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映画「海よりもまだ深く」

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 是枝裕和監督の映画「海よりもまだ深く」を観た。 

 公式サイトのintroductionによるとこの映画は「〝なりたかった大人〟になれなかった大人たちの物語」とのことだ。

 台風の夜に、樹木希林扮する主人公(阿部寛)の母の家に泊まることになった元家族。そこで、母のラジカセから流れてくるのが、テレサ・テンの「別れの予感」だ。

 泣き出してしまいそう、痛いほど好きだから

 どこへも行かないで、息を止めてそばにいて

 体からこの心、取り出してくれるなら

 あなたに見せたいの、この胸の想いを

 教えて、悲しくなるそのワケ

 あなたに触れていても

 信じること、それだけだから

 海よりもまだ深く、空よりもまだ青く

 あなたをこれ以上愛するなんて

 私にはできない

 

 セリフにはならなかった元家族の心の声が、テレサ・テンの歌で拾う。

 樹木希林の涙とテレサ・テンの歌声で綴った元家族の別れの始まり。

 粋な演出の映画だった。

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映画「三度目の殺人」

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 是枝裕和監督作品をまた、観た。「三度目の殺人」。一度殺人を犯した男が二度目の殺人を犯す。生きる価値のない男と自らを評していた男は、「三度目の殺人」が遂行される過程で、生きる意味を見出す。

 是枝監督の家族の映画のように、観終わった後、心は温かくならなかったが、誰も真実を語らない法廷でのドラマは見ごたえがあった。

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是枝裕和監督の3作品を観るーー万引き家族、そして父になる、海街diary

  映画「ベイビー・ブローカー」が良かったので、是枝裕和監督の3作品を続けて観た。

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 どの作品も観終わったときに、心が温かくなる。いろいろな家族を描くが、描かれた家族はフツーではない。しかし、登場する家族のセリフや感情表現などは、自然で無理がない。作り物という感じがしない。

 出てくる人たちのセリフや感情表現に違和感があると、どんなにストーリーが整っていても、不満が残るが、是枝作品に出てくる役者たちは、ノンフィクションを見ているような自然な演技をする。

 すごい話がそこで展開するわけではないのに、思わず引きこまれてしまう。役者の演技をを見るだけで楽しい。どの作品も、この話、どんな結末で終わるのだろうと途中でちょっと不安になるくらい自然に、淡々とストーリーが流れていくが、きちっとエンディングで決めてくれる。

 「家族」の定義がゆらぐ時代。産みの父母か育ての父母かを考えさせる「そして父になる」。女を作って出て行った父親の「女との間に作った子供」と最初の娘たちの物語「海街diary」。祖母の年金だけを頼りにつながった疑似的な「万引き家族」。これでもかと家族の概念をゆさぶり、家族というものを考えさせてくれた。

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映画「ベイビー・ブローカー」

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 是枝裕和監督の「ベイビー・ブローカー」を観た。

 この映画をすごく観たいと思ったのは6月29日のNHKクローズアップ現代で、是枝監督のインタビューを聞いたのがきっかけだ。

 「ベイビー・ブローカー」は、監督以外、ほぼ韓国人の俳優とスタッフで作り上げた。

 是枝監督は言う。「良くも悪くも慣れ親しんでいるチームの中だと、あえて言語化しないでも済んでしまうことってあるじゃないですか」「もう一度こういうふうにきちんと言葉にして伝えないといけないっていう環境を経験するのは、演出家としては良い訓練だなとは思います」「この人がどう生まれてどう育ってというのは、実は普段はあまりしないのですが、あっても役者には渡さないのですが、今回は結構細かく書いて、台本に現れていない部分も含めて渡した方がいいと思ったので、そこは言葉にして渡しました」。

 そして、「ベイビー・ブローカー」は、見事、第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で、主演のソン・ガンホが最優秀男優賞を受賞。コンペティション部門の出品作のなかから「人間の内面を豊かに描いた作品」に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞した。

 期待通りの映画だった。

 まず、役者の演技が、とても生きる演出が目を引いた。

 最近はロケを減らすために、外のシーンもクロマキー合成を使ってスタジオで撮影することも多いが、「ベイビー・ブローカー」では釜山からソウルまで、役者が実際に車や列車で移動。最後のシーンを先に撮影するようなことはせず、ストーリーの進行とロケの順番を一致させたので、だんだん、役者たちの親密度も高まったようだ。劇場で芝居を観ているような空間が心地よかった。

 お金目当てのブローカーが、いつのまにか赤ん坊の幸せを考えるようになる。ちょっと間違えると、ドタバタ喜劇になりそうなストーリーだが、母親役のイ・ジウン、ブローカーのソン・ガンホが、シリアスさも保ってくれた。

 生まれてきたことに感謝するシーンは、当初の脚本にはなかったというが、この映画のテーマがストレートに伝わった場面だ。命という重いテーマが底流に流れ、役者が常にそれを意識して演技したことが、この映画をスケールの大きな映画にしたのだと思う。

 

 


 


 

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映画「PLAN75」

 75歳以上の高齢者に自らの”最期”を選ぶ権利を認め、支援するシステム「PLAN75」。超高齢化が進み、若者に重い負担がかかる社会。「社会に迷惑をかけたくない」と言って、PLAN 75による死を選ぶ人のインタビュービデオが流れる。なんともやるせない近未来を描いた作品が、早川千絵
監督の「PLAN75」だ。

Plan75  

 2018年に公開された是枝裕和総合監修のオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」の中で短編の「PLAN 75」を撮り、これを長編に作り替えたのが今回の作品だ。長編になっても、現実の超高齢社会での医療や介護の問題などにはあえて深入りせず、75歳以上になると高齢者に自らの最期を選ぶ権利を認めるというシステムが始まったという想定の中で、当事者となる高齢者や、彼らの周りの人たちはいったいどんな思いで過ごすのかということに絞って映画を作ったようだ。あまり「説明的」でないところが、かえって我々にいろいろな考えを巡らせる余地を残してくれた。

 早川監督も「私は映画を見る人の感受性を信じています。一人一人異なる感性で、自由に映画を解釈することで、観客も映画の共作者になってもらいたいのです」と話している。

 賠償智恵子演じる78歳の高齢者ミチ。働く意思もあり、誰に頼ることもなく凛々しく生きるのだが、それでも一度はPLAN75で最期を迎えようとしてしまう姿が見る人の心を打った。「75歳以上であるということだけで、財政を悪化させるだけの元凶のように見られてしまうのか」という理不尽さを感じさせた。

 60歳の「定年」、再雇用の「65歳まで」と、日本は年齢だけで一律に高齢者をくくる社会だ。その延長である後期高齢者の75歳を境に安らかな気持ちで過ごし、死を迎える権利を得られる制度ができるという設定は、細かく言えば、現実味に欠けるのだが、「高齢者は生きているだけで罪なのか」「長生きは本当に人類が得た果実なのか」などというテーマを考え、議論するには、こうしたわかりやすい設定がよかったのではないかと思う。

 「認知症で自ら意思決定ができない高齢者はどうするのか」「安楽死を肯定的にとらえることは危険ではないのか」など、ツッコミどころは満載だが、現実の制度上の問題に言及しだすと、PLAN 75というシンプルな設定による作品に対するアクセスのしやすさが失われてしまう。

 映像は美しく、賠償智恵子の演技は圧巻。リアリティがあるようで、別世界のようでもある映像が流れ、制度や倫理を議論する前に、人はなぜ生きるのかという本質的な問いが発せられる作品であった。

 社会の役に立たない人間は要らないのか?このシンプルだがしっかり議論すべきテーマを上手に扱ってくれた。「PLAN75」は、日本人が超高齢社会の重要なテーマを率直に語り合うきっかけになる作品になってほしいと思う。

 

 

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