傾聴、共感の極意をわかりやすく解説、宮城まり子著『聴く技術』(永岡書店)
宮城まり子著『聴く技術』(永岡書店、2015年1月10日発行)を読んだ。宮城さんは法政大学キャリアデザイン学部キャリアデザイン学科教授。
『聴く技術』は、広く一般向けに書かれている。しかし、キャリアカウンセリングの基礎がわかる『キャリアカウンセリング』(駿河台出版社)も著した宮城さんの本だけに、キャリアカウンセリングの勉強にも役立つ技術や本質的な知識がふんだんに盛り込まれていた。オススメの一冊だ。
序章では「聴く」ことの意味を明らかにする。
「相手の話を心を込めて聴いてあげれば、相手はとても喜びます。それによって、相手の信頼を得て、人間関係もよくなるでしょう」「聴くことそのものが、相手に対する『敬意』や『好意』につながります」「聴くことを英語では『Active Listening』といいます。訳すと『積極的な傾聴』です。つまり、相手の真意を正しく理解するためには、心も身体も相手の方へ前のめりになるくらい集中して、心を込めて聴くことが必要だということです」。
第1章以降、より具体的に聴くことの効用、効果などが述べられ、「聴く技術」が紹介される。
「心理学では『相手を認めるすべての働きかけ』のことを『ストローク』といい、人間関係を大切にするための『潤滑油』の働きをすると考えられています」「的確なストロークを相手に送るためには、何よりもまず相手に関心をもち、相手をよく観察し、相手を知ることから始めなければなりません。そのためには、相手の話をよく聴き理解することが大切です」「相手がもっともほしがっているストロークのことを『ターゲットストローク』といいます」。
「自分のことをありのままカウンセラーに話しながら、自分自身を見つめ、心のなかを整理していくと、『できれば、私は人に役立つ仕事をしたい』『お金よりも、やりがいのある仕事をしたい』『仕事を通して人間として成長したい』と、そのように話している自分が次第に見えてきます」「このように心のなかを整理しながら、自分について話すことを『心のなかを言語化する』といいます」「話すことで、『気づき』が得られるのです」「人からアドバイスや指示をされて変えさせられるよりも、自ら気づくことによって自分を変えようとすることに、大切な意味があります。つまりそこには、その人自身の『自分を変えよう』とする主体性や自主性があるからです」。
「話を聴く場合にもっとも大切なことは、相手の気持ちを理解して、その気持ちに共感して返すことです」「『共感』とは、あたかも相手が感じているのと同じように、一緒に感じ、それを相手に『あなたの気持ちがよくわかりますよ』と伝え返すことです」「『共感』と言葉では簡単にいいますが、実際には、相手の気持ちに共感することはとても難しいことです」「『共感は難しい』と考えると、相手の立場に立って真剣に聴かないといけませんから、おのずと熱心に話を聴くようになります。ですから、『共感は難しい』といつも心にとめて話を聴くことが大切です」。
「聴き手が要点を返すことによって、話(内面)が整理されるという効果が出てきます」「話し手は、話した内容のなかで一番伝えたいことがまとめられ、自分に返ってくると、『この人は自分がいいたいことをちゃんとわかってくれた』と何よりも安心します。また、『ちゃんと熱心に聴いて、理解してくれようとしているな』と感じ、聴き手を信頼します」「話すスピードよりも聴くスピードの方が3〜4倍も速いといわれています。相手が話している最中でも、聴き手は次の質問やアドバイスを頭のなかで考えがちです。そして、次の質問やアドバイスを思いつくと、相手がまだ話しているのにもかかわらず、話の腰をおり、口をはさんでしまいます。こうしたことを防ぐためにも、要点を繰り返す聴き方は有効です。ところどころで相手の話をまとめて整理し、ポイントを伝え返すと、先走ることができなくなります」。
「ちょっと話を聴いただけですぐに思いつく程度のアドバイスは、本人がすでにいろいろ考えているものです。相手はそのうえで、『本当にこれでいいのか?』『ほかに何かいい答えはないか?』と迷っているから話すのです。話し手が求めているのはアドバイスよりも、話をだれかに聴いてもらうことです」。
「『話すこと』は『放つこと』といわれています。つまり、話し手は話すことで、悩みや抱える問題を『放ち』、抑えていた感情を『放つ』のです」「相手が『話す=放つ』間は、放ち終わるまで、たとえ何か言いたくなっても、途中で口をはさむことなく、最後まで熱心にひたすら聴くことが大切です」「もし『どうしてもこれは聴くだけではいけない、助言しなくては』『この人には、やはり情報提供が必要だ』と思ったら、相手が全部話し終えてから、つまり、全部最後まで放ってから、アドバイスや情報提供をしてあげてください」。
「あなたが話を聴いてあげている相手が落ち込んでいるような場合、それは話し手があえて『落ち込むようなとらえ方を選択している』からだとも考えられます。ですから話を聴く場合には、相手が『何をどのようにとらえているか』を理解することが大切なのです」「相手の気持ちを共感的に聴くことは大切ですが、別の考え方やとらえ方を一緒に考え、ほかにもとらえ方があることに気づかせ、気持ちや気分を変えるようなサポートをすることも聴き手の役割です」「聴いていて『とらえ方がゆがんでいるな』と気づいたときは、まず『そんなふうに思っているんですね』と、気持ちに共感しながら、とらえ方を頭から否定したり、馬鹿にしないように気をつけましょう。そして、『そうだよね、でも、ほかの考え方(とらえ方)はできないかな?』『こんな考え方、とらえ方もできないかな?』と、ほかのとらえ方をさりげなく提案してあげるといいでしょう」。
「聴くときは自分のコップをすべて空の状態にします。つまり、相手への思い込みをなくし、アドバイスの用意も何もせず、空の状態で無心に相手の話を聴きます。すると、空になった自分のコップに相手が言わんとすること、わかってほしいと思っていることがそのまますべて入ってきます。最後の一滴まで相手の話をよく聴き、自分のコップのなかに水(相手がわかってほしいこと)が入った状態になれば、相手を理解することができるでしょう」「相手がすべてを話し終えたら、相手のコップは空の状態になります。そこに、いったんわきに置いていた水(助言や提供したい情報)を流し込めば、自然とそのまま入り、相手にも受け入れられることでしょう」。
こうした聴く技術を、大人が身につければ、現代社会もストレスの少ない社会になるのかもしれない。まずは、自らが聴く技術のプロになりたいと思った。
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