田部井淳子著『いつでも山を―田部井淳子の実践エイジング登山』(小学館)
田部井淳子著『いつでも山を―田部井淳子の実践エイジング登山』(小学館、2008年6月21日発行)を読んだ。
1975年、世界最高峰エベレスト(8848m)に女性として初登頂。
1992年、女性世界初の七大陸最高峰登頂者に。
こんなすごい方なのだが、この本では、素朴に、近くの山々に登る楽しみを教えてくれる。
「山は1回1回、新しい発見に満ちて、行くと全身の細胞がわあーっとめざめます。青々と続く山並み、新緑をゆらす風、沢筋の白い雪、雲上のお花畑、谷間に響くウグイスの声……大自然のかけらが射るように五感にせまり、飽きることがありません」。
「遠目にすごくけわしく見える山でも、行ってみるとさほど難しくないことが多いのです。写真や映像を見て『すごい、夢みたい』と思うようなところも、普通の人が普通に歩いて行けば、たどり着けるものなんですよ」「山はむしろ万人向けのスポーツだと思います。競争じゃないし、特別な才能も要りません。ピアノをひいたり作曲したりするのと比べたら、歩ければいいのですから、ものすごく間口が広いんです。年齢だって関係ありません。歩いて買い物に行ければ、60歳からでも70歳からでも始められます」
「『山は公園の延長』と思えば、ぐっと身近に感じられるのではないでしょうか」。
「山は頂上だけじゃなく中腹も麓も山」。
「『でも』『でも』と山に行けない理由を見つけている方を見ると、本当はそんなに行きたくないのかな、と思うことがあります。要は、行きたいか、行きたくないかというだけのこと。行ってみたいと思ったら行くのよ、行けるのよ。山はそういう世界だと思うんです」。
「山ではいちばん遅い人に合わせるのが常識なんです」。
「歩き始めは身体が慣れていないし、疲れていないので、つい早足になりがちです。ですから、意識的にペースを遅くする必要があります」。
「中高年の山歩きは楽でなきゃいけません」「その決め手は、ゆっくり歩くことに尽きるのです」。
「事故を防ぐためには単独でないほうがいいと思います」「誰かと一緒のほうが、ずっとリラックスできます」「歩いているときは、…しゃべらなくてもいいから、結構、孤独になれるのです。そういうときは、いろいろなことを考えたり、思いついたりしています」。
「自然の中にいることで気持ちが大きくなると思います」「日常から離れることで、ふだんの暮らしのありがたさが感じられるという面もあるでしょう」。
「雨だからこそ、雪だからこそ、味わえる山歩きというものがあります。頭から否定しないで手だてを考えると、楽しみの幅がぐっと広がります」。
「30分ごとに休憩を入れることをおすすめします」。
「効果的なのがストック。ひざへの衝撃をやわらげるとともにバランスを保つ支点にもなります」。
「わたしはよく、『どうせ払うお金なら、病院に払わず、山に使いましょう』とお話するのですが、『どうせやるトレーニングなら、寝たきり予防ではなく、山に行くためにしましょうよ』とも言いたいですね」。
「山は、日常と非日常を分ける切り替えスイッチのような役目をして、暮らしに元気を与えてくれます」。
「自分に合った山を見つけ、続けていくことが大事だと思います。苦しいからやめるのではなく、苦しくないほうにシフトしていけばいいのです。それを上手にやっていけば、山登りは一生、楽しめます」。
読んでいると、山に行きたくなる。
中高年で山歩きをこれから楽しみたいと思っている人は必読だ。
すでに山に親しんでいる人でも、「いつでも山に行くための特別講座」がとて役に立つ。「タベイ式いつでも筋肉トレーニング」「日帰りハイキングの服装」「山の持ち物リスト」「とっておきの携帯食レシピ」「エイジング登山ガイド10」などがある。
「第五章 登山は人生の縮図」は、『タベイさん、頂上だよ』(ヤマケイ文庫)と一緒に読むと面白い。
「エベレスト登山の許可が下りるのが20代だったら、わたしは行けなかったと思います。国内での山の経験を積んで気力も体力も技術力も備わってきた35歳のときに許可が下りたことはラッキーでした」。
「毎日、人にもまれながら問題を解決していく遠征登山は、まさに社会の縮図」「そこで身につけたのは、悪いことは忘れて、いいことだけを覚えるようにするという習性です」「波長が合わない人がいたとしても『あの人とは合わない』と思うと疲れるので、いいところだけを見るようにする。人のいいところだけを見て、いい言葉だけを残して、いい思い出だけをとっておいて、いい風景を忘れない」。
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