高齢社会エキスパートの第一回の交流会、東大で開催

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 「第1回高齢社会エキスパート交流会」が5月23日、東京大学の山上会館で開かれ、82人が参加した(写真はすべて高齢社会検定協会提供)。

 「高齢社会エキスパート」は、一般社団法人の高齢社会検定協会が実施する高齢社会検定試験の合格者が同協会から付与される民間資格(称号)。検定試験は2013年に始まり、2回実施され、718名が高齢社会エキスパートの認定を受けている。

 高齢社会エキスパートが一堂に会する機会を設けてほしいという声が、エキスパートの間で高まっていた。協会側も、今後の運営や協会とエキスパートの協力態勢について意見交換する場を持ちたいという気持ちがあり、交流会が実現した。

 3月末に「高齢者エキスパート企画運営委員会」が発足。協会と協力しながら準備を進めてきた。

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 午後2時から始まった交流会では、まず、検定協会の代表理事である秋山弘子東京大学高齢社会総合研究機構特任教授が、「高齢社会エキスパートの有志の方による企画、運営で第1回の交流会がキックオフできたことを、大変嬉しく思っております」と挨拶。「日本は長寿社会のフロントランナーだが、ジェロントロジーの教育は大変遅れており、2009年から東大で学部横断の教育を始め、昨年、大学院も設けた。しかし、それだけでは超高齢社会の課題解決ニーズを満たせないと考え、現在、社会で活躍されている方にジェロントロジー、超高齢社会の課題を学んでいただこうという趣旨で検定事業を始めた」と高齢社会検定の狙いを語った。

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 東京大学高齢社会総合研究機構客員研究員の前田展弘氏が、高齢社会検定協会の活動報告を行った後、同氏の進行で、秋山代表理事、辻哲夫理事(東京大学高齢社会総合研究機構教授)と、宮谷雅光さん(ニッセイ保険エージェンシー総務部長兼システムプロジェクト推進室長)、小田史子さん(中野区鷺宮すこやか福士センター所長)のエキスパート2人によるパネルディスカッションが行われた。

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 最初のテーマは超高齢社会の課題解決。秋山教授が柏市で取り組んでいるセカンドライフの就労事業について説明した。

 「これから高齢者の人口が増えるのは都市部で、特に都市周辺のベッドタウンで高齢者が増える。彼らはお元気で、知識、技術、ネットワークをお持ちだが、『何をしていいかわからない』『行くところがない』『話す人いない』という人が多いのが現状」「 家でテレビを見てゴロゴロするような生活をしていると、筋肉や脳が弱る。生産年齢人口減少が深刻になっているときに、有能な方が何もしないでいるのはもったいない。彼らは『支える側に回りたい』と願っているので、歩いて、あるいは自転車で行けるようなところで、いろいろな働き場所を作ろうということを考えた。そして、自分で時間を決めて働くという、自由な働き方ができるようにした」「柔軟な就労なスキームを作ろうということで、柏市では、農業、食、子育て、生活支援、福祉サービスなど9つの仕事場を作った」「80歳くらいまでは働くのが普通のまちを作りたい」「常に外に出て人と交わって活動する。生産者であり消費者であり納税者あるというような生涯現役の社会を実現したい」
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 辻教授は、在宅医療と連動した地域包括ケアシステムについて柏市での取り組みを紹介した。

 「東大ではAging in Place(住み慣れた地域で最期まで自分らしく老いることができる社会の実現)を提唱したが、その後、地域包括ケアシステムというほぼ同じ概念を国が推進することになった。『予防』『医療』『介護』『住宅』『生活支援』の5つのサービスを一限定に提供するシステムだ」「日本人は老いて虚弱になって亡くなるというのが一般的になったが、虚弱になって朝から晩まで病院で過ごすのは情けない。家で最期を迎えたい人はそれができるような、住まいで医療や介護のサービスが受けられるシステムに転換していこうというのが国が目指していることだ」「日常生活圏(中学校区)で住まいを中心に医療や介護や生活支援など様々なサービスが提供される。柏ではそういったモデルに取り組んだ」「医者が訪問診療をしてくれるように医師会と組んで研修プログラムを実施した。医師と、他職種との連携も進めた」「豊四季台団地の真ん中にサービス付き高齢者向け住宅を昨年5月に誘致した。1階に24時間対応の訪問看護、介護の事業所や在宅療養支援診療所などが入っており、これらは周辺地域に対してもサービスを提供する」「柏市はこうした施設を日常生活圏単位で計画的に整備していく段階に入った」「生活支援拠点にはコンシェルジェを置いて、高齢者が活動的になるような生活支援をすることもいま、検討している」

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 宮谷さんが秋山教授に質問した。

 「母親が認知症で要介護4。脳梗塞も起こして入院している。70歳を過ぎるころまでは非常に元気だったが、父親が亡くなったあたりから坂道を転げ落ちるように急に何もできなくなった。母が柏のようなところに住んでいたら、いまのようにはなっていなかったのではと思うのだが、柏市での取り組みはどのように全国に広げていこうと思っているのか」「柏市は東大と組んだが、リーダーシップを取るような団体がないような地域では、柏市のような取り組みがどのように展開されていくのだろうか」。

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 秋山教授が回答した。

 「モデル事業として3年間集中的に就労事業に取り組み、最後に、地域にどのように仕事場を作るかということ、および新しい働き方についてマニュアルを作った。これを下敷きにして、ほかのコミュニティでも就労のシステムができるようにした」「人生90年。職業生活70年と言われている。そうすると70年同じ仕事をするとは考えられない。これからの人生は二毛作、三毛作になると思う。長寿社会のニーズに対応した形で雇用制度や、教育制度などの社会のシステムを変えていかなくてはならない」「昨年暮れあたりから生涯現役社会を実現するための委員会が厚労省で立ち上がり、私も委員をしている。最終報告書案もまとまったところだが、人生70年の職業生活を送るためには若いころから自分で職業生活を設計していくという生き方をしていかなければならない。高齢期は柏の事例を具体的に報告書に盛り込み、制度化も検討するというので、柏の事例が全国に広がればいいと思う」。

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 小田さんが辻教授に質問した。

 「在宅医療と介護の連携を進めるためには、何が必要なのか、柏での経験をもとに教えてほしい」。

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 辻教授が答えた。

 「これまで専門医は病院での医療しか知らない人がほとんどで、在宅に人を割くというのは新しいことです。しかし在宅にシフトしないと、日本の病院は患者を受け止めきれなくなる」「柏市の医師会の会長は、在宅医療を医師会としてやることを決めてくれた。これが大きなポイントだった」「在宅を支えるのは看護師であり、介護士であり、ケアマネジャーだ。医師は2週間に1回くらいしかいかないが、そのときの判断とアドバイスが重要になる。医師と他の職種をだれがつなぐのかといえば、それが市町村ということになる。行政が自分がつなぎ役になるということを決意しなければいけない。柏市は市役所と医師会が、連携することに合意してくれた」「成果があったのは医師も看護師も薬剤師も同じテーブルについて議論する多職種連携研修で、これは柏市がコーディネートして実現した」「結果的にはこの仕組みが全国に広がることになり、制度改正されて、全国の市町村が介護保険の地域支援事業として、在宅医療と介護の連携を平成30年4月までに進めなければならなくなった」

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 次のテーマは、高齢者エキスパート。

 宮谷さんは「母の認知症の症状が進んだときに、もう少し知識があれば、接し方も変わっていたかもしれないと思う。超高齢社会に、あまり若い人が関心を持たないのが日本の現状のような気がする。私自身、会社に勧められて受験したが、若い人を含め周りの人に超高齢社会のこと、高齢社会検定にもっと関心を持ってもらえるようにしたい」と超高齢社会の知識の啓発活動の重要性を強調した。

 小田さんは「辻先生の講演を聞き、高齢社会検定があることを知り、受験することにした。そのためにテキストを学び、知らないこともあって、自己啓発になった。私は50代だが、人生二毛作ということで、これから何をしようか、いままでの自分の経験をどのように地域に生かせるのだろうかということを去年から考えるようになった」と、これからの人生への取り組み姿勢が変わったことを明らかにした。

 2人の発言を受け、秋山教授は「自分自身がどう生きるかということと、家族の高齢化にどう対応するかということには役に立つと思うが、もう一つは仕事をしている人や団体で活躍している人にとっても重要な知識なので、次のステップとしては、企業や団体に働きかけていかなければならないと思った」と述べた。

 辻教授は「秋山先生がおっしゃっていたことで非常に感銘を受けたのが価値観の変容ということ。人生肩書きで生きるには長過ぎる。超高齢社会は価値観の変容を伴う非常に大きな変革だと思う。そういうことを論理として学んで、人に話をすると結構重宝がられる。高齢社会のことを皆、知らない。長い人生をどう実りのあるものにするかを知っている人は、これから重宝がられると思う。皆さんもいろいろな場面で高齢社会の生き方などを説いてほしい。高齢社会エキスパートには、ぜひ活躍してもらいたい」。

 午後3時20分からは、参加者がA班からG班までに分かれて、50分のグループワークを行った。高齢社会について関心のあるテーマなどを明らかにしながら各自が自己紹介。その後、今後、検定協会に期待すること、エキスパートのネットワークなどを活用して、それぞれが取り組みたいことなどについて議論した。

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 Aグループ。ファシリテーターは岡本憲之さん。

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 Bグループ。ファシリテーターは、小田史子さん。

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 Cグループ。ファシリテーターは村山眞弓さん。

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 D班。ファシリテーターは櫻井恵子さん。

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 Eグループ。ファシリテーターは宮谷雅光さん。

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 Fグループ。ファシリテーターは村松文子さん。

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 Gグループ。ファシリテーターは有安隆さんと野村歩さん。

 時間はあっという間に過ぎ、午後4時20分から、一人2分の持ち時間でグループワーク結果報告。

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 発表資料を読み込んでスクリーンに映す準備も大忙し。

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 グループワーク結果報告は以下の通り。各グループとも発表者が2分程度で手際よく議論の要点を発表してくれた。

 Aグループ

 ◎高齢社会検定協会に期待すること

 ・若い世代に関心を持ってもらうための教育。
 (学校教育などで教育してもらう、etc...)
 ・検定の知名度を上げるための取り組み
 (マスコミの活用、行政をあげての取り組み、etc...)
 ・合格者に対するフォロー研修
  会報、スキルアップーー会費、人手?
 ◎高齢社会エキスパートとして取り組みたいこと
 ・直接参加型だけでなく、サイトを通じた交流を行う
 ・地域や企業内での広報活動

 Bグループ

 ◎高齢社会検定協会に期待すること
 ・定期的なエキスパート向けの情報発信
 最新情報、会報誌
 ・定期的なエキスパートの交流会
 +セミナー、視察など
 ・エキスパートの社会的な価値を高めてほしい
 ◎高齢社会エキスパートとして取り組みたいこと
 ・知識を同僚や地域の人に広めたい
 ・地域での活動をおこしていきたい
 ・高齢者の起業へのサポート、連携
 ・マスターズ陸上選手による
 「かけっこ出前教室」〜世代間交流〜

 Cグループ

 ◎高齢社会検定協会に期待すること
 ・認知度アップ
 ・発表の場
 ・知識・学び
 ・メリット
 ・仕事のあっせん 
 ・活動したい(分科会、etc...)
 ◎高齢社会エキスパートとして取り組みたいこと
 ・支援活動
 ・就労
 ・社会(行政)へのアプローチ
 ・企業へのアプローチ
 ・知識の習得

 Dグループ

 ◎高齢社会検定協会に期待すること
 ・全国で受験できる国家資格へ
 ・広がりを。特に若い世代へ
 ・ネットワークを作り、分科会活動を活発に
 ◎高齢社会エキスパートとして取り組みたいこと
 ・柏事例を各地域へ広げる
 ・エキスパート資格を周知する
  自己アピールと賛同者の組織化

 Eグループ

 ◎高齢社会検定協会に期待すること
 ・もっとわかりやすく
 ◎高齢社会エキスパートとして取り組みたいこと
 ・みんなと一緒に!!

 Fグループ

 ◎高齢社会検定協会に期待すること
 ・検定試験やエキスパート(資格)の認知度の向上、ツールも
 ・地域での活躍の場や情報
 ・検定料の見直す(値下げ)
 ・交流の環境(名簿等、会報誌)
 ◎高齢社会エキスパートとして取り組みたいこと
 ・地域での活躍(場のサポート)
 例:市民サポーターとして健康寿命を延ばす手伝い
 ・検定制度の紹介

 Gグループ

 ◎高齢社会検定協会に期待すること
 ・情報の発信と情報交換
 ・啓蒙活動
 ・行政への政策や制度の提言
 ◎高齢社会エキスパートとして取り組みたいこと
 ・社内啓蒙
 ・ビジネスへの広がり
  個々で出来る取り組みから
 ・世代間交流
 ・有識者の講演

 発表を受けて秋山、辻両教授が講評。

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 秋山教授「認知度のアップは初期段階では重要な課題。名刺に書いていただくのは認知度を上げるのに有効と思う」「もっとわかりやすく。今度、教科書を改訂するが、本当は中学校を卒業していれば、わかるというのがどの分野においてもインパクトのある本だと思う」「いまは検定試験の会場は東京だけだが、関西、札幌でも開催することを検討中」「意見交換会、セミナー、講演会のほか、分科会に分かれてプロジェクトを行うようなことがあるといいという意見があった。1つずつ実現していきたい」「情報発信は、まずはオンラインで、次にニューズレターというように段階的に進めればいいのではないか。フェイスブックなどを使えば双方向で情報がやり取りできる」「もっとわかりやすくということだけでなく教科書の中身を充実していきたい。専門分野をもっと掘り下げたいという意見もあった」「行政への提言は、高齢社会研究機構のプロジェクトとしてはやっているが、みなさんの生活者として、あるいは企業や行政で働く立場から意見を伺い、提言に盛り込むような形にできればいいと思う」「同じような理念をもって活動しているところと連携するという意見もあった。協会の活動を豊かにしていくためには重要だ」「ボトムアップの組織にしてほしいという意見もあった。メンバーはいろいろな専門分野をもっており、一緒にやっていきたい」「みんなで意見交換し、経験を共有しながら、みなさんのそれぞれの活動を広げていってほしい」。

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 辻教授「われわれは未知の社会に向かっている。未知への挑戦だ」「エキスパートは職場や地域で発信してもらい、少しでも仲間を増やす活動をしていただけるとありがたい。自分たちはよりよい高齢社会に向けてがんばっているというプライドがそのもとにあると思う」「東大がいかに良質な情報をエキスパートの方々に発信するかが大事だ。発信の方法としてはメーリングリストなどがあると思う。そのようなもので交流ができ、情報が発信できる。雑誌を作っていたら時間やコストがかかるので、そういった方法で広げていったらどうだろうか」「1回目、2回目に資格をとった方は未知への挑戦の決意をした人。今日を機会に、エキスパートにもムーブメントを広げるお手伝いをしてもらいたい」

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 司会進行を務めた有安隆さん。企画運営委員のリーダー。9月12日の第3回の検定試験を紹介。
 分刻みのスケジュールだったが、予定通り進行し、午後5時10分から1階談話室で懇親会。

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 80歳の竹中誉さん(企画運営委員)がエキスパートを代表して懇親会開会の挨拶。

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 乾杯!

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 企画運営委員最年少37歳の野村歩さんが中締め。

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 記念撮影(クリックすると大きな画像で見られます)

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寄付をお願いする行為は社会改革!――鵜尾雅隆著『改訂版 ファンドレイジングが社会を変える~非営利の資金調達を成功させるための原則』(三一書房)

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改訂版 ファンドレイジングが社会を変える

 鵜尾雅隆著『改訂版 ファンドレイジングが社会を変える~非営利の資金調達を成功させるための原則』(三一書房、2014年8月18日発行)を読んだ。

 2009年4月に『ファンドレイジングが社会を変える』を発行後、5年間で「善意の資金循環」をめぐる状況が大きく変わったことが改訂版を発行した理由だと鵜尾氏は言う。しかし、「様々な団体で資金集めに悩む方々に参考となる気づきやアイデアやノウハウをご提供する」狙いは変わっておらず、その部分は改訂していないという。

 これからNPO法人の設立を目指す人にとっては非常に役立つ実用的な話が書かれている。

 「ファンドレイジングとは、NPOなどが事業に必要な資金を社会から集める手段のことを指しています」。

 まず、鵜尾氏がいくつかの「原則」を紹介する。

 第1の原則=ファンドレイジングを「単なる資金集めの手段」ではなく、「社会を変えていく手段」として捉え直す。

 第2の原則=ファンドレイジングは、「施しをお願いする行為」ではなく、社会に「共感」してもらい、自らの団体の持つ「解決策」を理解してもらう行為であると考える。

 第3の原則=「よい活動をしているのに寄付などが集まらないのは、社会が成熟していないからだ」という発想を捨てる。

 第4の原則=大きな支援を得るためには、NPO自身も「つり銭型寄付」のパラダイムのみならず、「社会変革型寄付」のパラダイムを念頭に置く。

 第5の原則=日本には寄付文化がないのではなく、寄付の成功体験と習慣がないにすぎないと理解する。

 第6の原則=活動の質を高め、適切な組織マネジメントを行うことは、良いファンドレイジングの前提であると理解する。

 第7の原則=日本の寄付市場の大きな流れに乗る。

 一言で言えば、社会変革を目指すNPOならば、寄付を集めること自体が社会変革を訴える行為になるという発想に立たなければいけないということだ。

 そして、ファンドレイジングを成功に導くためのステップや技を紹介する。

 「いま一度自分たちのNPOが実現したい状況はどんな状態なのかをイメージします。そして、それを文章化します」。

 組織のビジョンやミッションについては、「『自分たちは何者で、何を目指すのか、そして何を達成したいのか』ということが、簡潔に、かつ共感を得やすい表現になっているかを再確認します」。

 「たとえば1万円で何ができます、といったメッセージに活動を集約して説明できないかという視点も重要です」。

 「『喜び』『嬉しさ』『感動』といったキーワードに引っかかる体験を洗い出して表現します」。

 

 なるほど、と思う指摘が並ぶが、特に組織作りに関するくだりは、秀逸だ。

 「ファンドレイジングの成否は、そのファンドレイジングを『是が非でも成功させたい』と考えている人が、スタッフ以外に5名から10名いるか否かで左右されることがよくあります。こうしたコアな支援者を得るためには、早めの段階での『巻き込み』がポイントです」「実際には『実行委員会』のような組織を設置し、一定期間内に3~4回程度の集まりを持つこともひとつの方法です」「この実行委員会の位置づけは、『運命共同体』として、今回のファンドレイジングの成功も失敗も共有するメンバーを特定することにあります」「ここでひとつ注意すべき点は『そもそも論ばかり言う人』『ネガティブな発言を繰り返す人』は参加させないということです」「ある程度の温度感を持って、どんどん前向きに物事を進められるチームにするということが最優先です」。

 仮にお金は集まらなくても、共感してもらうことが重要。「儲け話」をするのではなく「ビジョン」を訴える。そんな毎日を過ごしたいものだ。

 この本を読むと、NPOを実際に立ち上げてみたい、という熱い思いに駆られる。

 

 

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