く残っているのです」。
 「パソコンにできてスマートフォンにできないことを指摘するのは、ちょうどサッカー選手に向かって『お前はなんで、そんなに野球が下手なんだ?』と非難するようなものです。本来そうではなく、それぞれに適した舞台や役割、使い方があるはずなのです」。

 「小さくて軽いスマートフォンは、『人が衣服のポケットに入れ、肌身離さず持ち運ぶ端末』です」「これによってコンピューティングの応用範囲は『室内におけるデスクワーク』から、この世界全体における『人間の諸活動を支援する情報処理』へと飛躍的に拡大します」。
 「従来のパソコンは基本的にキーボードとマウスで操作されました。しかし慌ただしく、ときに危険な屋外で使われることの多いスマートフォン(モバイル・コンピュータ)では、もっと手軽でスピーディな操作方法が求められています。アップルがアイフォーンに導入したタッチ操作は、そこへと向かう第一歩です」。

 「このタッチ操作に続くのが『音声操作(ヴォイス・コントロール)』です」。


 小林氏は、ケータイ、パソコンとの違いの解説から、さらにスマートフォンの本質に迫っていく。


 「スマートフォンは、音楽プレイヤーやゲーム機など複数の専用機を、中途半端にではなく、ほぼ完全なレベルで統合したものです」。
 
 「スマートフォン(さらにタブレットや電子ブック・リーダーなど)の正体は、私たちの目に見える姿(端末)ではなく、その背後に隠されたコンテンツ配信システムなのです」。

 
 小林氏は、スマートフォン隆盛の時代に、コンテンツ産業が低迷している問題にも目を向ける。
 「そもそも出版社や音楽レコード会社は、なぜここまで力を失ってしまったのでしょうか?その根本的な原因は、お金を集める手段を奪われたことにあります」「彼らは過去に、街の書店やレコード店のような『コンテンツをまとめて置いてくれるスペース(マーケット・プレイス)』と客からの『集金機能(課金機能)』をあわせ持つ場を押さえていました。しかし、インターネット上では、それを持ちません」「彼らはインターネット上では後ろ向きの姿勢に終始し、コンテンツのマーケット・プレイスと課金機能を持つ努力を怠ってきたために、これをアップルやアマゾンに奪われてしまったのです」。

 「では、どうしたらいいのでしょうか?」「その回答は、アップルやグーグル、アマゾンなどに対抗する勢力と組むことです」「そうした対抗勢力の筆頭は通信キャリアです」「コンテンツ産業が復活するには、彼らICT産業に集まっている富を、再びコンテンツ産業に還流する仕組みを作ればいいのです」「ここで成功の鍵を握るのが、HTML5と呼ばれる次世代ウェブ技術です」「キャリアは、各種コンテンツ・プロバイダーのHTML5サイトを集約したマーケット・プレイスを開設し、ここにユーザーを集める必要があります。これは、かつてキャリアが携帯電話向けに提供してきた公式サイトのマーケット・プレイスを、スマートフォンやタブレットに向けてHTML5で構築し直すことを意味します」。


 小林氏は四六時中持ち歩くスマートフォンと四六時中、情報発信するソーシャル・メディアは相性がいいとして、「スマートフォンとソーシャル・メディア」についても分析しているが、フェイスブックとツイッターの違いについての分析と、ソーシャル・メディアとプライバシー概念についての考察は「なるほど」と思った。

 「まったく見ず知らずの人とフェイスブックの中で関係を築くケースは稀です」。
 「自分の友人や知人、さらにセレブミニ・セレブの『つぶやき』を多数フォローしていると、無意識のうちに『世間の動向』や『社会全体の関心事』、あるいは『世論の形成過程』のようなものを感じ取ることができます。これがツイッターの最大の長所ではないでしょうか」。

 「ソーシャル・メディアのビジネス史は、ユーザーにどこまで個人情報を開示させるか、その境界線を押し広げる戦いの連続だったと言えるでしょう」「おそらく、それも影響してか、特に若い人たちの間でプライバシーの概念が希薄化しつつあると言われます。つまりソーシャル・メディア上に自らの個人情報を公開することに、抵抗感を持たないユーザーが増えているのです」。

 スマートフォンの仕事での利用の障害になっている、企業のセキュリティ・ガイドラインについての考え方も面白かった。
 「セキュリティ・ガイドラインを守っている限り、仮に情報漏えいが起きても、社員が責任を問われることはないし、企業の責任もある程度まで免除されます。となれば、逆に社員のほうでは『本気で情報を守ろう』という意識は薄れ、情報を守るために本来必要な取り組みや、実践的な工夫はおろそかにされてしまいます。また、セキュリティ基準が定める機械的な利用制限が、企業の生産性を著しく低下させることは、改めて言うまでもありません」。

 スマートフォンという端末が、それだけではなく、クラウド、ソーシャル・メディアなどと有機的に結びついて、新しいITの世界を築きつつある現状がよく分かった。

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