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村田裕之著『シニアビジネス―「多様性市場」で成功する10の鉄則』(ダイヤモンド社)

Sinior_business
シニアビジネス

 村田裕之著『シニアビジネス―「多様性市場」で成功する10の鉄則』(ダイヤモンド社、2004年5月27日発行)を読んだ。8年前の本だが、読んでみると、その分析、主張は、少しも古びていない。書店で見つからずAmazonで買った。

 まず村田氏は「シニア世代の消費行動は、非常に『多様』であり、シニア市場とは、きわめて『多様性の強い市場』である」ことを指摘する。「この『多様性市場(diverse market)への適応力』をもつことが、シニアビジネス成功の要諦なのである」。

 そして、「シニア・団塊世代の、このような多様な消費行動は、実は今後さらに多様化していく」と予想する。
 「一つは、『経済の成熟化』だ」「モノ余りの時代は、商品の選択肢が多いため、買い手の消費行動も多様になる」。
 「さらに、この消費行動の多様化を促すのが『市場の情報化』である」「買い手が情報機器を使いこなすことで情報収集力が飛躍的に高まる。情報収集力が高まると、自分の求める商品やサービスに関する選択肢が多くなる」。

 「『シニア市場』『団塊市場』という画一のマス・マーケットは存在しない。だから、旧来型のマス・マーケティング的なやり方だと苦戦するのである」。
 「その市場の中身は、高度成長期に見られたような画一のマス・マーケットとはまったく異なる『多様なミクロ市場の集合体』と考えるべきである」。

 この多様な市場に対応する際の手本になるのがアメリカのシニア市場だと言う。
 「日本の特徴は、1980年以降急速に高齢化が進んでいることだ。急速に高齢化が進んだため、急増する需要にインフラ、商品・サービスが追いついていないのが現状だ」「これに比べアメリカは、高齢化のスピードがゆるやかである。このため、たとえばシニア向けの住宅に関しては、1960年代からの蓄積があり、日本よりもかなり進んでいる」。
 「日米双方の経済ファンダメンタルズや経済トレンドには共通点が多い。これを反映してか、シニアのニーズにも共通点がかなり多いのである」。
 「日本人の生活水準がアメリカ人と似ていることと、年金財政が逼迫し、医療費の負担が増加することで、今後は福祉の実態がアメリカ型に近づいていくことを考慮すると、アメリカの事例というのは、日本の近未来市場を映し出す『鏡』と見なすことができる」。

 その後各章で、アメリカでの事例を示しながら、シニアビジネスに取り組む際に必要な様々な切り口を紹介する。
 第一章 「不」の発見者
 「飽和市場には、必ず新たな『不(不安・不満・不便)』が出現する」。
 「日々の営業活動やサービス提供の過程で得られる顧客からのクレーム、不満の声を、単なる顧客のわがままだと思うのか、それとも新しい事業機会だと思うのか。その解釈の仕方が、新しい市場をつくり出せるかどうかの分かれ目になるのである」。

 第二章 商品シーズ編集者
 「小売業は、顧客ニーズに合わせた『商品シーズ編集者』に進化しなければならない。この『商品シーズ編集者』には、①顧客の潜在需要に『共感』するテーマ選定力をもち、②高度な顧客相談対応力をもち、③商品の豊富な選択肢と品揃えを徹底することが求められる」。

 第三章 エイジング・スタイリスト
 「昔に比べ、平均寿命が延びただけでなく、自分を高齢者だと思わない、つまり高齢者意識の薄い『高年齢者』が増えている」「商品提供者は、加齢に伴う不便さを上品なスタイルで解決する智恵をもつ『エイジング・スタイリスト』にならなければならない。そして、この『エイジング・スタイリスト』には『年長者配慮型のマーチャンダイジング』を実践できる力量が求められる」。

 第四章 出張駈込み寺
 「求められているのは、『DIYショップ』ではなく『DIY代行サービス』なのである」『顧客にリピーターになってもらうにはどうすればよいか。最も理想的なのは、顧客に何かニーズが発生した時に、真っ先に相談される関係となること、つまり、顧客に対して心理的に最も近く信頼される『駈込み寺』のポジションになることだ」「これからは『駈込み寺』に駆け込むことができない人が増えていく。だから駈込み寺の機能をもつ人が自宅に出向く『出張駈込み寺』が求められるのである」。

 第五章 プライベート・コンシェルジュ
 「今後さらなる高齢化の進展により、介護が不要でも、自宅で何らかの生活支援を求める年長者は確実に増えていく。そのような人たちが求めるサービスの中身は、介護関連から生活不便解消へ、そして生活を楽しむためのものへと変わっていくだろう」「そのような時代に求められるのは、ごく限られた富裕層だけが対象ではない大衆化された『プライベート・コンシェルジュ』である」。

 第六章 第三の場所
 「単に物理的な場所を確保するだけが目的なら、必要な出費をすればよい。だが、問題の本質はこれまで長い時間過ごしてきた第二の場所である職場がもっていた有形・無形の価値に置き換わる新たな『場』が、受け皿として未整備な点である」。

 第七章 知的合宿体験
 「『知的合宿体験』を生涯学習のプログラムの中に組み込むことで、従来の一方通行方の座学とは異なる、知的刺激にあふれたプログラムとすることができる」。

 第八章 ナレッジ・ネットワーカー
 「旧来型の会社組織ではなく、あくまで自分のやりたいことを、自分サイズの仕事にして、収入を得るスタイルを維持するミニ企業『ナノコーポ(nanocorp)』が増えている」。
 「営業力が弱いナノコーポにとって楽な選択は、特定企業を旦那にすることである。だが、この道を選んだ人には、会社は立ち上げたものの、旦那企業の体のよい『下請け』に甘んじている例が多い」。
 「ナノコーポの営業支援がうまくいく最大の秘訣は、ナノコーポに関する深い背景知識をもつことであった。その背景知識とは、たとえば、ハイテク企業の広告というような特定業界・分野の専門家に関する暗黙知であった」「このような暗黙知をもつ人材は誰か。それは、特定分野でプロフェッショナルとしての経験を積み、職人的な智恵をもつシニアである。だから、このような智恵をもつシニアに『ナレッジ・ネットワーカー』の担い手になってもらうのがいちばんよい」。
 
 第九章 知縁
 「リタイア・コミュニティにおけるゴルフコースや温暖な気候は、もはや退職者にとって優先順位が低い。代わりに、よい隣人関係や知的刺激のある環境が優先順位の上位に挙げられている」。
 「日本の大学は、いま、大きな岐路を迎えている。少子化で生徒が減少し、質の高い学生の獲得競争は、年々激しくなっている。一方、独立行政法人化の動きで、市場原理を導入した合理的な経営を取り入れざるを得なくなっている」「カレッジリンク型シニア住宅は、このような少子化・高齢化・大学経営の合理化という時代の流れに合致しており、多くの関係者に有形無形の利益を生み出すものである」。

 第十章 ゆるやかな大家族
 「高齢の親世帯と子供世帯とが近居することで、同居はしないが親、子、孫の三世代が行動する機会が増える『ゆるやかな大家族』が都市部に増えている」「『ゆるやかな大家族』では、同居せずに互いに一定の距離を置いていることで、むしろコミュニケーション密度が高くなる」。
 「助縁型コミュニティが出現した背景は、居住者が公的施設のように管理されず、有料老人ホームのように高額でなく、シルバーマンション・戸建住宅のように孤立しない生活を望んでいるにもかかわらず、そのような居住形態を提供するサービスが存在しなかったことだ」。

 シニアビジネスの大きな可能性を感じさせてくれる一冊だった。

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