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企業と労働者が本気で60歳以降の雇用を考えることを訴える今野浩一郎著『高齢社員の人事管理』(中央経済社)

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高齢社員の人事管理

 今野浩一郎著『高齢社員の人事管理』(中央経済社、2014年9月1日発行)を読んだ。

 今野氏は、高齢者の人事管理を構築するにあたって忘れてはならない視点の一つとして「ことの重要性」の視点を挙げている。「高齢社員という特定の社員集団が経営にとってどの程度重要な存在であるのか…を正しく認識する必要がある」というのが「ことの重要性」の視点だ。

 「高齢社員がさらに大きな社員集団として登場する『ことの重要性』が『深刻な段階』になると、個別的対応の延長で作られた制度でも、既存制度を部分的に手直した制度でも対応が難しくなり、高齢社員を活用するために合理的な制度を根本的に作り上げることが必要になろう」。

 労働力人口の年齢別構成比を見ると、60歳以上の比率は2010年でも18%に達しており、「労働市場は…『労働者の5人に1人は高齢者』時代を迎えることになる」「これを企業に置き換えれば『社員5人に1人は高齢社員」ということになり、企業にとって高齢化の『ことの重要性』は深刻ということになる」。

 しかし、現実には「わが国企業は大手企業を中心に、60歳以降の高齢者を雇用することには極めて消極的である」。

 「どうするのか。企業も労働者も変わる、それ以外に答えはないのである」。今野氏は言う。

 「出発点として重要なことは、高齢者を雇用し活用することに企業が『本気になること』である。高齢者の人事管理はどうあるべきかは解決の難しい課題であるが、『本気になること』さえできれば、いろいろな所からいろいろなアイディアが生まれ、解決策は必ず見つかるものである。しかし、『本気になること』がない限り、そうした力は生まれない」。

 「変わらなければならないのは企業だけではない。労働者も変わらねばならない。労働者は60歳を超えても働く『自営業型働き方』を受け入れ、それにむかって働き方とキャリアの作り方をどのように変えていくのか考えることに『本気になること』が必要である」「60歳以降を余生のように働くことも許されない時代である」。

 それでは、企業は具体的にどのような高齢社員の人事管理を考えなければならないのか。今野氏は高齢社員の人事管理を4つのタイプに類型化している。

 横軸に「活用方法」、縦軸に「処遇の決定方法」をとる。

 「活用方法では、定年を契機に仕事や働き方を見直す場合が『再配置型』、現役時代をそのまま継続する場合が『一貫型』に、処遇の決定方法では、現役社員と同じ制度を適用する場合が『一貫型』、異なる制度を適用する場合が『分離型』になる」「なお、ここで『活用方法』の再配置型について注意してほしいことがある。同型では定年を契機に仕事や働き方を見直すが、その結果、仕事や働き方が変わる場合も、変わらない場合(つまり実質的に現職を継続する)場合もある。つまり再配置型で重要なことは、企業と高齢社員が仕事や働き方について再契約することなのである」。

 「活用方法の『一貫型』と処遇の決定方法の『一貫型』を組み合わせたタイプ1は、現役社員と同じ人事管理をとることになるので…『1国1制度型』と呼んでおり、定年制度がないあるいは定年延長をとる人事管理がこれに該当する。それ以外の…3つのタイプは、活用方法と処遇の決定方法のどちらかあるいは両者を現役社員と異なる方法とするので人事管理は『1国2制度型』をとることになる」。

 「定年を契機に仕事配分と働き方を見直したうえで、高齢社員の賃金は定年時の賃金から一律に下げた水準にするというのがいまの主流である」「現役社員はこれまでの賃金制度が維持されるので、…年功的な長期決済型賃金の形態をとる。高齢社員については、仕事や成果にかかわらず、定年時の賃金から一律に下げた賃金になる…こうした仕事や成果とは無関係に賃金を決める人事管理は、…『福祉雇用型』人事管理といえる」「これが…P1型の人事管理であり、現役社員が年功的な長期決済型賃金、高齢社員が福祉雇用型賃金であるので、そのもとでの賃金制度を『年功的長期決済型+福祉雇用型』と表示している」。

 「このP1型がいまの主流を占めるが、これでは高齢者を戦力化することができない」「難しい仕事に挑戦しても、あるいは成果をあげても賃金が変わらないわけであるから、高齢社員の労働意欲が上がらず、高齢社員の活用が進まないのも当然のことである」。

 こうした問題を解決するため、今野氏は人事管理について、いくつかの方法を考える。まずは現状からの変化が小さい現状修正型。

 「高齢社員は『いまの能力をいま活用して、いま処遇する』短期決済型社員であるので…それに適合的な賃金は短期成果に基づいて払う仕事ベースの短期決済型賃金になる。現役社員の賃金は年功型の長期決済型を維持するので、賃金制度の全体像は『年功型長期決済型+仕事ベースの短期決済型』の組み合わせのP2型になる」「P2型の…現役社員の賃金はP1型と同じ長期決済型であるが、高齢社員の賃金は仕事に基づく賃金として2つのケースを示してある。1つは、現役時代と同じ仕事を継続して担当する『プロ型』の場合であり、同じ仕事を継続するので貢献度は現役時代と同じになる。もう一つは、定年を契機に補助的な仕事に変わる『補助職型』の場合であり、仕事の重要度が低下するので貢献度は現役時代に比べて低い水準になる」「P2型は『プロ型』のように現役時代と同じ仕事を継続して同じ貢献度をあげても、賃金は定年を契機に必ず下がるという問題を抱えている。…第一に、年功賃金は定年直前の賃金が貢献度より高めに設定される(この上まわる部分を『後払い部分』と呼ぶ)という特性を持っている。それに対して定年後は貢献度(仕事と成果)で払う短期決済型になるので、賃金は『後払い部分』だけ減少する。第二は、高齢社員は制約社員になり、会社にとって自由に活用できる程度が落ちるので、その分(就業自由度調整減額あるいはリスクプレミアム手当にあたる『制約化部分』)の賃金低下が起こる。さらに第三には、仕事が変わる『補助職型』のような場合には、現役社員時代より重要度の低い仕事になるので、それに対応して賃金が低下する(『仕事変化部分』)」。

 「P2型では、『後払い部分』、『制約化部分』あるいは『仕事変化部分』を合わせた額が定年を契機に低下することになるが、その低下は、2つの異なる合理的な制度を組み合わせることから起こる合理的な低下である。しかし、いかに合理的であっても、定年を契機に賃金が下がることに対する高齢社員の抵抗感は強く、それが高齢社員のモチベーションに悪影響を及ぼす恐れがある」「この問題を解決しようというのがP3型であり、この段階になると現役社員の賃金を再編するという領域に踏み込むことになる。つまり(管理職等が対象になる)『能力発揮期』にあたる中高年の現役社員の賃金を…貢献度(つまり仕事と成果)に基づいて払う成果主義型の賃金に再編するというものである。そうするとP3型の賃金は…定年前の賃金が『後払い部分』のない貢献度に見合った賃金になるので、P2型と比べると、定年を契機とした賃金の低下幅は『制約化部分』あるいはそれに『仕事変化部分』を加えた程度にとどまり小幅になる」「現役社員の『能力発揮期』の賃金も高齢社員の賃金も仕事基準の短期決済型であり、この点からみると現役社員と高齢社員には同じ賃金制度が適用されるということである。したがってP3型は『一貫型』の処遇の決定方式をとることに」なる。

 「こうした努力にもかかわらず、高齢社員の納得が得られず働く意欲に深刻な影響がでるとすれば、人事管理はP3型からP4型(『1国1制度型』)に進まざるをえないということになるだろう。これは現役社員と高齢社員を同等に扱う定年延長あるいは定年制のないことを前提とした人事管理を行うことに等しく、そのためには少なくとも以下のことが課題になろう」「第一には、たとえ定年延長あるいは定年制のないことを前提にした人事管理を構築しようとも、社員が60歳を超えても地位や仕事の責任が上がり続けるキャリアをたどることは一般的には考えられない」「もう一つの課題は…60歳を超えても賃金が上がり続ける年功的な賃金制度を想定することが現実的ではないこと、定年延長あるいは定年廃止によって正社員としての『能力発揮期』が延長されることを考慮すると、P3型以上に成果主義型の特性をもつ賃金制度を構築する必要があろう。正社員として働く期間が長くなるほど、正社員の賃金は年齢や勤続年数とはかかわりの薄い賃金へと変化していくのである」。

 「高齢社員に求められること」についても今野氏は触れている。特に印象的だったのは、「『のぼる』キャリアからの転換」についての一文である。

 「ここまで職業人生が長くなれば、最後まで『のぼる』を続けることは難しく、職業人生のある時点でキャリアの方向を切りかえることが自然である。定年がなく、体力と気力がある限り働き続ける商店主等の個人自営業主は、高齢期になると体力等に合わせて事業を縮小する、働き方を変える等してキャリアの方向を自然に変えている。労働者にも、こうした自営業主に似たキャリアをとることが求められているのである。労働者のキャリアは組織のなかで働くことを前提にしているので、これをキャリア形成の『組織内自営業主化』と呼ぶことにしたい」「重要なことは、…『働くことは稼ぐこと』であり、『何をしたいのか』とともに、『どうすれば会社や職場に貢献できるのか』を考えてキャリア・プランを工夫することである」。

 定年後再雇用の働き方を考える上で大変示唆に富む一冊だった。

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