企業と労働者が本気で60歳以降の雇用を考えることを訴える今野浩一郎著『高齢社員の人事管理』(中央経済社)

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高齢社員の人事管理

 今野浩一郎著『高齢社員の人事管理』(中央経済社、2014年9月1日発行)を読んだ。

 今野氏は、高齢者の人事管理を構築するにあたって忘れてはならない視点の一つとして「ことの重要性」の視点を挙げている。「高齢社員という特定の社員集団が経営にとってどの程度重要な存在であるのか…を正しく認識する必要がある」というのが「ことの重要性」の視点だ。

 「高齢社員がさらに大きな社員集団として登場する『ことの重要性』が『深刻な段階』になると、個別的対応の延長で作られた制度でも、既存制度を部分的に手直した制度でも対応が難しくなり、高齢社員を活用するために合理的な制度を根本的に作り上げることが必要になろう」。

 労働力人口の年齢別構成比を見ると、60歳以上の比率は2010年でも18%に達しており、「労働市場は…『労働者の5人に1人は高齢者』時代を迎えることになる」「これを企業に置き換えれば『社員5人に1人は高齢社員」ということになり、企業にとって高齢化の『ことの重要性』は深刻ということになる」。

 しかし、現実には「わが国企業は大手企業を中心に、60歳以降の高齢者を雇用することには極めて消極的である」。

 「どうするのか。企業も労働者も変わる、それ以外に答えはないのである」。今野氏は言う。

 「出発点として重要なことは、高齢者を雇用し活用することに企業が『本気になること』である。高齢者の人事管理はどうあるべきかは解決の難しい課題であるが、『本気になること』さえできれば、いろいろな所からいろいろなアイディアが生まれ、解決策は必ず見つかるものである。しかし、『本気になること』がない限り、そうした力は生まれない」。

 「変わらなければならないのは企業だけではない。労働者も変わらねばならない。労働者は60歳を超えても働く『自営業型働き方』を受け入れ、それにむかって働き方とキャリアの作り方をどのように変えていくのか考えることに『本気になること』が必要である」「60歳以降を余生のように働くことも許されない時代である」。

 それでは、企業は具体的にどのような高齢社員の人事管理を考えなければならないのか。今野氏は高齢社員の人事管理を4つのタイプに類型化している。

 横軸に「活用方法」、縦軸に「処遇の決定方法」をとる。

 「活用方法では、定年を契機に仕事や働き方を見直す場合が『再配置型』、現役時代をそのまま継続する場合が『一貫型』に、処遇の決定方法では、現役社員と同じ制度を適用する場合が『一貫型』、異なる制度を適用する場合が『分離型』になる」「なお、ここで『活用方法』の再配置型について注意してほしいことがある。同型では定年を契機に仕事や働き方を見直すが、その結果、仕事や働き方が変わる場合も、変わらない場合(つまり実質的に現職を継続する)場合もある。つまり再配置型で重要なことは、企業と高齢社員が仕事や働き方について再契約することなのである」。

 「活用方法の『一貫型』と処遇の決定方法の『一貫型』を組み合わせたタイプ1は、現役社員と同じ人事管理をとることになるので…『1国1制度型』と呼んでおり、定年制度がないあるいは定年延長をとる人事管理がこれに該当する。それ以外の…3つのタイプは、活用方法と処遇の決定方法のどちらかあるいは両者を現役社員と異なる方法とするので人事管理は『1国2制度型』をとることになる」。

 「定年を契機に仕事配分と働き方を見直したうえで、高齢社員の賃金は定年時の賃金から一律に下げた水準にするというのがいまの主流である」「現役社員はこれまでの賃金制度が維持されるので、…年功的な長期決済型賃金の形態をとる。高齢社員については、仕事や成果にかかわらず、定年時の賃金から一律に下げた賃金になる…こうした仕事や成果とは無関係に賃金を決める人事管理は、…『福祉雇用型』人事管理といえる」「これが…P1型の人事管理であり、現役社員が年功的な長期決済型賃金、高齢社員が福祉雇用型賃金であるので、そのもとでの賃金制度を『年功的長期決済型+福祉雇用型』と表示している」。

 「このP1型がいまの主流を占めるが、これでは高齢者を戦力化することができない」「難しい仕事に挑戦しても、あるいは成果をあげても賃金が変わらないわけであるから、高齢社員の労働意欲が上がらず、高齢社員の活用が進まないのも当然のことである」。

 こうした問題を解決するため、今野氏は人事管理について、いくつかの方法を考える。まずは現状からの変化が小さい現状修正型。

 「高齢社員は『いまの能力をいま活用して、いま処遇する』短期決済型社員であるので…それに適合的な賃金は短期成果に基づいて払う仕事ベースの短期決済型賃金になる。現役社員の賃金は年功型の長期決済型を維持するので、賃金制度の全体像は『年功型長期決済型+仕事ベースの短期決済型』の組み合わせのP2型になる」「P2型の…現役社員の賃金はP1型と同じ長期決済型であるが、高齢社員の賃金は仕事に基づく賃金として2つのケースを示してある。1つは、現役時代と同じ仕事を継続して担当する『プロ型』の場合であり、同じ仕事を継続するので貢献度は現役時代と同じになる。もう一つは、定年を契機に補助的な仕事に変わる『補助職型』の場合であり、仕事の重要度が低下するので貢献度は現役時代に比べて低い水準になる」「P2型は『プロ型』のように現役時代と同じ仕事を継続して同じ貢献度をあげても、賃金は定年を契機に必ず下がるという問題を抱えている。…第一に、年功賃金は定年直前の賃金が貢献度より高めに設定される(この上まわる部分を『後払い部分』と呼ぶ)という特性を持っている。それに対して定年後は貢献度(仕事と成果)で払う短期決済型になるので、賃金は『後払い部分』だけ減少する。第二は、高齢社員は制約社員になり、会社にとって自由に活用できる程度が落ちるので、その分(就業自由度調整減額あるいはリスクプレミアム手当にあたる『制約化部分』)の賃金低下が起こる。さらに第三には、仕事が変わる『補助職型』のような場合には、現役社員時代より重要度の低い仕事になるので、それに対応して賃金が低下する(『仕事変化部分』)」。

 「P2型では、『後払い部分』、『制約化部分』あるいは『仕事変化部分』を合わせた額が定年を契機に低下することになるが、その低下は、2つの異なる合理的な制度を組み合わせることから起こる合理的な低下である。しかし、いかに合理的であっても、定年を契機に賃金が下がることに対する高齢社員の抵抗感は強く、それが高齢社員のモチベーションに悪影響を及ぼす恐れがある」「この問題を解決しようというのがP3型であり、この段階になると現役社員の賃金を再編するという領域に踏み込むことになる。つまり(管理職等が対象になる)『能力発揮期』にあたる中高年の現役社員の賃金を…貢献度(つまり仕事と成果)に基づいて払う成果主義型の賃金に再編するというものである。そうするとP3型の賃金は…定年前の賃金が『後払い部分』のない貢献度に見合った賃金になるので、P2型と比べると、定年を契機とした賃金の低下幅は『制約化部分』あるいはそれに『仕事変化部分』を加えた程度にとどまり小幅になる」「現役社員の『能力発揮期』の賃金も高齢社員の賃金も仕事基準の短期決済型であり、この点からみると現役社員と高齢社員には同じ賃金制度が適用されるということである。したがってP3型は『一貫型』の処遇の決定方式をとることに」なる。

 「こうした努力にもかかわらず、高齢社員の納得が得られず働く意欲に深刻な影響がでるとすれば、人事管理はP3型からP4型(『1国1制度型』)に進まざるをえないということになるだろう。これは現役社員と高齢社員を同等に扱う定年延長あるいは定年制のないことを前提とした人事管理を行うことに等しく、そのためには少なくとも以下のことが課題になろう」「第一には、たとえ定年延長あるいは定年制のないことを前提にした人事管理を構築しようとも、社員が60歳を超えても地位や仕事の責任が上がり続けるキャリアをたどることは一般的には考えられない」「もう一つの課題は…60歳を超えても賃金が上がり続ける年功的な賃金制度を想定することが現実的ではないこと、定年延長あるいは定年廃止によって正社員としての『能力発揮期』が延長されることを考慮すると、P3型以上に成果主義型の特性をもつ賃金制度を構築する必要があろう。正社員として働く期間が長くなるほど、正社員の賃金は年齢や勤続年数とはかかわりの薄い賃金へと変化していくのである」。

 「高齢社員に求められること」についても今野氏は触れている。特に印象的だったのは、「『のぼる』キャリアからの転換」についての一文である。

 「ここまで職業人生が長くなれば、最後まで『のぼる』を続けることは難しく、職業人生のある時点でキャリアの方向を切りかえることが自然である。定年がなく、体力と気力がある限り働き続ける商店主等の個人自営業主は、高齢期になると体力等に合わせて事業を縮小する、働き方を変える等してキャリアの方向を自然に変えている。労働者にも、こうした自営業主に似たキャリアをとることが求められているのである。労働者のキャリアは組織のなかで働くことを前提にしているので、これをキャリア形成の『組織内自営業主化』と呼ぶことにしたい」「重要なことは、…『働くことは稼ぐこと』であり、『何をしたいのか』とともに、『どうすれば会社や職場に貢献できるのか』を考えてキャリア・プランを工夫することである」。

 定年後再雇用の働き方を考える上で大変示唆に富む一冊だった。

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実際のカウンセリングがよく分かる諸富祥彦著『新しいカウンセリングの技法~カウンセリングのプロセスと具体的な進め方』(誠信書房)

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新しいカウンセリングの技法

 諸富祥彦著『新しいカウンセリングの技法~カウンセリングのプロセスと具体的な進め方』(誠信書房、2014年1月30日発行)を読んだ。 CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)資格試験の2次試験では、インテーク面談(初回面談、受理面談)の最初の10分に臨むという想定で、学んだ技能や姿勢が試される。

 しかし、その先のカウンセリングがどう展開するのかは気になるところ。本書は、カウンセリングのプロセスの初期、中期、後期において、具体的に何をどうすればいいのか、を示している。

 同書によると、「カウンセリング(個別心理面接)」は、次の三つの段階を踏んで進むという。

 (1)関係形成期(ラポール形成/心と心のつながりをつくる段階)

 (2)自己探索期(自分を深く見つめる段階)

 (3)行動計画期(アクション・ステップ/これからどうすればいいか、実際の行動を計画する段階)

 まず、①関係形成期。

 「ここで用いられるカウンセリング技法は、『うなずき』『あいづち』『ごく普通の、感情の伝え返し』など、『基本的な傾聴技法』です」「この段階でまず必要なのは、『このカウンセラーは私の話や気持ちをていねいに受け止めてくれる』『しかも、わかったつもりにならずに、私に確認しながら聴いてくれる』と、クライアントが感じることです」。

 次が、②自己探索期。

 「次第にクライアントの意識は、『カウンセラーにわかってもらいたい』気持ちから離れていき、自分自身に向かい始めます。『自分は、ほんとうは今、どんな気持ちでいるのか』『何をしたがっていて、どんな方向に向かいたがっているのか』と自己探索をするようになっていくのです」。

 「カウンセリングの基本的な方向が定まってきたら、③の『行動計画』の段階に進みます」「そして、この段階を終えたら、いよいよ、集結に向けて話し合いを進めていきます」。

 「初期の『理解する関係づくり』の面接において、クライアントの意識は、『外界(現実社会)での問題に直面することを通して、次第に内界(内面世界)の探索へ』と入っていきます」「そして面接中期の『内面的自己探索』においては、カウンセリング・ルームという非日常的な空間において、内界にとどまり、ひたすら自己の内面探索に取り組んでいきます」「そして、内面的自己探索においてみずからの進むべき方向が定まったならば、面接後期において、再び『内界から外界へ』と帰還し、現実世界での具体的な課題に取り組んでいきます」。

 段階に応じて、高い技術も必要になってくるという。

 「①の援助関係の確立に有効な技法は『一般的な傾聴』で足りますが、②の内面自己探索(深い内省)の段階になると、カウンセラーの側にも『より深い傾聴』が求められます」「さらに、このプロセスの中で起きることを理解していくためには、精神分析やユング心理学の知識、たとえば『治療的抵抗』(治りたいけれど、治りたくないようなこころの動き)『転移/逆転移』(カウンセラーとクライアントの関係の中でそれぞれ相手に対して湧いてくる感情)『コンステレーション』(自分の意図を超えた人生のめぐりあわせ)などの概念が、しばしば役に立ちます」。

 なるほど。仮にCDAの試験に合格しても、それから勉強すべきことがとても多いようだ。面白そう!

 「初期の面接の技法」をしっかり学ばなければ。大事なところを引用しよう。

 1.椅子への座り方

 「最初、待合室にクライアントを迎えにいきます。そして面接室に入って『どうぞ』とクライアントの方から先に座ってもらいます」「その直後に私(カウンセラー)も座るのですが、特に初回の面接のときに、私は座った後に少しだけ椅子を横にずらすようにしています」「それは、『ここでは、あなたは、自分が話しやすいようにするために、自分のしたいようにしていいんですよ』という無言のメッセージを与えることにつながるからです」「クライエントによっては、真正面に座ってほしい、という人もいれば、45度くらいの角度で座ってほしい、という人もいます。特に思春期の子どもには、真横に座って話したほうが話しやすい、ということも少なくありません」。

 2.聴くときのからだの姿勢

 「わたしが大切にしているのは、まず自分自身がリラックスできる姿勢でお聴きすることです。こちらがリラックスできていないのに、クライアントがリラックスできるはずがありませんから」。

 3.うなずきとあいづちによる「ぺーシング」「チューニング」

 「クライアントよりも、少し大きめに、ゆっくりうなずきましょう」「しっかりと声に出して、クライアントよりも少し低めの声、少しゆっくりめのスピードで、あいづちを打ちましょう」「うなずきやあいづちで重要なことは、相手との『呼吸合わせ(ぺーシング)』『空気合わせ(チューニング)』です」。

 4.視線

 「多くのカウンセラーは、『顔のあたりをぼんやりみていて、クライアントが大切なことを言ったときだけ、相手の目をしっかり見る』ようにしています」。

 5.くり返し

 「『くり返し』とは、クライアントがたとえばくり返し何度も話している点などをただそのまま、カウンセラーが繰り返して伝える応答です」「合いの手を入れてもらうことで、クライアントは『私の話をちゃんと聴いてもらえている』と感じることができます。

 6.伝え返し(クライアント中心療法)

 「クライアントの方が表明されている気持ちのエッセンスを感じ取って、『あなたのおっしゃっているのは……ということでしょうか』と、こちらの『理解』や『受け止め』を、クライアント自身の内側に響かせてもらって『確かめてもらう』という姿勢でおこなっていく応答のことです」「その言葉の背景にある暗黙の意味(言葉にはなっていないけれども『言わんとしていること』)や、それらがどのような文脈や価値の枠組みから発されたものなのか、ということも含んで『伝え返し』ていくのです」。

 最後の7.こころのつぶやき技法は高等テクニック。間違えると格好悪いかもしれない。

 「これは、カウンセラーが自分を空にして、クライエントの語る内面世界にひたりきっているときに、自分の中に『ふと』浮かんできた言葉をつぶやくようにして伝えていく技法です」。

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細かいノウハウも学べる杉原保史著『プロのカウンセラーの共感の技術』(創元社)

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プロのカウンセラーの共感の技術

 杉原保史著『プロのカウンセラーの共感の技術』(創元社、2015年1月20日発行)を読んだ。杉原氏は京都大学学生総合支援センター長(カウンセリングルーム教授)。

 タイトル通り、プロのカウンセラーならではの、なるほど、という細かいノウハウを紹介している。

 13.「悲しいんです」「悲しいんだね」ーー共感と反射

 「『もう限界だよ』と言っている人に対して『もう限界だっていう気がするんだね』と、ただそのまま返す反応が『反射』です」「聴き手は、余分な方向づけをせず、話し手が表現したことを足場にしてさらにそこから表現を発展させていくよう促しているのです」「『反射』を用いて傾聴されると、話し手は自分の話していることを自分でもかみしめるようにあらためて振り返りながら、さらに発展させて話していくことができます」。

 「話し手がか細い声で、『もう頑張れない』と言っています。あなたならどう反射するでしょうか。…たとえば『限界まで頑張ってきたんだね』と反射することができます」「『もう頑張れない』と言う人は、『頑張らなくてはならない』というように自分を追い立てる声が常に心の中に響いている人です。常に自分にむち打って頑張らせている人です。背景にあるその心の動きをその一言から感じ取り、反射にそのニュアンスを反映させることが肝心なのです。『限界まで頑張ってきたんだね』という反射の仕方にはそのニュアンスが反映されています」。

 「反射には、無限に多様なヴァリエーションがありえます。それは、同じことを表現するのにも無限の表現の仕方があるという当たり前のことが、反射の仕方においても言えるということです」。

 16.「淋しいんですか?」と「淋しいんですね」

 「私が『淋しいんですね』とコメントするのは、話し手が淋しいという感情に触れるのを促進したいと思うからです。話し手が『淋しいんですよ』とか『淋しいなぁ』と素直に言えるような地点までガイドしたいと願うからです」「『淋しいんですか?』というコメントは、たった1文字違うだけなのですが、この目的にはまったく適しません。このコメントは、話し手に自分の感情をあらためて調べてみるような視点を発生させます。このコメントは、話し手に『私は淋しいんだろうか?』と内省させるように誘導します」。

 20.葛藤の両面に触れる

 「悩んでいる人、苦悩している人、ストレスを抱えている人は、ほとんどの場合、何らかの葛藤を心に抱えています。共感的な対応をするためには、話を聴いていてそうした葛藤に出会っても、性急に白黒つけようとしないことが大切です。一つのコメントの中に葛藤の両面を穏やかに描き出すことができるとよいと思います」「このようなコメントを述べるに当たっては、コツが二つあります。一つは、葛藤の両面をつなぐときに、『そして』『それと同時に』『その一方で』といった接続詞を使ってその二つを穏やかな関係でつなぐことです。たとえば『あなたはお母さんのことが好きなんだね。そして一方では、お母さんがあなたにしてくることにイライラするんだね』といった具合です」「葛藤の二つの面を逆説の接続詞でつなぐことはしません。『あなたはお母さんのことがすきなんだね。にもかかわらず、お母さんがあなたにしてくることにイライラするんだね』。このように逆説の接続詞でつないでしまうと、葛藤の両面の対立関係はかえって引き立ってしまいます」「もう一つのコツは、コメント全体を『穏やかな声』で言うことです」。 

 一例を示したが、カウンセリングで共感を得るためには、傾聴とともに、返す言葉の選び方が大変重要であることが分かった。

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傾聴、共感の極意をわかりやすく解説、宮城まり子著『聴く技術』(永岡書店)

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聴く技術

 宮城まり子著『聴く技術』(永岡書店、2015年1月10日発行)を読んだ。宮城さんは法政大学キャリアデザイン学部キャリアデザイン学科教授。

 『聴く技術』は、広く一般向けに書かれている。しかし、キャリアカウンセリングの基礎がわかる『キャリアカウンセリング』(駿河台出版社)も著した宮城さんの本だけに、キャリアカウンセリングの勉強にも役立つ技術や本質的な知識がふんだんに盛り込まれていた。オススメの一冊だ。

 序章では「聴く」ことの意味を明らかにする。

 「相手の話を心を込めて聴いてあげれば、相手はとても喜びます。それによって、相手の信頼を得て、人間関係もよくなるでしょう」「聴くことそのものが、相手に対する『敬意』や『好意』につながります」「聴くことを英語では『Active Listening』といいます。訳すと『積極的な傾聴』です。つまり、相手の真意を正しく理解するためには、心も身体も相手の方へ前のめりになるくらい集中して、心を込めて聴くことが必要だということです」。

 第1章以降、より具体的に聴くことの効用、効果などが述べられ、「聴く技術」が紹介される。

 「心理学では『相手を認めるすべての働きかけ』のことを『ストローク』といい、人間関係を大切にするための『潤滑油』の働きをすると考えられています」「的確なストロークを相手に送るためには、何よりもまず相手に関心をもち、相手をよく観察し、相手を知ることから始めなければなりません。そのためには、相手の話をよく聴き理解することが大切です」「相手がもっともほしがっているストロークのことを『ターゲットストローク』といいます」。

 「自分のことをありのままカウンセラーに話しながら、自分自身を見つめ、心のなかを整理していくと、『できれば、私は人に役立つ仕事をしたい』『お金よりも、やりがいのある仕事をしたい』『仕事を通して人間として成長したい』と、そのように話している自分が次第に見えてきます」「このように心のなかを整理しながら、自分について話すことを『心のなかを言語化する』といいます」「話すことで、『気づき』が得られるのです」「人からアドバイスや指示をされて変えさせられるよりも、自ら気づくことによって自分を変えようとすることに、大切な意味があります。つまりそこには、その人自身の『自分を変えよう』とする主体性や自主性があるからです」。

 「話を聴く場合にもっとも大切なことは、相手の気持ちを理解して、その気持ちに共感して返すことです」「『共感』とは、あたかも相手が感じているのと同じように、一緒に感じ、それを相手に『あなたの気持ちがよくわかりますよ』と伝え返すことです」「『共感』と言葉では簡単にいいますが、実際には、相手の気持ちに共感することはとても難しいことです」「『共感は難しい』と考えると、相手の立場に立って真剣に聴かないといけませんから、おのずと熱心に話を聴くようになります。ですから、『共感は難しい』といつも心にとめて話を聴くことが大切です」。

 「聴き手が要点を返すことによって、話(内面)が整理されるという効果が出てきます」「話し手は、話した内容のなかで一番伝えたいことがまとめられ、自分に返ってくると、『この人は自分がいいたいことをちゃんとわかってくれた』と何よりも安心します。また、『ちゃんと熱心に聴いて、理解してくれようとしているな』と感じ、聴き手を信頼します」「話すスピードよりも聴くスピードの方が3〜4倍も速いといわれています。相手が話している最中でも、聴き手は次の質問やアドバイスを頭のなかで考えがちです。そして、次の質問やアドバイスを思いつくと、相手がまだ話しているのにもかかわらず、話の腰をおり、口をはさんでしまいます。こうしたことを防ぐためにも、要点を繰り返す聴き方は有効です。ところどころで相手の話をまとめて整理し、ポイントを伝え返すと、先走ることができなくなります」。

 「ちょっと話を聴いただけですぐに思いつく程度のアドバイスは、本人がすでにいろいろ考えているものです。相手はそのうえで、『本当にこれでいいのか?』『ほかに何かいい答えはないか?』と迷っているから話すのです。話し手が求めているのはアドバイスよりも、話をだれかに聴いてもらうことです」。

 「『話すこと』は『放つこと』といわれています。つまり、話し手は話すことで、悩みや抱える問題を『放ち』、抑えていた感情を『放つ』のです」「相手が『話す=放つ』間は、放ち終わるまで、たとえ何か言いたくなっても、途中で口をはさむことなく、最後まで熱心にひたすら聴くことが大切です」「もし『どうしてもこれは聴くだけではいけない、助言しなくては』『この人には、やはり情報提供が必要だ』と思ったら、相手が全部話し終えてから、つまり、全部最後まで放ってから、アドバイスや情報提供をしてあげてください」。

 「あなたが話を聴いてあげている相手が落ち込んでいるような場合、それは話し手があえて『落ち込むようなとらえ方を選択している』からだとも考えられます。ですから話を聴く場合には、相手が『何をどのようにとらえているか』を理解することが大切なのです」「相手の気持ちを共感的に聴くことは大切ですが、別の考え方やとらえ方を一緒に考え、ほかにもとらえ方があることに気づかせ、気持ちや気分を変えるようなサポートをすることも聴き手の役割です」「聴いていて『とらえ方がゆがんでいるな』と気づいたときは、まず『そんなふうに思っているんですね』と、気持ちに共感しながら、とらえ方を頭から否定したり、馬鹿にしないように気をつけましょう。そして、『そうだよね、でも、ほかの考え方(とらえ方)はできないかな?』『こんな考え方、とらえ方もできないかな?』と、ほかのとらえ方をさりげなく提案してあげるといいでしょう」。

 「聴くときは自分のコップをすべて空の状態にします。つまり、相手への思い込みをなくし、アドバイスの用意も何もせず、空の状態で無心に相手の話を聴きます。すると、空になった自分のコップに相手が言わんとすること、わかってほしいと思っていることがそのまますべて入ってきます。最後の一滴まで相手の話をよく聴き、自分のコップのなかに水(相手がわかってほしいこと)が入った状態になれば、相手を理解することができるでしょう」「相手がすべてを話し終えたら、相手のコップは空の状態になります。そこに、いったんわきに置いていた水(助言や提供したい情報)を流し込めば、自然とそのまま入り、相手にも受け入れられることでしょう」。

 こうした聴く技術を、大人が身につければ、現代社会もストレスの少ない社会になるのかもしれない。まずは、自らが聴く技術のプロになりたいと思った。

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カウンセリング現場での「傾聴」が理解できる古宮昇著『共感的傾聴術~精神分析的に“聴く”力を高める』(誠信書房)

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共感的傾聴術

 CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)資格試験の1次試験(学科)に合格。2次試験(実技)の準備のため、古宮昇著『共感的傾聴術~精神分析的に“聴く”力を高める』(誠信書房、2014年8月20日発行)を読んだ。著者は精神分析的心理療法と来談者中心療法による開業カウンセリングを15年行っているプロフェッショナル。本書では、「転移」や「逆転移」、「抵抗」といった精神分析の用語も解説しながらが、奥深いカウンセリングの世界を紹介している。CDA、キャリアカウンセラーがここまで精神分析的なカウンセリングを行うことはあまりないと思うが、CDA養成講座で学んだ「無条件の肯定的配慮(受容)」=本書では「無条件の受容(尊重)」=、「共感的理解(共感)」の具体的イメージを学ぶことができた。

 まず「無条件の受容(尊重)」について。「来談者のあり方に共感するとき、カウンセラーのこころには、彼・彼女を変えようという思いは出てきません。来談者はしばしば、他人から見るとヘンな、おかしい、ダメな、良くないことを、考えたり感じたり行ったりします。しかし、彼らのこころや行動を『ヘンだ』とか『良くない』と見なすとき、わたしたちは彼らのことを、その人の身になって理解しているのではなく、外側から見ているのです」。

 そして、ロジャース(養成講座ではロジャーズ)による共感の定義も紹介されていた。「共感という状態、すなわち共感的であるということは、他者の内的準拠枠を、自分があたかもその他者であるかのように、しかも『あたかも』という性質を失うことなく、正確にかつ感情的な要素と意味とともに認識することである。それゆえ、他者の傷つきや喜びを感じ取るように感じ、それらの感情の原因をその人が認識するように認識するが、そのとき、『あたかも』自分自身が傷つきや喜びを感じているかのように、という認識を失うことがない」「セラピストが、来談者の内的世界に起きる瞬間・瞬間の経験を、来談者が見るように見て、来談者が感じるように感じ、しかもセラピスト自身の自己という分離性を失うことなく、つかむこと」。

 本書でのカウセリングの事例、フロイトが取り上げるようなケースばかりだった。しかし、その場で必要となる精神分析の理論は、知らないと、カウンセリングが難しくなるケースも出てくるのではないかと思った。

 まず、転移。「かつて親など重要な他者に対して感じた感情、欲求、考え、態度、行動、想像などを今の誰かに置き換える現象を、『転移』と呼びます」「恋愛・結婚関係や親友との関係は、特に転移反応を引き出しやすい人間関係です。これらの関係は親密なので、幼かったころの親子関係の親密さが無意識のうちによみがえってくるからです」「また、教師、上司、警察など権威者との関係も、転移反応を引き出しやすいものの一つです。これらの人間関係では、権威者が自分より権力を持ち、自分に対して大きな影響力を持っているという特徴が、やはり幼少期の親子関係と共通しているからです」。

 逆転移。「カウンセラーが『来談者から優秀なカウンセラーだと思われたい』『来談者から好かれたい』と感じるのは、カウンセラーの(来談者に向けられた)転移反応です。このように、カウンセラーが来談者に対して抱く転移を『逆転移』と呼びます」「カウンセラーが来談者に対して、あたかも子どもが親に対するかのように反応している、ということです」。

 「私たちが苦しむ人の助けになろうとするときに陥りやすい落とし穴ですが、来談者が良くなることをカンセラーが必要とすると、来談者には重荷になります。『お願いだからわたしのために良くなってください』というカウンセラーの思いが、来談者に伝わるからです」。

 「そのように、良くなってくれることを必要とする気持ちが起きるのは、私たち自身のこころの痛みにその源があります。来談者が良くなってくれない限り、自分の存在価値がない(小さい)と感じているのです。ですから、カウンセラーとしての能力を高めるには、わたしたち自身がカウンセリングを受けることを通して、自己無価値感の源である深い痛みを高い程度に癒すことが必要です。

 来談者(養成講座ではクライエント)が、もしも、カウンセラーに対し、不信感や不満を表現したりしたら、動揺しそうだが、そんなときも、著者であれば、このように考える。

 「この方は不信感(または不満)を感じておられるんだな。それはどんな感じだろう。わたしの何に対して、どんな不信感(不満)を感じられているのだろう」

 具体的事例。

 「来談者 先生は結婚されていますか?」

 「わたし もしもわたしが独身だったらあなたの夫婦関係の苦しみが理解できないんじゃないか、と感じられるのでしょうか」

 「来談者 守秘義務は守ってくれますか」

 「わたしがひょっとすると他の人に言うんじゃないか、という不安が湧いておられるんでしょうか(または)今日お話しされたことはすごく傷つきやすいことなので、とても大切に扱ってほしい、というお気持ちでしょうか」

 来談者の言葉そのものに反応するのではなく、なぜ、来談者がそのように言ったかを共感的に理解して、答えるわけだ。

 著者は、傾聴によるカウンセリングにおいてカウンセラーは何をするのか、そしてカウンセリングを通して来談者にどのような変化が生まれるのかを以下のようにまとめている。

 「カウンセラーが行うことは、来談者が表現している重要なことをなるべく来談者の身になって共感的に理解し、その理解を言葉で返すことです。そのとき、来談者が表情、声の様子、言葉によって表現していることを、カウンセラーがあたかも自分のことのように、なるべくありありと想像して感じることが大切です」

 「カウンセラーがそれ以外の意図を持って対応すると、カウンセリング過程を妨害してしまいます。それ以外の意図としては、たとえば次のようなものがあります」「来談者の考え方や行動を『正そう』とか『直そう』とする、何かの行動をさせようとする、教えようとする、説得しようとする、何かに気づかせようとする、感情を感じさせようとする、何かについて話させようとする、掘り下げようとする、来談者の緊張、不安、不信感、落ち込み、怒りなどの感情を変えようとする、苦しみから救おうとする、カウンセラーのことを信頼させようとか、カウンセラーに好感を持たせようとする、などです」。

 「カウンセラーが行うことは、来談者が表現している重要なことをなるべく来談者の身になって、ありありと共感的に理解し、その理解を言葉で返すことです」「それによって来談者が『カウンセラーはわたしの気持ち、考えをわたしの身になって理解し、わたしを無条件に受け入れてくれている』と感じられるにつれ、彼・彼女のこころの自己治癒力が発揮され、本当の感情、考えに開かれるとともに、深い癒しの過程が徐々に始まるのです」。

 キャリアカウンセラーの場合は、どこかの局面で具体的なアドバイス、すなわちコンサルティング的なことも必要かと思うのだが、少なくとも「傾聴する」ということはこういうことなのだ、ということがよくわかった。

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