津田大介著『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)
津田大介著『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書、2012年11月30日発行)を読んだ。
要点を引用しよう。
津田氏の問題意識は「はじめに」に分かりやすく書かれている。
「国会議員を決める選挙には70歳を超える人々の80パーセント近くが行っているにもかかわらず、20代で選挙に参加しているのはここ10年近く、40パーセントを切っている(さすがに政権交代が起きた2009年の第45回総選挙は、20代の投票率は49.45パーセントと例年より高かったが)」。
「政治家たちが権力闘争とパワーゲームに明け暮れる、現在の政局中心の日本政治が続く限り、政治と若者の距離は離れる一方だろう」。
「まずやらなければならないのは『わかりにくくなってしまった』政治を解きほぐすことだ」。
「本書は、筆者が何より重要であると考える政策にフォーカスを置き、インターネットのような新しい情報技術を政策決定過程の透明化や、決定過程にどれだけ関与させることができるのか考察していく」。
第1章 政治的無関心は何を引き起こすのか
まず津田氏の「筆者は現在、政策にフォーカスし、政治と行政をウォッチするネットメディアを立ち上げようと準備を進めている」構想が明らかにされる。
政治や政策に無関心でいるとどうなるのか。
「自分の好きなものがいつか誰かの勝手な都合で変容させられてしまう」。
「特定業界のロビーイングによって、多くの利害関係者が蚊帳の外状態となり、不透明な形で法律があらぬ方向に変わる。
「政策の議論、もっと言えば『選挙制度や民主主義はどうあるべきか』という国民的な議論は、どこで行われるべきか」「民主党・岸本周平議員は、『街頭演説や小さな集会では不十分。インターネットで意見を集約して、その議論を国会に持ち込む必要がある』と語る」。
「これまで、政策に関する議論がオープンにされてこなかった理由について、岸本議員は『結論ありきで、官僚がそこに政策を落とし込むためのプロセスにすぎなかったため、できればオープンにしたくなかったのだろう』と分析する。インターネット上で否応なく、議事録や各種のデータが公開されるようになれば、その状況も変わっていくはずだ」。
第2章 ウェブでつくる新時代のデモ
「2012年6月22日、首相官邸前で関西電力大飯原発の再稼働撤回を求める抗議運動が起こった。主催者によると約4万5000人(警視庁によると1万1000人)が参加し、歩道を埋め尽くした」「6月22日の官邸前のデモはマスメディアにとっても大きな『事件』だった。というのも、数を少なく発表することが常の警察発表で『1万人』を超したからである」
「その翌週6月29日の官邸前デモは、主催者発表で前回の約4万5000人を大きく上回る15万~18万人(警視庁調べで約1万7000人)を集め、ネットを中心としたでも活動の大きな転換点となった」。
「マスメディアによる情報がデモを訪れるきっかけとなった割合は1~2割程度。それに対し、ネットや口コミによってデモに参加した割合は7~8割にも及んだ」「ソーシャルメディアが起こした現時点における最も大きな変化とは何か。それは、人々の意識が共感によってつながり、つながった人々が行動することによって大きなムーブメントを起こせるということだ」。
「リアルで声を上げることだけがデモの本質ではない」「ソーシャルメディア自体がデモの効果をもたらす――サイバーでもが起きる場合がある」。
「思想家の東浩紀(あずま・ひろき)は著書『一般意思2.0』(講談社、2011年)で、大衆の『無意識』を可視化し、政治家や審議会といった専門家の熟議の場に介入させることの重要性を説いている」。
「東は、インターネットなどを通じた大衆のバラバラな『意見(無意識的意識)』を、そのまま政策に反映するのではなく、情報技術を駆使することで政治家や官僚が『暴走』しないためのリミッターとして利用すること――『無意識民主主義』を提案している」。
「原発への忌避感という大衆の無意識が共感を呼び、官邸前に集まるという形で可視化され、それが現に原発の再稼働を推し進めたい政治家や官僚に対する一定のリミッターになっている。これこそ東の考える『無意識民主主義』の具現化だ。
「一方で、社会運動が実質的にリミッターとしての効果をもたらしても、それがなかなか可視化されないことによる弊害を指摘する声もある」。
「『一般意志2.0』がリミッターとして機能するためには、運動の継続が大前提になる。しかし、リミッターとして機能している状態では、運動に携わる人間たちは達成感を得られない。彼らのモチベーションが上がらなければ、いずれ運動はしぼんでいってしまう。
「リミッターとして機能させつつ、運動に携わる人間たちに達成感も与える。湯浅(社会運動家で、反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠)は、そのために必要な要素は『調整の共有』であると指摘した」「調整とはまさに『熟議』の一種だ。ソーシャルメディアを通じてどう『熟議』を組み込んでいくのかを考えることが、運動論としての『一般意志2.0』における今後最も大きな課題と言えるのかもしれない」。
第3章 ソーシャルメディア+マスメディア=?
「日本でも今、マスメディアによるソーシャルメディア利用が過渡期となりつつある。2012年1月23日、朝日新聞の記者が実名でツイッターを始め、一部で話題になった」「さらに2012年4月からNHK総合でリアルタイムに視聴者から寄せられるツイートを画面に表示し、出演者に疑問として投げかける新しい形式のニュース番組『NEWS WEB 24』がスタートした」「実名記者による『デスクチェックを経ないツイート』を新聞社が認め、リアルタイムで寄せられた番組への批判的な声を画面に表示する報道番組が登場した2012年春は、後から振り返ったときに、日本のメディア史における大きな転換点になるはずだ」。
「日本人は『信頼する情報のみを流すべきだ』という、旧来のマスメディアに求められていた価値観を、インターネットにもそのまま持ち込んでいるようだ」「情報の正確性を検証することは、言うまでもなく重要だ。しかし、過度な無謬主義は一方で、ソーシャルメディアの果たすべき機能を制限することになり得る」。
第4章 ネット世論を考える
「現状の参議院全国比例区では、1議席を獲得するのに必要な政党票+個人票の獲得数は110万票前後と言われている」「つまり、一から政党をつくって参議院の全国比例区で議席を取りたい場合、最低でも120万票程度を獲得しなければならない」。
「ネットだけで120万票取るというのは、現状では相当難しい」「今後ネット選挙が解禁され、投票前にニコニコ生放送やユーストリームといったネットメディアを駆使し、選挙特番で議員候補が存在感を示すことができれば、『投票行動が変動的』な若者視聴者の直後の投票行動に影響を与えることは十分に考えられる」。
「気になるポイントとしては、政策(マニフェスト)ベースで投票行動をする浮動票の存在だ」「公示期間中、候補者個人の選挙活動は制限されたが、各メディアのサイトやネットのポータルサイトでは、有権者個人に選挙の争点となっている問題について複数の質問を投げかけることで、自分の政治志向と各党のマニフェストの合致具合を調べて、どこの政党に投票すべきかを示してくれる、いわゆる『ボートマッチ』が人気を集めた」。
「ここ数年、われわれはソーシャルメディアを通じて、自分たちの生活に直結する問題について『一体何をしているんだ!』と政治家たちの尻を叩くことができるようになった。これは『ネットと政治』の関係を考える上で、ソーシャルメディアがわれわれにもたらした最大の恩恵かもしれない」「現状のネット世論にできることは、人々の投票行動を変え、政権を変えるという『大きな』ことではなく、現在進行形である特定の政策問題に対し、政治家たちの尻を叩くことで強引に『議論のテーブル』をつくることではないか」「東浩紀の『一般意志2.0』風に言えば、『いままでの高級な政治参加とは別の、激安の機能制限版普及型政治参加パッケージ』がソーシャルメディア上に生まれつつあるのだ。だからこそ、その仕組みをブラッシュアップしていくことで、『ネット世論』の影響力は向上させなければならない」「社会が変わるためには、こうした政策決定のプロセスをネットに公開し、それが実際の票を動かすような仕組みをつくるのが何よりの近道だ」。
第5章 ネット選挙にみる次世代の民主主義
「ツイッターを生み出し、ネット選挙の先進国でもある米国では、2012年10月3日に行われた、民主党のオバマ大統領と共和党のロムニー候補による第1回テレビ討論会でツイッターが大活躍した」「興味深いのは、今回の討論会で『ファクトチェック』と呼ばれるメディア系のアカウントが活躍したことだ。メディアや市民団体の専門家などの複数のアカウントが、両候補が討論中に示した数字や主張の根拠についてネットで即座に調べてツイートし、テレビと一緒にツイッターを見ている人に討論を考える材料を提供していった」。
「ソーシャルメディアをうまく活用することで、お金のかからない選挙活動が可能になれば、有権者にアピールする機会の寡占状態は緩和され、理念的にはよりフェアな選挙が実現される」。
「歩みは遅いものの、行政情報のオープン化が進み、インターネット上でさまざまな情報が共有されるようになっている。これを分かりやすい形で整理し、国民に届けることで、一定数の国民は政治に興味を持ち、政策ベースで候補者を選びたいと考えるようになるはずだ」。
「必要なのは、選挙に依存することなく、議員や官僚に対して「洗練された民意」を直接届けていくための仕組みだ」。
第6章 政治家のソーシャルメディア利用術
「『ソーシャルメディアと政治』という点で最初に注目されたのは、2008年の米国大統領選挙だ。バラク・オバマはインターネット――とりわけソーシャルメディアを最大限活用することで、多くの個人献金を集め、圧倒的に不利な状況から大統領当選を果たした初めての候補である」。
第7章 ソーシャルメディアリテラシー
「橋下徹日本維新の会代表は、マスメディアから自分に対して何かネガティブな報道があると、その一つひとつを名指しで取り上げ、ツイッターで細かく反論する」。
第8章 きみが政治を動かす
「多くの関係者に向けて意見を投げかけ、それに対する反応を政治家にフィードバックすることで現実を変えていかなければならない」「ソーシャルメディアは今後、地域に共有されている問題意識や新たな政策アイデアを汲み上げるツールとして大きな役割を果たすだろう」。
終章 ガバメント2.0が実現する社会へ
「政策に関連する情報が可能な限りオープンになり、米大統領選の候補者テレビ討論で行われたような外部の専門家による政策情報に対するリアルタイムなファクトチェックが機能し、国民は政治家や官僚が暴走しないためのリミッターとしての機能を果たす――これこそが、筆者の考える理想的な政策環境だ」。
「英国に行政府が公開するデータと情報技術を組み合わせることで、市民が具体的に行政に対して『対案』を示すことができるユニークなウェブサイトが存在する。『You Choose』と呼ばれるこのサービス、もともとはロンドンのレッドブリッジ特別区がつくったものだ」。
「オープンガバメントが実現すれば、市民が政治、行政に関心を持ち、政策決定のプロセスにコミットすることにもつながる」「キーワードは、『GOV(ガバメント)2.0』。これは「ウェブ2.0」を提唱した米メディア企業・オライリーメディアの創設者、ティム・オライリーによって生み出された概念で、『政府はユーザーの要求に応じてサービスを提供するプラットフォームであり、IT技術を利用して政府の持つデータをオープンにし、ソーシャルメディアが持つインタラクティブ性を政策決定に生かせる仕組みをつくるべきだ』とする考え方だ」。
「政治家や官僚の意識が変わり、市民に対する情報公開が積極的に進められることで、われわれ市民の意識も変わっていく。オープンガバメントとは、『政策中心の政治』を実現するための重要なカギであり、われわれが『ウェブで政治を動かす』ための、最強の武器でもあるのだ」。
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