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「三菱一号館美術館名品選2013 -近代への眼差し 印象派と世紀末美術」

 最近、「クールジャパン」に関心があり、いくつか関連の本を読んでいる。『フランスに学ぶ国家ブランド』(平林博著、朝日新書)にこんなくだりがあった。

 「フランス人は、外国文化に対し敬意を表し評価することでも、人後に落ちない」「フランス人は、一般的に多様な文化を理解し、評価する能力に優れている。19世紀後半の葛飾北斎ほか日本の浮世絵が印象に強い影響を与えたことは、よく知られている。…日本のマンガやアニメにもすぐに飛びつく」。 

 浮世絵にクールさを感じ、世界に誇る芸術と高評価を与えたのもフランスの芸術家たちなのだ。

 そんなフランスの芸術家たちに対する関心が高まっているときに、三菱一号館美術館で「三菱一号館美術館名品選2013 -近代への眼差し 印象派と世紀末美術」が開かれているのを知った(10月5日から2014年1月5日まで開催)。

 平日だが、昼休みの時間帯を利用して、展示を見た。

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 高橋明也館長がカタログに、今回の展覧会の狙いを語っている。

 「三菱一号館美術館は、その運営のミッションにもあるように、東京・丸の内という地域的特性と、明治期に由来する復元建築に立脚するという個性を大いに意識しながら、近代の美術、都市と美術、東西交流などをキーワードとして展覧会の構成をしています。そして同様の観点から、19世紀末の作品を中心に作品収集も続けてきました。美術館活動、そして展覧会活動の根幹が、収集・研究・展示のバランスのとれた動きの中にあることを確信しているからです」「そしてこの秋、当館のコレクションの大きな部分を、一貫性のあるテーマに沿った展覧会の形で公開することにしました」

 

 展示室に入る。1章が「ミレーと印象派」。ミレーの《ミルク缶に水を注ぐ農婦》、セザンヌの《りんごとテーブルクロス》、ルノワールの《麦藁帽子の女性》《長い髪をした若い娘》など、これぞ名画!というべき絵が並ぶ。

 しかし、新鮮な感動を覚えたのは第2章以降の版画作品だった。

 2章 ルドンの黒

 リトグラフによるモノクロ作品。《「夢のなかで」Ⅰ.孵化》《「夢のなかで」Ⅷ.幻視》など、まさに悪夢を見ているような、挿し絵に使うとおもしろいような絵だ。印象派の画家と同時代に生きながら、まったく違う画風を追求したルドン。とてもインパクトがあった。

 そのルドンが、三菱一号館美術館が所蔵する最大の目玉ともいえる作品《グラン・ブーケ(大きな花束)》を描くのだからおもしろい(6章 夢の色彩)。

 この作品はぜひ、美術館で見てほしい。そのカラフルさだけでなく大きさにも圧倒される。

 ルドンは晩年、黒と決別し、色彩と結婚したという。その転身を目の当たりにできるのだから、この展覧会は貴重だ。

 3章 トゥールーズ=ロートレックと仲間たち

 三菱1号館美術館が最も力を入れるロートレックのコレクションだ。

 猫を抱いて歌う女性を描いた《メイ・ベルフォール》。可愛らしいシャンソンが聴こえてくるようだ。

 《悦楽の女王》。男性の右手が気になる。

 4章 『レスタンプ・オリジナル』

 1893年から1895年にかけてパリで発行された限定、豪華版の版画集が『レスタンプ・オリジナル』だ。新旧の芸術家74人が参加して、様々な技法、主題、様式を競ったという。

 この中ではロダンの《アンリ・ベックの肖像》が印象的だった。ロダンは同じ人物を3方向からみた彫刻などで有名だが、この絵も同じ人物を3方向から描いている。ロダンはモデルに自由な姿勢をとらせて、自然な動きを邪魔しなかったらしい。これは、知らなかった。

 5章 版画家ヴァロットンの誕生

 今回の展覧会でルドンのグラン・ブーケを見たのと同じくらい感動したのがヴァロットンの版画だ。現代人のような感覚で男女や子供たちを描く。

 この展覧会に関連して、ホームページで、高橋館長と、膨大な版画コレクションを所有するフランス文学者、鹿島茂氏の対談「グラフィック作品は、これだから面白い!」 がある。

 そこで、二人がこんなやりとりをしている。

鹿島 グラフィック作品、つまり複製芸術は、写真製版が発展する以前の時代には、非常に複雑 な技法、工程が必要でした。画家が原画を石灰石の板の上に直接描く石版画(リトグラフ)を除くと、原画から版画に仕上げるまでには、原画を反転した形で写 し取るという特殊な技術をもつ反転写し師、彫る人、そしてそれを刷る人と、少なくとも3、4人の職人が必要だった。石版画でも製版と刷りには専門家が必要 です。そして彼らのチームプレイがいい場合、素晴らしい作品に仕上がります。原画よりもはるかにいいということだって珍しくない。だからぼくは、グラ フィックを「複製芸術」ではなく、「複人芸術」と呼んでいるんです。ちょうど映画みたいなものですよ。映画ってひとりではできないでしょ。照明をあてる 人、音を録る人、撮影技師など、完璧な職人たちのチームワークで成り立っている芸術ですから。

高橋 ぼくもグラフィック作品は昔から非常に重要だと考えていました。そしていろいろな幸運 が重なり、三菱一号館美術館の最初のコレクションとして、トゥールーズ=ロートレックの非常に質の高い一括コレクション「ジョワイヤン・コレクション」を 入手することができました。それらを見ていると、ロートレックは油彩と同様、いや、それ以上の力を傾注してグラフィック作品を制作していたんだということ がよくわかります。

この時代の複製芸術は複製の仕方自体が芸術だったことが分かるが、同時に現代につながる「複製」という発明は、芸術家の創作意図にも大きな影響を与えたのだろうと、ヴァロットンの絵を見ていて感じた。

 ヴァロットン展を三菱一号館美術館が、来年6月14日から9月23日まで開催するそうだ。必見だ。

 

 この後、グラン・ブーケを見せ、さらに再び印象派を見せてくれる。

 7章 ルノワールとモネの後半生

 モネ《プティ・タイイの岬、ヴァランジュヴィル》、ルノワール《パリスの審判》《ピクニック》。

 脳みそに直接刺激を与えてくるような版画作品の後に安らぎの名画。心憎い演出だ。

 8章 画商ヴォラールと画家たち 出版事業を中心に 

 このコーナーも、とてもよかった。

 モーリス・ドニの『アムール(愛)』。ドニの日記に綴られた文章が、それぞれの絵のタイトルになっている。

 「それは敬虔な神秘さだった」「彼女は夢よりも美しかった」「私たちの魂はゆっくりとした動作の中に」

 なんか、いい感じではないでしょうか。

 浮世絵を自分の部屋の壁に貼るなど、「日本かぶれ」と呼ばれていたボナール。その『パリ生活の小景』が、いくつか展示されていた。味わいのある絵だ。

 飾り置物も素晴らしい。

 ポール・ヴェルレーヌの誌に、ボナールが挿し絵を添えた詩画集もエロティックでなかなかよかった。

 今回の展覧会は、日本人のあまり知らない19世紀末の複製芸術を紹介するなど、高橋館長の気持ちや感性をとても感じる展示だった。

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 この展覧会の前(6月22日~9月8日)に、「浮世絵 Floating World -珠玉の斎藤コレクション」が開かれた。その「第2期  北斎・広重の登場~ツーリズムの発展」「第3期 うつりゆく江戸から東京~ジャーナリスティック、ノスタルジックな視線」を見たが、浮世絵から印象派につなげる流れも含めると、いっそう、高橋館長のこだわりが感じられる。

 日本には珍しい、手づくり感のある美術館だと思った。

 これからの展覧会にも目が離せない。

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