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今野浩一郎著『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社)

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正社員消滅時代の人事改革

 今野浩一郎著『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社、2012年12月14日発行)を読んだ。  

 終身雇用制度、年功制度はもう限界で、それらに代わる新しい仕組みが現れないと日本の雇用は持たない、などと言われて久しい。だが、仕事と成果を重視する形にはなってきたとはいえ、終身雇用制度、年功制度をベースにする正社員中心の雇用という基本的な形は変わっていない。

 政労使の力関係で雇用制度は決まるだけに、ドラスチックな改革はできないのかもしれない。しかし、若年雇用、高齢者雇用などの雇用の出口と入り口のところで歪みが大きくなっており、日本的雇用制度はいよいよ限界?と思われる。

 そんななかで、新しい方向性を明確に打ち出したのがこの本だ。

 まずは働き方の変化。一つが、「組織内自営業主化」の動きだ。

 「長い意思決定段階をもつ階層別組織では、変化の速い市場に合わせて迅速に生産し販売することが難しく、いきおい市場に近い現場に権限を下ろし、市場の変化に合わせて現場が仕事の進め方を自ら決める組織体制を作らざるをえなくなる。その結果、組織のフラット化が進み、組織は『現場に任せる組織』になる」「社員は『任せるから責任をとりなさい』という働き方を求められるようになる。この働き方は『顧客から仕事を受注し、自らの責任で生産し、その結果については自ら責任をとる』という自営業主に似た形態であるので、そこで求められる社員の働き方を組織内自営業主型の働き方と呼ぶことにする」。

 もう一つが「人材の調達・活用の社内グローバル化」だ。

 「高付加価値型製品・サービスの開発や生産を担う高度な能力を持つ人材は、外から『必要なときに必要なだけ』確保することが難しく、企業はいきおい長期的な視点にたって人材を確保し育成することが必要になる」「伝統的な人事管理のもとでは、コア社員は男性中心の総合職型の正社員と相場が決まっていた。しかし、この男性中心の総合職型の正社員は、社内で働く社員の一部であり、それ以外の社員のなかにいかに優秀な人材がいても初めから集める対象から除外されていた」

 しかし、「人材調達力をこれまで以上に強化することが求められている」。そこで「最も重要なのは人材を集める対象を拡大することであり、拡大するほど、これまで見逃されてきた有能な人材を調達することが可能になる」「このことは、社員が属性、社員区分、雇用形態を超えて広く活用され、何の仕事を担当するかをめぐって競争することを意味するので、ここでは、それを人材調達・活用の社内グローバル化と呼んでいる」。

 こうした変化に対して、伝統的な人事管理に限界が見え始めている。

 「終身雇用制度のもとでは、生産の変動に合わせて雇用量を迅速に調整することが難しいという経営リスクが発生する。そこで企業は、この経営リスクを回避するために配置転換を通して雇用調整力を高めることが必要になり、『配置を柔軟に決める人事政策』という装置を作り上げたのである」、しかし、「『配置を柔軟に決める人事政策』は機能不全に陥りつつあるという。

 「会社の指示があれば全国あるいは世界のどこへでも転勤する。時間を気にせず、長時間労働もいとわず働く。業務上必要であれば、これまで経験したことのない仕事にでも挑戦する」「こうした働き方をする社員は働く場所、時間、仕事について制約がなく、会社の指示や業務上の都合に合わせて場所、時間、仕事を柔軟に変えることのできる社員である。このタイプの社員を、労働サービスを制約なく企業に提供できるという意味で『無制約社員』と呼ぶ。

 「これに対して、働く場所、時間あるいは仕事について何らかの制約をもつ社員を『制約社員』と呼ぶと、企業には多様なタイプの制約社員が働いている」「社員の属性からみると、多くの女性は、家事や出産・育児等との両立から時間を気にせず働くということにはならないので時間制約をもった、あるいは転居を伴う異動が困難であるので場所制約をもった社員である」「定年後に再雇用された高齢社員は、生活や健康と両立できる時間で働くことを希望し、現役時代のような転勤はしない社員であるので、時間制約と場所制約を持った制約社員である」。

 こうして、本書は制約社員をいかに活かし、「組織内自営業主化」「人材の調達・活用の社内グローバル化」などの動きに対応するかを論じていく。ポイントは「多元的人事管理」だ。

 だが、このブログでは、高齢者問題に絞ってレビューする。

 高年齢者雇用安定法は「老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が2013年から段階的に引き上げられることを受けて、高齢者の65歳までの安定した雇用を確保するために…企業に『定年年齢の引き上げ』『継続雇用制度の導入』、あるいは『定年制度に廃止』のいずれかの措置…をとることを義務づけている」「希望者全員が65歳まで継続して雇用されること、意欲と能力のある高齢者が70歳まで働くことのできる条件を整備することが、新たに政策課題として登場してくる」「現状では、60歳以降の高齢社員の賃金は、仕事と成果のいかんにかかわらず一律に定年時の一定割合とする企業が多い。こうした高齢社員に対する賃金管理は、賃金は能力、仕事、成果に対して払うべきであるという原則からみると、『雇用は保障するが、成果は期待しない』という人事管理方針の表れであるように思う」「しかし、法律が多くの高齢者をより長い期間継続雇用することを求める方向に動いていうことを踏まえると、そうした対応が許されない時代になりつつある」「60歳以降の高齢社員は全社員の1割を超す大きな社員群として登場することになる。ここまでくると、『雇用は保障するが、成果は期待しない』という人事方針を採用し続けることは経営上難しくなり、企業は制約社員であることを配慮しつつ高齢社員の有効活用を本気になって検討することが必要になろう」。

 「能力、仕事、成果に関係なく定年時の賃金から一律に減額するという仕組みをとるということは、多くの企業が経営成果を高めるために高齢社員を活用するというより、政府の政策に対応するために、あるいは社会的責任を果たすために高齢社員を雇用するという、『福祉的雇用』とも呼べる施策をとる傾向が強いことを示している」

 「高齢社員は予定されている雇用期間が短いことから『いまの能力を活用して、いま処遇する』短期決済型社員にならざるをえない」「高齢社員が定年前と同じ仕事に従事しても、定年時の賃金が貢献度より高めの水準にあるため、高齢社員の賃金は定年を契機に貢献度に見合った水準まで低下する」

 この改善策は二つあるという。「第一は、高齢社員の賃金制度は『仕事と成果で決める』という短期決済型をとるが、賃金水準を決めるさいには定年時の賃金を考慮するという調和型の施策をとることである」「第二の方法は、ある年齢以上(あるいは、あるキャリア段階以降)の現役社員は賃金制度を『仕事と成果で決める』短期決済型に再編しておくことである」。

 高齢者の賃金が再雇用後に著しく下がる状態を改善するのは、まずは企業は「福祉的雇用」という意識を改め、高齢者に、しっかり仕事をしてもらう態勢を整える必要がある。

 また、「仕事と成果で賃金を決める」形に雇用制度を変えていくには、中高年になってから手厚くなる生活給部分をどうするかという問題も出てくる。この部分は社会福祉制度が担うべきなのかもしれない。雇用制度と社会保障の一体改革が大事だ。

 

 

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