葉石かおり著『じじいリテラシー』(星海社新書)
葉石かおり著『じじいリテラシー』(星海社新書、2012年2月23日発行)を読んだ。 中高年世代と若者世代のコミュニケーションギャップは大きい。しかし、組織では中高年にかわいがられなければ、いい仕事にはありつけない。そこで中高年、若者から見れば「じじい」の攻略法を学びましょう、というのがこの本だ。
はじめに 20代のための、上司にかわいがられる技術
会社に生息するじじいたちを
・オレオレじじい
・うんちくじじい
・肉食じじい
・茶坊主じじい
・9時5時じじい
・耕作じじい
の6タイプに分類。
「タイプごとのじじいに合った実践的かつ効果的な転がし方、いえ、リテラシーを網羅しています」。
「本書を読み進めるうちに、憎いと思っていたじじいに愛おしささえ覚えていくことでしょう。実はこの『愛』こそが、じじいリテラシーに欠かせないファクターなのです」。
第一章 「オレオレじじい」リテラシー
「話のほとんどは自慢話で、主語は常に『オレ』」。
「大きな世界ではなく、小さな世界に君臨することを望んでいますので、華を持たせてあげるように心がければ、扱い方は非常に簡単です」。
完全にじじいを馬鹿にしている本かと思いきや、さすが「リテラシー」というだけあって、きちんとそのじじいのいいところも分析し、攻め方を指南する。
「一見、どうしようもないようなことばかりを自慢しているように見えるじじいですが、実は、キチンと仕事のうえで有利になる自慢をしていたりもするのです」「その証拠として、自慢上手なじじいには必ずと言っていいほどそれなりの役職がついています。大勢いる職場でそれなりの役職が欲しいと思ったら、他の人より抜きん出なくてはなりません」「そこで必要なのが、自慢というアピールです」。
「雑談をしながら巧みに自慢を紛れ込ませ」る方法などを実例を挙げて解説している。
じじいの褒め方も具体的。「人の口を介して褒める」テクニックをすすめる。
「オレオレじじいには『話をどこまでも広げて収拾がつかない』という恐ろしい必殺ワザがあり、これをどういなすかによって仕事の効率が変わると言ってもいいでしょう」。そのワザが「キャッチ&クイックリターン法」。
「相手の話をまず受け止め、すぐに話を本題に戻すテクニック」だ。
そして、こうしたじじいを攻略するのに有効なのが「酒場活動」で、そのノウハウも示すが、「ここまでしつこく『じじいと飲め』と言っても『じじいと飲むなんて時間のムダ』と頑なに拒否する人がいます」「こういうタイプの多くは、年上のじじいに敬意を払うことは一切なく、あいさつも申し訳程度。すべてにおいて『自分のほうがじじいいより上』と思い込んでいます」「血気盛んで向上心がある若い世代にありがちですが、経験豊富なじじい世代からしてみると、ただの『勘違い野郎』にしか見えません」。
このあたりから想定読者に切り込むワザを見せる葉石さん。実はこれは若者の教育の本か?
「こうしたタイプの特徴は、常に『オレはこんなに小さな会社におさまりきるような人間じゃない』と思い、根拠、才能、経験もないのにビッグになることを夢見ていることです」「一見、『オレ好き』のオレオレじじい同類のように見えますが、大きな違いは『協調性』が皆無だということ」「一方のオレオレじじいは目には見えにくくとも、協調性を非常に大事にしています」。
「会社という枠のなかで自分のやりたいことをしたいと思うなら、まずは上司であるじじいありきです」。
第二章 「うんちくじじい」リテラシー
「仕事は大してできないくせに、『へ~』と感心する雑学にだけはめっぽう強いじじいです」。
「『すご~い、そんなこと知りませんでした!』という驚嘆が混じった言葉がなによりの好物の、にくめないじじいです」。
うんちくじじいと付き合うために必要なのが、「『8の共感・2の質問』による、うんちくを流すテクニック」だ。
質問には「私」という主語をつける。「質問を投げかける歳は、『それって私はこう思うんですけれど、間違ってますか?』『私はこう感じたんですが、本当のところはどうなんでしょう?』という具合に、自分を主とした形で質問してあげると、安堵して気持ちよく話してくれる」。
葉石さんは「昨今の若い世代には、…うんちくによるコミュニケーションを強くおすすめします」「ちょっとしたうんちくさえ知っていれば、話のきっかけなんていくらでもつかめますし、スムーズな会話も夢ではありません」。
「ものは考えよう、うんちくじじいは使いようなのです」。
第三章 「肉食じじい」リテラシー
「日々迫りくる自分の老いを認めず、やたら若さに執着します」「自他共に認める女好きで、男に厳しく女に優しい」。
「基本的にはおもしろがりの楽天家なので、味方につけると素晴らしい援護射撃をしてくれます」。
「昨今、不況が長引いているせいか、こうした元気なじじいは絶滅危惧種に認定されつつありますが、バブル時代にはどの会社にもいたものです」。
「肉食じじいにとって、女房役にならない男性部下は鬱陶しいだけなのです」「じじいが職場でいちばん求めているのもまた、整理整頓能力なのです」「じじいが思いつきで言った言葉を拾い集めて整理し、見目の良い企画書を作って渡してあげれば、喜ぶこと間違いなしです」。
「肉食じじいの出世欲は入社した当時のまま」「ですので、出世の邪魔になる男性部下を徹底的に嫌います」「具体的に言えば、要領が悪くて、じじいの足を引っ張る部下のこと」。
空気を読める人」「言われる前にやる」人であることが必要だ。
女性の部下の場合はどうか。肉食じじいは女好きだが「『女好きだから、女を武器にする』というのは、あまりに短絡的です」「仕事のパートナーとして選ばれるためには…自分の意思をしっかりと主張できる凛々しさが必要となります」。
「女に次ぎ、肉食じじいが好むもの。それは『VIP待遇』です」「『執事』になりきるのです」。
「肉食じじいは、『男女7人夏物語』や『東京ラブストーリー』といったトレンディドラマ…にもっとも影響を受けた世代」「日常のなかにドラマのような強い刺激を求めているのです」「若さを武器に青さを前面に出したアツさを見せつけ、『オレにもこんな若い頃があったなあ……』と親近感を持たせる」ことが必要だという。
第四章 「茶坊主じじい」リテラシー
「大して仕事もできないのに良いポジションにいて、上司にかわいがられているのが、茶坊主じじいの大きな特徴です」。
「出世のためなら手段を選びません。仲良くしていても、掌を返すように突然裏切られることもあるので、最新の注意が必要です」。
「もっとも気をつけたいのが『警戒心を忘れない』ということ」。
「オネエは自分が小ばかにされていることを知りつつ、自虐的なまでに自分を落とし込むことができる天才です」「そんな彼女たちに学びたいのが『バカを演じる』テクニック」。
「突出した才能があるワケでもなく、勤務態度はいたって真面目で、与えられた仕事は期日内にキチンとアップする。やる気はあるけど、我が強くなく、上司の言うことにはけっして逆らわず、何事も素直に聞く。茶坊主じじいは、そういうタイプを『使えるヤツ』として好みます」。
第五章 「9時5時じじい」リテラシー
「与えられた仕事以外はせず、就業時間中にパソコンゲームに熱中したり、『外出する』と言っては喫茶店やパチンコ屋に入り浸る。それでいて定時になると、『待ってました!』とばかりにとっととタイムカードを押して帰宅する」。
「全じじいのなかではもっともリテラシーがむずかしく、『危険物取扱注意じじい』です」。
「『好きなフリをする』こと」。
「このじじいの場合はオフィスのなかだけで十分です。プライベートエリアにはキチンと『結界』を張り、じじいを寄せつけないよう心がけてください」。
「仲良くしつつ、自分の情報はできるだけ明かさないこと」「ポイントは、最初に軽く否定したあと、じじいに同じような質問を振り、笑顔を浮かべながら真相を煙に巻くことです」。
「好きなフリをしてよい関係を築いたら、今度は『じじいを研究する』といった少し高度なリテラシーを身につけてほしいのです」「9時5時じじいをよく研究することで、個人攻撃の罠から脱却し、もっと幅広く深い『視点』を身につけることができるようになるのです。それは自分が9時5時じじいにならないためだけでなく、将来、自分が管理職や経営者になったときにも必要になってくる視点です」。
「9時5時じじいの行動にイラッっとして目をそむけるのではなく、ダメ社員のサンプルとして研究し、自分に当てはめて考えてみることで、反面教師としてさらなる成長をうながす――そう考えれば、9時5時じじいとの出会いも無駄にはならないのです」。
第六章 「耕作じじい」リテラシー
「人望が厚く、『私もあんなふうになりたい』と誰もが憧れを抱く、じじい界のスーパーヒーローです」。
リテラシーは5つ。「あきらめない行動」「いつも素直な心で応じる」「損得勘定で動かない」「『ありがとう』は必ず2回言う」「デカい『夢』を語る」。
耕作じじいがもっとも嫌うことは「主体性がないこと」。そして、「自分の前提条件を相手に押しつける」こと。
「耕作じじいをはじめ、自分であげた企画を次から次へと形にし、結果を出して出世している人は、間違いなく『社内ロビー活動』を行っていると言っても過言ではありません」。
「同期が知り合いのいない部署に異動したら、まっさきに『通う』ようにしましょう」。
おわりに
「20代は、『じじいリテラシー』を駆使しながら信頼の置ける社員としてのベースを構築する、いわば準備期間。経験、実績、信頼を積み重ねた30代で、ようやく自分がやりたいことを主張する――」。
会社は、ありとあらゆる人間関係が用意されている便利な場所だと思う。
現代の若者は気の合う仲間同士で付き合えばいいと考える傾向が強いが、「異文化」との交流は避けて通れない道だ。くだらない相手だと思っても、組織が作った会社人間の類型を研究することは、組織を改革するヒントになる。
今の若者は新しい時代の発想を持っていると思うが、中高年の知恵が役に立たないかと言えば、そうではないはずだ。
じじいが若者リテラシーを、若者がじじいリテラシーを語学を学ぶように学び、交流を深めることが、ハイブリッドな組織を作り、日本を強くしていくことにつながるのではないかと思った。
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