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佐藤尚之著『明日のコミュニケーション~「関与する生活者」に愛される方法』 (アスキー新書)

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明日のコミュニケーション

 佐藤尚之著『明日のコミュニケーション~「関与する生活者」に愛される方法』 (アスキー新書、2011年10月11日初版発行)を読んだ。
  
 帯を見ると、「『明日の広告』の待望の第2弾」という。
 『明日の広告』は名著だ。大好きな一冊だ。
 
 今回は、ソーシャルメディアについて論じているという。

 ソーシャルメディアのうち、Twitterについては、正直言って、良く分からない。本を出したり、テレビに出るような著名人は良いフォロワーが数多く付くので、コミュニケーションメディアとして成立すると思う。しかし、ほとんどフォロワーが付かないTwitterや、フォロワーが付いても、知らない人ばかりで、コミュニケーションがほとんど成立しない、というような場合は、「何の役に立つの?」というのが実感だ。
 Facebookについては基本的に、ネット上だけでなく現実社会で付き合いのある(あった)人たちと友達になるのが一般的なので、良い友達がいれば、とても面白いメディアになると思う。だが、Facebookも「何が面白いの?」という人は多いと思う。ネットを楽しむ友達が少ない世代の人はまったく面白くないのではないだろうか。

 それだけに、佐藤尚之(さとなお)氏が書いたものといえども、もしかしたら、あまり説得力はないかもしれない、とやや疑って読んだ。

 しかし…。
 さすがにコミュニケーション・ディレクターと名乗るだけのさとなお氏。とても説得力があった。
 面白かった!
 ソーシャルメディアの現時点での限界も示しながら、その可能性を語ってくれる。

 ソーシャルメディアと言われて眉に唾する人たちにはぜひ、読ませたい本である。

 
 
 第1章 「関与する生活者」がつながった
 「エジプト革命から約2ヶ月との2011年3月11日14時46分。東日本大震災が起きた。…震災直後からものすごい量のコメントがツイッター上やフェイスブック上で流れ続けていた。『何かしなければ』という焦り、『何か自分にもできることはないか』という熱意、実際のアイデア、すぐやろう!という賛同、そして数多くの当事者意識と共感が溢れかえっていた」「そして、震災翌々日には3つのプロジェクトが立ち上がっていった」。

 その一つが「助け合いジャパン」プロジェクトだ。「『民間サイトに政府が情報を提供する』といういままでにないプロジェクト」だ。

 さとなお氏は言う。
 「その時点でボクは16年間、個人サイトをやっていた。そのサイト『www.さとなお.com』はトップページで累計4000万以上のアクセスがあり、…それなりにアルファブロガー(影響力のあるブロガー)的だったと思う」「だからこそ言うが、この東日本大震災直後のようなアクションの連なりとうねりは、ソーシャルメディア以前の『ブログ時代』にはありえなかったことだと思う」。

 「ソーシャルメディアは『関与したかったけどいままで関与する手段を持たなかった人たち』や『深く関与したいわけではないけどちょっとだけ関与したい人たち』をも結びつけ、彼らが動くプラットフォームとしても機能したのである」。
 
 さとなお氏は哲学者の鷲田清一氏が「リスポンシビリティとは、直訳すれば、リスポンドできるということ、つまり、他者からの求め、訴えに応じる用意があるということである」という言葉を引用。「いままで関与が薄かった人たち、控えめだった人たちが大挙して動き出した裏に、この、日本語にしにくい『リスポンシビリティ』があったのではないだろうか」と考える。

 さとなお氏は、マスメディア全盛時代~ネット時代到来~ブログ時代と、情報の伝わり方が変わってきたことを説明する。
 「ネットの普及に伴い、世の中に流れる情報も格段に増加した」「たとえば、人間が消化できる情報量はほとんど変わらないのに、世の中に流れている情報量は1995年から2006年の12年で637倍も増えていったのである」「とてもじゃないけど全部は受け取っていられない。受け取っていたらノイローゼになる。だから生活者はそのほとんどをスルーするようになった。一方的に情報を押しつけてくる広告など、スルーされる最たるものになったのである」「情報それ自体はもう喜ばれるものではなくなったのだ」。

 「ブログ時代」には影響力のある個人が出てきたが、彼らはバラバラに点在していた。
 
 「バラバラに動いていた影響力のある個人がソーシャルメディア時代」なのである。
 「ソーシャルメディア時代になってから知り合った友人は…問題意識や当事者意識をもってソーシャルメディア上を動きまわっており、一度つながると日々いろいろな会話ややりとりがリアルタイムで起こる」「影響力ある個人だけでなく、関与したかったけどいままで関与する方法を持たなかった人、そして深く関与はできないけどちょっとだけ関与したい人も一気につながった」。

 そして、アクティブな関与層はソーシャルメディアを飛び出して、リアルな世界でもクチコミを広める。

 関与の度合いにはいろいろあるが、さまざまな関与者がソーシャルメディアのプレーヤーであることが、まず、分かった。

 第2章 ハイパークチコミの誕生
 「ブログ時代には単なる読み手だった人が、RTやいいね!やシェアやイイネ!で発信者になった」ことがショーシャルメディア時代だ。
 「1995年くらいからだろうか。…お茶の間が崩壊し始めた」「その結果、個別プラットフォーム時代になった」「ネット上を中心に同じ趣味や考え方を持つ同士のつながりができるようになった」「つながりは互いに交わることはなく、個別に孤立していた」。

 しかし、ソーシャルメディア時代になると、「個別プラットフォームの時代にバラバラだったつながりが、ソーシャルグラフによって勝手につながってくれたのである」「情報が、広まる価値や共感を持っていさえすれば、結果的に360度、あらゆる方向に情報がぶわーっと大波のように拡散していくのである」。

 
 第3章 ソーシャルメディアの勘所
 「情報が広まるには条件がいる。それは、その情報が『共感』を纏っているかどうか、である」。
 そして、「自分と感性や共感が近いタイプの人たちのフィルターを次々に通って生き残った『共感できる情報』」が届くようになる。「あなたに有益である可能性がとても高い情報」だ。
 「いままで我々は新しい情報にマスメディアで出会っていた。…それが変わる。ソーシャルメディア上で受動的に自分に有益である可能性が高い情報に出会い、それを友人に聞いたり、テレビや新聞を見たり、ネットで検索したりして確認するようになるのである」。
 
 「いいね!やイイネ!は実はコミュニケーション上でのプチ意識革命をもたらすのではないかとボクはひそかに思っている」「このことは発信のハードルを下げ、受信者に『情報を肯定するクセ』をつける。発言する怖さがへるだけでなくみんなが発信しやすくなるわけだ。そして情報が伝わるスピードと量を圧倒的に増やしていく」。


 第4章 ソーシャルメディア上で関与する生活者はどう動くか
 関与する生活者がソーシャルメディア上でどういう行動をとるか。
 共感する:Sympathize
 確認する:Identify
 参加する:Participate
 共有&拡散する:Share&Spread
 それぞれ頭文字をとって「SIPS」である。

 「SIPSという行動をとる生活者が現れたとはいえ、AIDMAという行動をとる生活者もまだいるし、AISASという行動をとる生活者もまだいるのである」。

 A:Attention(注意)→I:Interest(興味)→D:Desire(要求)→M:Memory(記憶)→A:Action(購入)
 A:Attention(注意)→I:Interest(興味)→S:Search(検索)→A:Action(購入)→S:Share(共有)

 第5章 関与する生活者に愛される方法
 「白鳥蘆花に入る」「真っ白な鳥が、真っ白な蘆原の中に舞い込む。すると、その姿は見えなくなる。しかし、その羽風のために、今まで眠っていた蘆原が一面にそよぎ出す」「ほとんど目立たないけれど、人のつながりの中で確実にある役割を果たし、貢献し、いい影響を与えていく。でも本人はそれを意識していない」。


 さとなお氏は「ソーシャルメディアは一時の流行ではない」と言い切る。
 次のような流れがあるからだ。
 「情報それ自体はもう価値を持たない。そのうえ世の中は成熟市場。商品は成熟し、差別化できなくなって、似たような商品が市場に溢れるようになった」「こういう中、生活者の中に『信頼できる情報や自分にぴったりの商品に短時間で辿り着きたい』というニーズが生まれていったのである」
 「東日本大震災が起こった。経済成長ばかりを考え、利己的になりつつあった日本人は、ここで久しぶりに『絆』とか『つながり』とか『助けあい』を思い出し、その大切さを再認識していった」。

 この本は広告理論の手法を使って、ソーシャルメディアを分析しているが、単なる広告を超えたコミュニケーションを論じる一冊であった。
 そう考えると、たとえば、ソーシャルメディアにはほとんど参加していないが、最も社会とのつながりを必要としている高齢者をどうソーシャルメディアは扱っていくのか、というような重要な問題も残されている気がする。
 ITとシニア。最近関心の強いこのテーマの入り口にもなる本かもしれない。

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