北岡伸一著『世界地図を読み直す––協力と均衡の地政学』(新潮選書)
ロシアのウクライナ侵攻で、先進国の日常があまりにもあっけなく崩れるということを見せつけられた。ロシアとウクライナは、民族的にも地理的にも近いがゆえの紛争かもしれず、近い将来、日本もこうした紛争に巻き込まれないとも限らないーーと考えることは短絡的かもしれない。しかし、ウクライナの映像を毎日見ていると、ロシアのウクライナ侵攻を他人事とは思えない。
この地域に限らず、世界の国々がそれぞれに抱えている事情に、私はあまりにも疎いのではないかと思い、地政学に詳しい東京大学名誉教授で、国際協力機構(JICA)理事長の北岡伸一氏の著書を読んだ。
北岡伸一著『世界地図を読み直す––協力と均衡の地政学』(新潮選書、2019年11月15日発行)。
この本の中で、ウクライナについても触れている。
「キエフを中心にキエフ・ルーシ公国という国が成立し、13世紀にモンゴルに滅ぼされるまで続いた」「その後、ウクライナはポーランドやリトアニア、オーストリア、ロシアなどの支配を受け、独立国家を、作ることはできなかった。1917年、帝政ロシア崩壊とともにウクライナ人民共和国の樹立を宣言したが、やがてソ連の一部となった」
「ウクライナの独立は1991年のことであった」
ただ、「ウクライナとベラルーシはロシアの中学的部分だとロシアは考えているので、これが独立し、反ロシアならなったとき、ロシアはどう反応するだろうかと、私も懸念を持っていた」と北岡氏は振り返る。
「2010年の大統領選では、親露派のヤヌコーヴィチが勝利した。そして欧米と距離を置く政策を取り始めた。これに国民から反発が起こり、2014年2月、キエフで反政府運動が高まり、大統領は辞職した」「これに対しロシアはクリミアに軍隊を派遣して、これを制圧した」
北岡氏は、JICA理事長としてダラス会議にも出席しているが、その時にポロシェンコ大統領と会っていた。
「その時、大統領はロシアがいかにウクライナに兵士を送り込んでいるかを雄弁に語り、ヨーロッパのリーダーたちは、いやいや、それはウクライナだけの問題ではない、ヨーロッパ全体の問題だと励まし、私も、いや、力による現状変更はヨーロッパで起こっているだけではない、南シナ海でも起こっている、したがってウクライナの問題は世界の民主主義国全てについての問題だと述べた」という。
この言葉通り、世界情勢は推移している。
一国のことは、こうした過去の経緯をよく知らなければ語れないし、その国との接し方も、本書で紹介されるJICAの各国での具体的な活動を見て、日本として何できるかをよく考えた上で取り組まないとうまくいかない、ということがわかった。
ウクライナに限らず、世界各国の置かれた状況、歴史や、複雑な国際状況のなかで各国の政治家が適切な判断をしているのかといったことについて、考え、学ぶことは、各国と関わる仕事をしている人に限らず、日本人としても必要ではないかと感じた。
たとえばーー。
「自由で開かれたインド太平洋に対する脅威も登場した。中国である」「中国は南シナ海において、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどと領土紛争があるにもかかわらず、九段線を主張し、多くの島で埋め立てと軍事基地の建設を進めた」「これに対しフィリピンは2013年、仲裁裁判所に九段線の無効確認を訴えたが、中国は裁判に参加することを拒否した。そして、2016年、裁判がフィリピンの訴えを認め、中国の九段線の主張には根拠がないと判断すると、中国は、判決は紙切れだと言い、これを無視したのみならず、中国に同調するよう周辺国に圧力をかけた」
「法というものは、力によって支えられなければ無力である。中国に対してそうした力を示しうるのはアメリカだけだった。しかしアメリカは、ただちに反論しなかった。中国の海軍高官の発言に対し、太平洋は公海であって、その自由は法によって保障されるものであり、アメリカを含め、特定の国が特別の責任や権利を持つべきものではないと、ただちに明言すべきだった。南シナ海の埋め立てにおいても、ただちに抗議、批判すべきだった。ある国の問題ある行動に対し、沈黙することは、黙認を意味する」
ロシアと日本との関係についても、「こうした難しい隣国との関係に悩んだのは日本だけではない。ロシアおよびソ連の隣国は、みな、苦しんできた。そのうち、ジョージア、アルメニア、ウクライナ、フィンランドなどの経験に学んでみることは、意味があるのではないだろうか」と語る。
観光でその国を訪れるとき、ニュースである国が取り上げられるとき、その国の地理や歴史を学びたい。さらに、その国の国民と良い関係ができないか、日本のこれまでの経験が生かせないかを考えるためにも日本の近代史や文化を改めて学ぶべきではないだろうか。
この本を読んで、そんなことを感じた。
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